質問主意書

第196回国会(常会)

答弁書


答弁書第一九五号

内閣参質一九六第一九五号
  平成三十年七月二十七日
内閣総理大臣 安倍 晋三   


       参議院議長 伊達 忠一 殿

参議院議員石上俊雄君提出ワーク・ライフ・バランス実現に向けた施策に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員石上俊雄君提出ワーク・ライフ・バランス実現に向けた施策に関する質問に対する答弁書

一の1の(1)について

 時間外労働の上限規制等について(建議)(平成二十九年六月五日労働政策審議会建議。以下「平成二十九年建議」という。)において、新技術、新商品等の研究開発の業務は、業務の特殊性が存在することから、時間外労働の上限規制の適用除外とすることが適当とされている。平成二十九年建議を踏まえ国会に提出し、先般成立した働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律(平成三十年法律第七十一号。以下「働き方改革推進法」という。)による改正後の労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号。以下「新労基法」という。)第三十六条第十一項において新たな技術、商品又は役務の研究開発に係る業務については同条第三項から第五項まで及び第六項(第二号及び第三号に係る部分に限る。)の規定は適用しないこととされている。
 また、平成二十九年建議において、自動車の運転の業務、工作物の建設等の事業については、実態を踏まえた取扱いとすることが適当とされ、新労基法第百三十九条及び第百四十条において、工作物の建設等の事業及び自動車の運転の業務に係る新労基法第三十六条の規定の特例が定められているが、働き方改革推進法附則第十二条第二項において、政府はこれらの特例の廃止について引き続き検討するものとされており、当該規定を踏まえて対応してまいりたい。

一の1の(2)について

 平成二十九年建議において、休日労働を含まない時間外労働について、「特例として、臨時的な特別の事情がある場合として、労使が合意して労使協定を結ぶ場合においても上回ることができない時間外労働時間を年七百二十時間とすることが適当である」とされ、新労基法において時間外労働の上限規制とされたものである。

一の1の(3)について

 平成二十九年建議において、「可能な限り労働時間の延長を短くするため、新たに労働基準法に指針を定める規定を設け、当該指針の内容を周知徹底するとともに、行政官庁は、当該指針に関し、使用者及び労働組合等に対し、必要な助言・指導を行えるようにすることが適当である。当該指針には、特例による労働時間の延長をできる限り短くするよう努めなければならない旨を規定するとともに、併せて、休日労働も可能な限り抑制するよう努めなければならない旨を規定することが適当である」とされたところである。政府としては、新労基法第三十六条第七項の規定に基づき、労働時間の延長及び休日の労働を適正なものとするための指針(以下「指針」という。)を定めることとしており、労使合意や平成二十九年建議の趣旨も踏まえた指針を作成するとともに、その周知徹底を図ることが重要であると考えており、今後、適切に対応してまいりたい。

一の1の(4)について

 御指摘の労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドラインについて(平成二十九年一月二十日付け基発〇一二〇第三号厚生労働省労働基準局長通知)の別添労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドラインについては、あらゆる機会を通じて幅広く周知を図ることとしており、労働相談、集団指導等における周知、厚生労働省ホームページへの掲載、パンフレットの作成及び配布、使用者団体等に対する傘下企業等への周知についての要請等を行うとともに、監督指導時においても、当該ガイドラインに基づく適正な労働時間の把握が行われていないと認められる事業場に対して当該ガイドラインに基づく適正な労働時間の把握について指導を実施している。政府としては、引き続き、こうした取組を行ってまいりたい。
 なお、働き方改革推進法による改正後の労働安全衛生法(昭和四十七年法律第五十七号)第六十六条の八の三の規定に基づく労働者の労働時間の状況の把握義務についても、厚生労働省ホームページへの掲載、パンフレットの作成及び配布等により周知等することを検討しているところである。

一の1の(5)について

 国全体で取引慣行の適正化を図ることは重要であると考えており、特に建設工事については、公共・民間含め全ての建設工事において適正な工期設定等が行われることを目的とした建設工事における適正な工期設定等のためのガイドライン(平成二十九年八月二十八日建設業の働き方改革に関する関係省庁連絡会議申合せ)を策定するとともに、関係省庁及び民間企業に当該ガイドラインに沿った工事発注を行うよう周知徹底したところである。

