質問主意書

第196回国会(常会)

質問主意書


質問第一二一号

成年後見制度の運用実態の基礎情報等に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成三十年六月五日

川田 龍平   


       参議院議長 伊達 忠一 殿



   成年後見制度の運用実態の基礎情報等に関する質問主意書

 成年後見制度は、判断能力が低い人への財産保護制度であるとこれまで説明されてきた。しかし、財産保護の要となるはずの取消権が実際にはほとんど行使されていないとの指摘があり、取消権行使後に契約の相手方から財産が返還されないケースも少なくないようである。これでは、財産保護制度としての利点の大部分が消失しているに等しい。
 また、成年後見制度は、運用において看過できない問題が指摘されている。最近も成年後見人等による不正行為が繰り返し報道されており、専門職後見人が成年被後見人の公共料金を滞納するケースなども複数件確認されている。そうしたなか、成年被後見人及び介護家族の大部分は、成年被後見人自身の預金通帳であるのにもかかわらず、成年後見人から預金通帳を見せてもらえず、自身の財産がどうなっているのかがわからないと不安を抱えながら生活されていると聞いている。さらに、成年後見人から自らの報酬額を伝えられることは少なく、仮に預金通帳を見ることができたとしても、財産が何にどれくらい使われているのかが不明な状態にされていることもあると聞いている。
 それだけでなく、成年後見人が成年被後見人の意思に反して成年被後見人名義の家屋を売却し、成年被後見人を施設に入所させてしまうケースが各地で散見されているとも聞く。こうしたケースでは、成年後見人が下した決定こそが唯一法的に有効とされてしまうため、成年被後見人本人の意向に沿った支援をする術が皆無の状態になってしまう。
 以上の問題の解決に向けては、第一に成年後見制度の運用実態の把握が急務と考えるため、必要な基礎情報等について質問する。

一 過去三年の成年後見人、保佐人及び補助人(以下「成年後見人等」という。)の候補者の選任数と選任率をそれぞれ後見人、保佐人、補助人の三類型(以下「類型」という。)別に明らかにされたい。

二 過去三年の成年後見人等の解任と辞任の件数をそれぞれ類型及び弁護士、司法書士等の職種別に明らかにされたい。

三 過去三年の成年後見人等による取消権行使の件数を明らかにされたい。また、成年後見人等が取り消した法律行為の種別ごとにその件数及び取消権行使の件数全体に占める割合を明らかにされたい。さらに、成年後見人等が取り消した法律行為が、成年被後見人が自身の財産を移転する契約であった場合に、当該契約の相手方から財産が返還された割合を明らかにされたい。

四 専門職後見人は、一人で約五十件を受任している者がいるが、成年後見業務を行う者一人当たりの受任件数について、当該者の類型及び職種別に各裁判所の最大受任件数及び受任件数の中央値、平均値を最新の統計に基づいて明らかにされたい。

五 成年後見人等の月額報酬額(付加報酬を含む。)について、実際に支払われている額について把握するところを成年後見人等の類型及び職種別に最新の統計に基づいて明らかにされたい。また、各裁判所における最高額の報酬を成年後見人等の類型及び職種別に最新の統計に基づいて明らかにされたい。

六 過去三年の個々の成年被後見人の財産被害額について、最高被害額及び被害額の中央値、平均値を明らかにされたい。

七 過去三年の成年後見人等による成年被後見人の居住用不動産の処分(売却)件数について、成年後見人等の類型及び職種別に明らかにされたい。

八 成年後見人等による成年被後見人本人や主たる介護家族に対する成年被後見人の預金通帳の原本開示の現状について政府は把握しているか明らかにされたい。また、成年被後見人本人や主たる介護家族から要求があった場合の預金通帳の原本開示を成年後見人等に義務付けるべきではないか。

九 成年後見人等による成年被後見人本人や主たる介護家族への成年後見人報酬額の開示の現状について政府は把握しているか明らかにされたい。また、成年被後見人本人や主たる介護家族から要求があった場合の報酬額の開示を成年後見人等に義務付けるべきではないか。

十 内閣府成年後見制度利用促進委員会事務局が作成した資料「成年後見人等による不正報告件数・被害額(平成二十三年~平成二十七年)」では、専門職以外の後見人による不正行為は、件数及び被害額ともに専門職後見人よりも大きいこととされている。しかし、裁判所への使途明細の報告義務は専門職以外の後見人だけに課されており、専門職後見人には課されていないことが指摘されている。財産使途の調査方法は、専門職以外の後見人と専門職後見人とでは異なるため、専門職以外の後見人と専門職後見人で不正行為の発生を単純比較することはできないと考えるが、政府の見解を明らかにされたい。

  右質問する。