質問主意書

第197回国会(臨時会)

質問主意書


質問第九号

日米共同声明に記載のない日米二国間通商交渉の内容に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成三十年十月二十四日

山本 太郎   


       参議院議長 伊達 忠一 殿



   日米共同声明に記載のない日米二国間通商交渉の内容に関する質問主意書

 平成三十年十月十三日の日本経済新聞夕刊は、インドネシア・バリ島で開催された二十カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議終了後に、ムニューシン米財務長官が記者団に対し、日米間の貿易協定に関する交渉(以下「日米交渉」という。)に関して「為替問題は同交渉の目的の一つだ」と発言し、通貨安誘導を封じる為替条項を日本にも求める考えを明らかにしたと報じている。また、為替条項は、北米自由貿易協定(NAFTA)にかわる新たな貿易協定として先日合意された「米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)」に、「為替介入を含む競争的な通貨切り下げを自制する」という形で盛り込まれており、ムニューシン氏がUSMCAでの為替条項が日本との貿易協定でモデルになると指摘したことも報じている(以下「日経夕刊記事」という。)。
 これに対し、日米交渉の日本側の責任者である茂木経済再生担当大臣は、日経夕刊記事の報道について、同月十四日のNHKのテレビ番組の中で「私のカウンターパートはライトハイザーUSTR(米通商代表部)代表だが、そこでの話し合いや先の日米共同声明には、為替の問題は入っていない」と述べる一方、「日米間で為替の話が問題になっているとは思わないが、必要な議論やコミュニケーションは財務大臣同士で緊密に行う」と述べており、日米の財務大臣間で、為替問題が議論になり得ることを示唆する発言を行っている(以下「茂木大臣のテレビ発言」という。)。
 一方、同月三日のロイター通信日本語電子版は、USMCAには、為替条項と並んで、「非市場経済国」と自由貿易協定(FTA)を結ぶことを禁止する条項(以下「非市場経済国条項」という。)が盛り込まれており、三カ国のいずれかが中国などの「非市場経済国」と自由貿易協定を結んだ場合、残りの二カ国は六カ月後に協定を離脱して二国間の協定を結ぶことができることや、三カ国のいずれかが「非市場経済国」と自由貿易協定交渉に入る場合、三カ月前に他の二カ国に通知することが義務付けられていることを報じている。
 また、同月六日のロイター通信日本語電子版では、ロス米商務長官が、非市場経済国条項について、「米国が今後締結を見込む日本や欧州連合(EU)などとの貿易協定にも取り入れる可能性があるとの認識を示した」と報じられている。
 茂木大臣は、同月十六日の毎日新聞の日米交渉に関するインタビュー記事において、去る九月二十六日の日米共同声明を踏まえ、「「最大限」ということは全体としての話であり、仮にどこかでそれより突き抜ける部分が出てきたら、違うところで、そこよりへこむ」と述べている(以下「茂木大臣のインタビュー発言」という。)。同紙は、茂木大臣の当該発言を、日米交渉において、一部の農林水産品について、米国が離脱した環太平洋パートナーシップ協定(TPP)の水準を超え、日本と欧州連合の経済連携協定(EPA)の水準まで譲歩する可能性があるとの認識を明らかにしたと報じている(以下「インタビュー発言についての報道」という)。
 一方、安倍首相は同年五月十七日の衆議院内閣委員会において、米国のTPPへの復帰に関して問われた際、「例えば農業分野においては、これはもう農家の皆様とのお約束がございますから、この農業分野において我々がこれ以上譲歩するということはないということは申し上げておきたいと思います」と答弁(以下「安倍首相の答弁」という。)しており、安倍首相の答弁は茂木大臣のインタビュー発言と齟齬をきたしていると言わざるを得ない。
 以上を踏まえて、日米交渉における為替問題を始めとした、日米共同声明に記載が存在しない事項に関して、安倍政権の認識を確認すべく、以下質問する。

一 茂木大臣のテレビ発言とは別に、茂木大臣、麻生財務大臣を含めた安倍内閣全体としては、USMCAの中に含まれたものと同様の為替条項を日米間の貿易協定に取り入れることについて、日米交渉の場で議論の対象になり得るとの認識を有しているのか、あるいは、為替条項に関しては日米交渉の中で一切議論することはあり得ないとの認識なのか、政府の認識をその理由とともに明確に示されたい。

二 政府は、中国のことを「市場経済国」であると認識しているのか、あるいは「非市場経済国」であると認識しているのか、その理由とともに明確に示されたい。

三 政府は現在、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)の締結に向け、中国を含む各国と交渉中である。そうした状況の下、前記二に関して、政府が中国のことを「非市場経済国」であると認識しており、かつ、日米交渉の中でUSMCAと同様の非市場経済国条項を日米間の貿易協定に盛り込むよう米国から求められたとした場合、政府として如何なる姿勢で日米交渉に臨むのか、政府の見解を明らかにされたい。

四 茂木大臣のインタビュー発言は、インタビュー発言についての報道のとおり理解してよいか、政府の認識を明らかにされたい。加えてインタビュー発言についての報道のとおり理解してよいとする場合、茂木大臣のインタビュー発言は安倍首相の答弁と齟齬をきたしていると考えるが、これは政府が米国に対してTPPへの復帰を求める場合と、日米交渉をする場合とでは、交渉における譲歩の水準を変えるとの意味であるのか、政府の見解を明らかにされたい。

五 茂木大臣のインタビュー発言は、すでに米国から譲歩の要請を具体的に受けていることを踏まえてのものか、あるいは、茂木大臣が独自に交渉に向けての意気込みを示したものであるのか、政府の見解を明らかにされたい。

  右質問する。