一の1の(6)について

 診療報酬改定のプロセス及びスケジュールについては、年末の予算編成過程を通じて決定された改定率に基づき、中央社会保険医療協議会において、個々の診療行為に係る診療報酬点数等について審議を行う必要があること、診療報酬において評価する診療行為は、高度化・多様化しており、診療報酬の改定自体が膨大な作業であること、診療報酬の改定により医療を取り巻く諸課題にできるだけ早く対応する必要があると考えていること、必要に応じて個々の改定項目について所要の経過措置を設けていること等から、御指摘のような「前倒し」や「繰り延べ」等を行うことは難しいと考えている。

一の1の(7)について

 働き方改革推進法において、中小事業主の事業に係る割増賃金の猶予措置を廃止することとされており、その施行期日は平成三十五年四月一日とされているところである。

一の1の(8)について

 御指摘については、政府としては、労働者の健康や生活時間の確保及び事業活動の柔軟性の確保の観点を踏まえ、労使間で十分に議論が尽くされるべき問題と考えている。なお、労働基準法第三十九条第六項において、「使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、第一項から第三項までの規定による有給休暇を与える時季に関する定めをしたときは、これらの規定による有給休暇の日数のうち五日を超える部分については、前項の規定にかかわらず、その定めにより有給休暇を与えることができる」とされている。さらに、年次有給休暇の取得促進については、新労基法第三十九条第七項において、「使用者は、第一項から第三項までの規定による有給休暇(これらの規定により使用者が与えなければならない有給休暇の日数が十労働日以上である労働者に係るものに限る。以下この項及び次項において同じ。)の日数のうち五日については、基準日(継続勤務した期間を六箇月経過日から一年ごとに区分した各期間(最後に一年未満の期間を生じたときは、当該期間)の初日をいう。以下この項において同じ。)から一年以内の期間に、労働者ごとにその時季を定めることにより与えなければならない」とされている。

一の2について

 平成二十九年建議において、「勤務間インターバルについては、労働者が十分な生活時間や睡眠時間を確保し、ワーク・ライフ・バランスを保ちながら働き続けることを可能にする制度であり、その普及促進を図る必要がある。このため、労働時間等設定改善法第二条(事業主等の責務)を改正し、事業主は、前日の終業時刻と翌日の始業時刻の間に一定時間の休息の確保に努めなければならない旨の努力義務を課すとともに、その周知徹底を図ることが適当である」とされている。平成二十九年建議を踏まえ国会に提出し、先般成立した働き方改革推進法により、労働時間等の設定の改善に関する特別措置法(平成四年法律第九十号)が改正され、必要な終業から始業までの時間の設定に関する努力義務を事業主に課すこととされたところであり、労使の自主的な取組を促進してまいりたい。

一の3について

 御指摘の「高度プロフェッショナル制度」については、今後の労働時間法制等の在り方について(建議)(平成二十七年二月十三日労働政策審議会建議)において、「時間ではなく成果で評価される働き方を希望する労働者のニーズに応え、その意欲や能力を十分に発揮できるようにするため、一定の年収要件を満たし、職務の範囲が明確で高度な職業能力を有する労働者を対象として、長時間労働を防止するための措置を講じつつ、時間外・休日労働協定の締結や時間外・休日・深夜の割増賃金の支払義務等の適用を除外した労働時間制度の新たな選択肢として、特定高度専門業務・成果型労働制(高度プロフェッショナル制度)を設けることが適当である」とされ、当該制度の創設を含む働き方改革関連法案を国会に提出し、先般成立したところである。当該制度においては、対象者の健康の確保を図るため、新労基法第四十一条の二第一項第四号において、一年間を通じ百四日以上、かつ、四週間を通じ四日以上の休日を与えること等を要件としており、これらの措置が適切に実施されるよう、その周知徹底及び指導に努めてまいりたい。
 なお、裁量労働制についても、労働基準法第三十八条の三第一項第四号及び同法第三十八条の四第一項第四号において、対象業務に従事する労働者の労働時間の状況に応じた当該労働者の健康及び福祉を確保するための措置を、使用者が講じることを協定等しなければならないとされており、この措置が適切に実施されるよう、履行確保に努めてまいりたい。

