質問主意書

第196回国会(常会)

質問主意書


質問第二〇一号

改正農薬取締法の施行並びにその方法に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成三十年七月十九日

小川 勝也   


       参議院議長 伊達 忠一 殿



   改正農薬取締法の施行並びにその方法に関する質問主意書

 本年六月八日、農薬取締法の一部を改正する法律が成立し、同法による改正後の農薬取締法(以下「改正農薬取締法」という。)の目的として、「農薬の安全性その他の品質及びその安全かつ適正な使用の確保」が明記された。また、国際的動向等を踏まえ、定期的に安全性等の再評価を行う制度も導入されることとなった。
 他方、我が国の耕地面積当たりの農薬使用量は、他のOECD諸国よりも圧倒的に多く、多量の農薬が使用されているのが現状である。
 農薬の安全性に関する国際的動向は、農薬の使用削減も視野に入れてさらに踏み込んだものとなっている。たとえば、国際的な化学物質管理のための戦略アプローチ(SAICM)の世界行動計画には「もっとも有害性の低い農薬の調達を優先させ、過剰または不適切な化学物質(農薬)の使用を避けるための最適な手法を用いるべき」、「害虫管理について効果的で化学物質を使用しない代替方法と同様に、よりリスクの低い農薬の開発と使用及び、高度に有害な農薬の代替を推進すべき」とあり、過剰な農薬の使用を避け、農薬を使用しない代替方法を推進することが求められている。
 EU農薬指令は、予防原則に基づき、農薬使用が人の健康及び環境に及ぼす危険性及び影響力を減少させることを基本理念に掲げ、IPM及び農薬に依存しない方法の利用を促進することによって、農薬使用を最小限化するための枠組みを整備している。
 改正農薬取締法において農薬の適正な使用を確保しても、農薬の使用量を削減することにつながらなければ、人の健康や生態系の安全性は確保できないため、農薬の使用削減は、改正農薬取締法の今後の運用の中で確実に折り込まれていくことが重要である。
 以上に鑑み、以下質問する。

一 改正農薬取締法は、現行の製剤による再登録制度に代えて、同一の有効成分を含む農薬について一括して十五年ごとに安全性等の再評価を行う制度を導入し、かつ登録の有効期間の定めをなくしている。このような制度改正が農薬の安全性の確保の障害とならないようにする必要がある。同法の運用において、農薬の安全性をどのように担保していくのか、具体策を説明されたい。

二 改正農薬取締法では、農薬の有効成分の安全性等についての試験が行われることになっている。しかし、実際に販売される製品には、複数の有効成分を含むものがあるほか、有効成分以外の成分が標的ではない生物に対して害を及ぼす場合もある。また、使用者が複数の農薬を混合して使用することもあり、予期せぬ影響が生じることもあると考えられるほか、補助剤の成分や補助剤と有効成分の複合影響があることも研究により指摘されている。以上から、環境、健康、家畜等へ与える影響について製剤レベルでの安全性の確保も必須である。製剤としての安全性並びに補助剤との複合影響及び有効成分との複合影響を考慮することについて、省令に規定することも含め、どのように運用していく考えか説明されたい。

三 現行の農薬取締法では、農薬は「人畜及び水産動植物に害を及ぼすおそれがないことが明らかなもの」(第二条)とされているが、改正農薬取締法では、「人畜及び生活環境動植物(中略)に害を及ぼすおそれがないことが明らかなもの」(第三条)となっている。具体的には、どのような生活環境動植物への影響を考慮する考えか。

四 EUでは、EU農薬指令第九条に基づき農薬の空中散布が禁止されているが、日本では有人・無人ヘリコプター又はドローンを利用した農薬の空中散布が頻繁に行われている。農薬の空中散布は、農薬が広く大気中に拡散し、農作物がある田畑だけではなく、周辺の土壌や表層水にも及び、近隣の生態系全体が汚染され、広範囲に悪影響が及ぶことが懸念される。近年では、積載能力の小さいドローンでの散布のために希釈濃度を用法よりも高めた農薬の散布が行われる場合もある。我が国は農地面積が小さく、農地が住宅地や学校、保育施設に隣接する場合もあることから、改正農薬取締法の目的に照らせば、空中散布は原則禁止とするべきではないか。

五 環境省が行っている、化学物質の人へのばく露量モニタリング調査では、農薬も調査対象とされているが、使用量が増加しているネオニコチノイド系農薬についても二〇一二年報告書掲載分から調査がなされている。しかし、同調査で測定されているのは代謝物6-クロロニコチン酸のみであり、同代謝物では現在もっとも使用量の多いジノテフランのばく露量を測ることはできない。他のネオニコチノイド系農薬も6-クロロニコチン酸だけでばく露量がわかるとは到底いえない。ばく露の実態により即したモニタリング調査のために、全てのネオニコチノイド原体に加え、適切な代謝物を分析対象として追加するべきであるが、今後の方針について説明されたい。

  右質問する。