質問主意書

第196回国会(常会)

質問主意書


質問第一六三号

奄美大島における大型クルーズ船寄港地開発による社会環境への影響に関する再質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成三十年七月五日

川田 龍平   


       参議院議長 伊達 忠一 殿



   奄美大島における大型クルーズ船寄港地開発による社会環境への影響に関する再質問主意書

一 政府は二〇一八年六月一日に「奄美大島、徳之島、沖縄島北部および西表島」の世界遺産登録に向けた推薦を取り下げることを閣議了解した。報道では、政府は二〇二〇年の登録に向けて動き出したとされているが、国際自然保護連合(以下「IUCN」という。)による評価書(以下「評価書」という。)における勧告を踏まえて、二〇二〇年の世界自然遺産への当該地域の登録を目指すのが政府の基本方針であると認識してよいか。

二 評価書では、奄美大島における大型クルーズ船の誘致に関して、「the State Party provided information on the current status of a proposal for a large cruise ship base on Amami-Oshima, confirming that no specific site has been selected and no development plans are intended in the foreseen future.」との記述があるが、この記述と政府の現在の認識とは一致しており、予測できる将来において、奄美大島にはいかなる大型クルーズ船の寄港地開発計画も企画されていないものと政府は承知している、と理解してよいか。

三 前回質問(第百九十六回国会質問第一三二号)に対する答弁書(内閣参質一九六第一三二号。以下「前回答弁書」という。)の「四及び七について」において、国土交通省港湾局の「島嶼部における大型クルーズ船の寄港地開発に関する調査」(以下「本調査」という。)に関し、「政府としては、寄港地調査の結果を踏まえ、寄港地開発の具体化に向けて、地元自治体と連携しつつ検討してまいりたい。」と答弁しているが、この答弁は、前記二で示した評価書における記述と明らかに矛盾しているのではないか。

四 前回答弁書の「四及び七について」において、「政府としては、寄港地調査の結果を踏まえ、寄港地開発の具体化に向けて、地元自治体と連携しつつ検討してまいりたい。」と答弁しておきながら、同じく「九及び十一から十四までについて」においては、「クルーズ船の寄港地の開発については、それぞれの地元自治体において判断されるべきものと考えている。」と詭弁を弄した答弁をしているが、前回質問の趣旨は、政府として奄美大島における大型クルーズ船の寄港地開発の具体化に向けた検討を断念すべきではないか、ということである。この趣旨を踏まえて、はぐらかさずに改めて答弁されたい。

五 前回答弁書の「二について」において、本調査のモデルケースとして奄美大島及び徳之島を選んだ理由の一つとして「外国人の受入れが可能な一定規模の人口を有する島」という条件を満たしていることが挙げられているが、奄美大島は、大型クルーズ船の受入れが可能な人口を有していると国土交通省は判断しているのか。

六 前回答弁書の「四及び七について」において、「寄港地調査においては、クルーズ船の利用客が奄美大島の自然環境に与える影響については特段の分析を行っていない。」と答弁しているが、当該分析を行う必要性はないと環境省は考えているのか。

七 西表島では、国立公園の核心エリアに多くの観光客が入り、自然環境に深刻な悪影響が出ている事例が既に発生していると承知しているが、西表島における自然環境の過剰利用、いわゆるオーバーユースの実体を、環境省はどのように把握しているか。

八 前回答弁書の「九及び十一から十四までについて」において、「国際自然保護連合において延期の勧告がなされた理由は、推薦区域の設定について、主に、推薦地の連続性の観点で、沖縄県の北部訓練場返還地が重要な位置付けにあるが、現段階では推薦地に含まれておらず、また、各島の中の推薦地は連続性に欠け、遺産の価値の証明に不必要な、分断された小規模な区域が複数含まれているという課題があるとされていることである」と答弁しているが、IUCNはこの他に「the State Party pursue the activation of the tourism development plan and visitor management plan for key tourism development zones and attraction areas, according to their interest to visitors and carrying capacities, including the installation of adequate visitor control mechanisms, tourism management facilities, interpretation systems, and monitoring arrangements.」という重要な内容を勧告しているにもかかわらず、これを意図的に無視して答弁した理由を明らかにされたい。

九 前記八で示した勧告は、大型クルーズ船の観光客を含めたすべての観光利用を管理することを強く求めているのではないか。政府としては、この勧告に対して、奄美大島において具体的にどのように対応していく計画なのか。

十 前回答弁書の「九及び十一から十四までについて」に関し、寄港地開発の候補地が世界自然遺産推薦区域から外れていても、大型クルーズ船の観光客の奄美大島での行動は、国内外の外来生物の非意図的導入など、世界自然遺産推薦区域に間接的ではあるが深刻な悪影響を及ぼす可能性があることを懸念すべきではないか。

十一 評価書は、鹿児島県が「奄美群島持続的観光マスタープラン」を作成していることを取り上げ、沖縄県ではそのようなものを作成していない事実に触れているが、これはIUCNが世界自然遺産の登録地における観光政策の指針として、鹿児島県作成のマスタープランを評価し、同様の持続可能な観光政策の作成を他県にも促していると解釈できる。この鹿児島県作成のマスタープランの基本理念は、国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」を踏まえて我が国が策定した「SDGsアクションプラン二〇一八」の考え方と通底しており、国土交通省もまたその理念を共有する形で「持続可能な観光政策のあり方に関する調査研究」をまとめている。世界自然遺産の登録地における観光利用と自然遺産の保全を調和させる考え方として、この調査研究で示された持続可能な観光政策を積極的に採用していくべきではないか。

十二 前回答弁書の「十について」では、WWFジャパンが作成した南西諸島生物多様性優先保全地域地図(BPAマップ)について、政府が作成したものではないことからコメントは差し控えたい旨答弁した。しかし、BPAマップはWWFジャパンが環境省所管の財団法人であった当時に作成した科学的なデータであり、そのことを監督官庁たる同省は認識していたはずであるから、単に「政府が作成したものではない」としてコメントしないのは適当ではない。そこで改めて問うが、BPAマップにおいて、奄美大島の大型クルーズ船寄港地開発の候補地のうち既存港湾を除くほとんどの地点が、生物多様性優先保全地域または重要地域に含まれていることについて、環境省としての見解を明らかにされたい。

  右質問する。