二の1の(1)について

 介護休業制度は、介護休業が労働者自らが休業して家族の介護に専念するためのものではなく、介護保険サービス等を利用しながら仕事と介護を両立させるための準備を行うためのものであることから、介護休業の期間について九十三日を最低限の基準としているものである。政府としては、引き続き、制度内容の周知や都道府県労働局における適切な指導等を通じ、労働者が仕事と介護を両立しつつ、就業継続できる環境整備を進めてまいりたい。

二の1の(2)について

 社会保険においては、保険料の納付に応じて給付を行うことが原則である。育児休業中の社会保険料の免除については、育児休業が年金制度及び医療保険制度の支え手となる次世代の育成につながるものであり、免除期間に係る給付の財源を被用者保険全体で負担することについて他の被保険者及び事業主並びに医療保険者の理解が得られると考えられたため、創設したものであり、当該免除の対象期間については、保険料の納付があったものとして、給付を行うという特例的な扱いをしている。一方で、介護休業中の社会保険料の免除については、次世代育成という育児休業と同様の意義を有しているとまでは言えないと考えている。そのような理解が得られるかどうかといった観点に加え、実際に対象とした場合における年金財政及び医療保険財政への影響も踏まえて、慎重に検討すべきものと考えている。

二の2の(1)について

 育児短時間勤務制度については、育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(平成三年法律第七十六号)第二十三条第一項の規定により、事業主は、原則として、三歳未満の子を養育する労働者に関して、当該労働者の申出に基づく所定労働時間の短縮措置を講ずることが義務付けられているところであるが、これは、労働政策審議会における公労使の議論を踏まえて設けられたものである。対象となる子の年齢の引上げについては、制度利用者のキャリア形成に与える影響など制度の施行状況を踏まえて慎重に検討していくべきものと考えている。
 なお、同法第二十四条第一項第三号において、三歳から小学校就学の始期に達するまでの子を養育する労働者について、所定労働時間の短縮措置等を講ずることが事業主の努力義務とされている。
 政府としては、引き続き、これらの制度内容の周知や都道府県労働局における適切な指導等を通じ、労働者が仕事と育児を両立しつつ、就業継続できる環境整備を進めてまいりたい。

二の2の(2)について

 御指摘の「育児短時間勤務制度」については、措置内容については、一定の要件を満たせばよく、また、対象労働者については、原則として三歳未満の子を養育する労働者について適用することとされつつも、労使協定により一定の範囲内で適用対象外とする労働者を定めることができることとされている制度であり、「企業が様々な職場事情に応じて育児短時間勤務制度を導入・運用することができる」ものとなっていると考えている。

二の2の(3)について

 御指摘の「病児・病後児保育事業」については、子育てしながら就労する保護者への支援として非常にニーズが高い重要なものであると認識しており、国は、病児保育事業として、子ども・子育て支援法(平成二十四年法律第六十五号)第六十八条第二項の規定に基づき、市町村(特別区を含む。)に対し、必要な交付金を交付しているところである。
 御指摘の「医療機関併設型施設」の意味するところが必ずしも明らかではないが、病児保育事業の対象となる事業類型として、病児対応型、病後児対応型、非施設型(訪問型)等の類型を設けており、事業の実施要件として、児童の静養等の機能を持つ観察室又は安静室等を有する病院等に付設された専用スペース等で実施すること、看護師等の職員を配置すること等を定めている。
 政府としては、病児保育事業について、利用者の視点に立った利便性の向上を図るため、平成二十八年度には、保育中に体調不良となった子どもを病児保育施設まで送迎するための費用を補助するよう見直しを行っており、また、平成三十年度には、病児保育事業の安定的な運営の確保につながるよう、補助単価の見直しを行うこととしている。引き続き、病児保育事業が適切かつ円滑に行われるよう、必要な支援策を講じていく考えである。

二の3の(1)について

 障害児及び障害者(以下「障害児等」という。)とその保護者等を支援していくことは重要であると考えており、これまでも居宅訪問型保育事業や放課後等デイサービスの創設等を行ってきたところである。
 これらの取組により、障害児等とその保護者等のニーズに応じた支援は着実に進んでいるものと考えており、今後とも、放課後等デイサービス等のサービスの提供体制の確保や、保育所等での障害児の受入れを促進するための支援等を行い、障害児等とその保護者等を支援してまいりたい。

