質問主意書

第196回国会(常会)

答弁書


答弁書第二〇五号

内閣参質一九六第二〇五号
  平成三十年七月二十七日
内閣総理大臣 安倍 晋三   


       参議院議長 伊達 忠一 殿

参議院議員福島みずほ君提出死刑制度における手続き的問題に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員福島みずほ君提出死刑制度における手続き的問題に関する質問に対する答弁書

一の1から11まで及び13並びに二の4から6まで及び8について

 個々具体的な死刑執行に関する事項については、答弁を差し控えたいが、一般論として申し上げれば、死刑の執行に際しては、法務大臣は、個々の事案につき関係記録を十分に精査し、刑の執行停止、再審又は非常上告の事由の有無、恩赦を相当とする情状の有無等について慎重に検討し、これらの事由等がないと認めた場合に、初めて死刑執行命令を発することとしている。
 また、刑事訴訟法(昭和二十三年法律第百三十一号)上、再審請求中であることは、死刑の執行停止事由とされていないところ、法務大臣は、死刑執行命令を発するに当たっては、再審請求がなされていることを十分参酌することとしているが、再審請求を行っているから死刑執行をしないという考えはとっていない。
 戦後、再審請求中に死刑の執行が行われた事例はあるが、個々具体的な事項については、答弁を差し控えたい。

一の12について

 お尋ねの趣旨が必ずしも明らかではないが、市民的及び政治的権利に関する国際規約(昭和五十四年条約第七号。以下「規約」という。)第六条4は、死刑を言い渡された者が特赦又は減刑を求める権利を有すること等を定めているが、再審請求中に死刑を執行することについては何ら定めておらず、再審請求中に死刑を執行することは同条4に違反するものではないと考えている。

二の1から3まで及び7について

 刑事訴訟法第四百七十九条第一項は、「死刑の言渡を受けた者が心神喪失の状態に在るときは、法務大臣の命令によつて執行を停止する。」と規定しているところ、一般に、その趣旨については、心神喪失状態にある者に対する死刑の執行は、刑の執行としての意味を有しないからであるなどとされ、同項の「心神喪失の状態」については、死刑の執行に際して自己の生命が裁判に基づいて絶たれることの認識能力のない状態をいうものと解されている。
 また、一般論として申し上げれば、死刑確定者の精神状態については、法務省の関係部局において、常に注意が払われ、必要に応じて、医師の専門的見地からの診療等を受けさせるなど、慎重な配慮がなされており、法務大臣は、このような専門的な見地からの判断をも踏まえて、心神喪失の状態にあること等の執行停止の事由の有無を判断しており、この点に関し、新たな仕組みが必要とは考えていない。

三の1について

 報道機関各社は、取材活動に基づいて得た様々な情報を、各社の判断において報道しているものと認識しているが、政府としては、法務省においては、従来から、死刑執行に関する適切な情報管理に格別の配慮を払ってきたものであり、同省として公表する前に死刑執行の事実等を外部に漏らすことはないものと承知している。

三の2並びに五の1、5及び6について

 個々具体的な死刑執行に関する事項については、答弁を差し控えたいが、一般的な取扱いとして、死刑確定者本人に対する執行の告知は、当日、刑事施設の長が、執行に先立ち行っている。
 お尋ねの「担当弁護士」、「遺体そのものを受け取るべき「死体の埋葬又は火葬を行う者」」及び「被収容者と絶縁しているような状況にあっても・・・優先されるのか」の意味するところが必ずしも明らかではないが、刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律(平成十七年法律第五十号)第百七十六条の規定により、刑事施設の長は、被収容者が死亡した場合には、その遺族等に対し、その死亡の原因、日時等を速やかに通知しなければならないとされており、これは、被収容者の遺体や遺留物(刑事施設に遺留した金品をいう。以下同じ。)等の引渡しの申請等を行う機会を保障する意味を有するものである。その上で、刑事施設及び被収容者の処遇に関する規則(平成十八年法務省令第五十七号)第九十二条第一項等の規定により、同法第百七十六条の規定による通知は、原則として、①被収容者が指定した者(一人に限る。)、②配偶者(婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む。)、③子、④父母、⑤孫、⑥祖父母、⑦兄弟姉妹等の順序に従い、先順位にある一人の者に対して行うものとされている。
 また、同規則第二十三条の規定により、死亡した被収容者の遺留物は、①から⑦までの者等のうち、最初にその引渡しを申請した者に引き渡すものとされている。ただし、同条ただし書の規定により、右に述べた順序に従いその者より先順位の者に対し同法第百七十六条の規定による通知を行った場合(その者がその遺留物の交付を申請しない旨の意思表示をしたときを除く。)において、相当の期間内に、その者からその引渡しの申請があったときは、その遺留物は、その者に引き渡すものとされている。
 さらに、同法第百七十七条第一項の規定により、被収容者が死亡した場合において、その死体の埋葬又は火葬を行う者がないときは、その埋葬又は火葬は、刑事施設の長が行うものとされており、同規則第九十四条第二項の規定により、刑事施設の長が被収容者の死体の火葬を行うときは、その焼骨は、刑事施設の長が管理し、又は使用する墓地の墳墓又は納骨堂に埋蔵し、又は収蔵するものとされている。
 これらの規定により、死刑の執行を受けた者の遺族等に対する通知及び死亡した被収容者の遺体や遺留物等の引渡しについては、その者が収容されていた刑事施設の長において、個別具体的な事情に応じて適切に行っていると認識している。

三の3について

 被害者の遺族等との連絡状況等については、答弁を差し控えたい。

四について

 恩赦法施行規則(昭和二十二年司法省令第七十八号)第一条の二第二項は、本人のみに恩赦の出願を認めている。規約第六条4は、死刑を言い渡された者以外の者について、特赦又は減刑を求める権利を有するとは規定しておらず、同規則第一条の二第二項は規約第六条4に違反するものではないと考えている。他方、再審の請求をすることができる者を定めている刑事訴訟法第四百三十九条第一項は、有罪の言渡しを受けた者が死亡し、又は心神喪失の状態にある場合に再審の請求をすることができるとされているその者の配偶者、直系の親族及び兄弟姉妹も含めて、一般に、有罪の言渡しを受けた者の利益のために再審の請求をすることができる者を定めたものと解されている。

五の2について

 御指摘の文書は、国会議員からの求めに応じて、死刑執行を受けた者の遺体の引渡し等に関する法令の規定や一般的な取扱いを説明する資料として、法務省矯正局において作成し、同議員に提供したものである。
 また、御指摘の文書には、「遺体の引き取り人について、第一順位が「被収容者が指定した者(一人に限る)」」との記載はない。

五の3について

 お尋ねの「死刑確定者が執行直前に、遺体の引き取り人を指定した」場合の記録については、矯正緊急報告規程(平成八年法務省矯総訓第五百十六号大臣訓令)により、刑事施設の長は、死刑を執行した場合には、「氏名」、「執行年月日時」、「執行状況」、「遺体の処置、引取人の住所、氏名」等の死刑の執行状況を死刑執行速報により法務省矯正局長及び当該刑事施設を所管する矯正管区の長に対して報告することとされている。
 死刑執行速報については、同規程において、お尋ねの「遺族ら」に開示することとはされていない。

五の4について

 お尋ねの「精神疾患があり日頃の意思疎通が困難な者」、「死刑の執行にあたって」、「担当弁護士」及び「取り決められている方法」の意味するところが必ずしも明らかではないが、遺体や遺留物等の引渡し等についての死刑確定者の意思の確認については、一般に、その者が収容されている刑事施設の長において、個別具体的な事情に応じて適切に行っていると認識している。