二の3の(2)について

 障害児に対して個別に通学等の移動支援を給付することについて、平成三十年度の障害福祉サービス等報酬改定において検討を行ったが、関係者間の合意が得られていないこと等から、対応を行わなかったものである。

二の3の(3)について

 政府としては、保育所等において医療的ケア児の受入れを可能とするための体制を整備し、医療的ケア児の地域生活支援の向上を図るため、平成二十九年度に、保育所等に看護師を配置する等の体制整備を行うモデル事業を創設し、また、平成三十年度には、当該事業の予算を拡充し、対象事業者数の増加を行ったところである。
 さらに、平成二十五年度から医療的ケアを行う看護師を学校に配置するために必要な経費を補助しているほか、平成二十九年度から学校と医師が連携した高度な医療的ケアを必要とする児童生徒等に対する校内支援体制の構築等を行うモデル事業を創設したところである。
 御指摘の「レスパイトケア」については、平成三十年度の障害福祉サービス等報酬改定において、医療的ケア児の短期入所での受入れを促進するため、短期入所における新たな報酬区分の創設等を行ったところである。
 引き続き、医療的ケア児の保育所等や学校での受入れ体制の整備等の促進を図ってまいりたい。

二の3の(4)について

 医療的ケア児が学校等で安心して生活できるようにすることは重要と考えており、平成三十年度診療報酬改定において、訪問看護ステーションと学校との連携を推進する観点から、医療的ケアが必要な小児の学校への入学等に際して、その訪問看護に係る情報を訪問看護ステーションから当該学校へ提供することに対する診療報酬上の評価を行ったところである。我が国の医療保険制度における訪問看護は、居宅での療養を受けたいという在宅医療に係るニーズに対応するため、疾病又は負傷により居宅において継続して療養を受ける状態にある者であって通院による療養が困難な者に対する療養上の世話又は必要な診療の補助を保険給付の対象としていること等から、御指摘の「医療的ケア児が保育園や学校で受ける訪問看護」を保険給付の対象とすることについては、慎重な検討が必要と考えている。

二の4の(1)について

 政府としては、いわゆる雇用型テレワークにおける労務管理及び情報セキュリティ対策の留意点を示すことが重要であると考えており、働き方改革実行計画(平成二十九年三月二十八日働き方改革実現会議決定。以下「実行計画」という。)を踏まえ、情報通信技術を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドラインの策定について(平成三十年二月二十二日付け基発〇二二二第一号・雇均発〇二二二第一号厚生労働省労働基準局長・雇用環境・均等局長通知)の別添一情報通信技術を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン(以下「事業場外勤務ガイドライン」という。)を発出し、また、テレワークセキュリティガイドライン(第四版)(平成三十年四月総務省作成)を公表したところであり、これらの周知啓発を行ってまいりたい。

二の4の(2)について

 御指摘の留意点については、事業場外勤務ガイドラインにおいて「自宅等でテレワークを行う際の作業環境整備の留意」として示しているところであり、政府としては事業者がこれを踏まえた対応を行うことに資するよう、厚生労働省ホームページへの掲載等を通じて具体的な対応例を示していくこと等により、自宅等でテレワークを行う際の適切な作業環境の整備を支援してまいりたい。

二の4の(3)について

 自営型テレワーク(注文者から委託を受け、情報通信機器を活用して主として自宅又は自宅に準じた自ら選択した場所において、成果物の作成又は役務の提供を行う就労をいう(法人形態により行っている場合や他人を使用している場合等を除く。)。)については、仕事内容や契約形態が多様であるため、政府としては、実行計画を踏まえ、トラブルの実態等を把握した上で、「在宅ワークの適正な実施のためのガイドライン」の改正について(平成三十年二月二日付け雇均発〇二〇二第一号厚生労働省雇用環境・均等局長通知)の別添自営型テレワークの適正な実施のためのガイドラインを発出したところであり、その周知啓発及び遵守を図るとともに、法的保護の必要性を含め、中長期的に検討を行ってまいりたい。