質問主意書

第196回国会(常会)

質問主意書


質問第六九号

国連人権対日審査の勧告に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成三十年四月十日

川田 龍平   


       参議院議長 伊達 忠一 殿



   国連人権対日審査の勧告に関する質問主意書

 二〇一七年十一月に国連人権理事会の人権状況審査「普遍的・定期的レビュー(UPR)」作業部会で、オーストリア、ポルトガル、ドイツ、メキシコの四カ国から、福島の高放射線地域からの自主避難者に対する支援の継続、再定住に関する意思決定過程への住民の参画、許容放射線量を年間一ミリシーベルト以下に戻すこと、医療サービスへのアクセスの保証などが日本政府に対して勧告され、日本政府は本年三月十九日、四つの勧告すべてについてフォローアップすることに同意した。この同意は、福島第一原発事故による被害を受けた当事者を始め、二月七日の衆議院、三月八日の参議院それぞれの議員会館での集会などで政府に働きかけをした日弁連やNGO、市民による活動の成果だと思う。しかし、同意にあたり政府は、自主避難者に対してすでに「必要な支援を行っている」との見解を示しており、あきらかに事実と異なるので、以下、質問する。

一 UPR作業部会におけるポルトガルからの「福島第一原発事故の全ての被災者に国内避難民に関する指導原則を適用すること」という勧告に従い、国内避難民に関する指導原則「Guiding Principles on Internal Displacement」を、福島第一原発事故の避難者を受け入れている全国の自治体に対して周知すべきと考えるが、政府の見解を明らかにされたい。

二 UPR作業部会においてオーストリアは「福島の高放射線地域からの自主避難者に対して、住宅、金銭その他の生活援助や被災者、特に事故当時子供だった人への定期的な健康モニタリングなどの支援提供を継続すること」を勧告している。日本政府は、この勧告をフォローアップすることに同意し、「「東京電力原子力事故により被災した子どもをはじめとする住民等の生活を守り支えるための被災者の生活支援等に関する施策の推進に関する法律」などに基づき、必要な支援を行っている」としているが、自主避難者への住宅支援はすでに打ち切られている。同国の勧告をフォローアップすることに同意するならば、困窮の度合いを深めている自主避難者への住宅支援を再開するべきではないか。

三 東京電力原子力事故により被災した子どもをはじめとする住民等の生活を守り支えるための被災者の生活支援等に関する施策の推進に関する法律第二条第二項では、基本理念として「被災者生活支援等施策は、被災者一人一人が(中略)移動前の地域への帰還についての選択を自らの意思によって行うことができるよう(中略)適切に支援するものでなければならない」としている。少なくとも、前記二の自主避難者への住宅支援の打ち切りによって、移動前の地域への帰還についての選択を自らの意思によって行うことができなくなったケースがないかどうか、政府は実態調査を行うべきではないか。

四 UPR作業部会におけるオーストリアによる「特に事故当時子供だった人への定期的な健康モニタリングなどの支援提供を継続すること」との勧告について、日本政府は「福島県は、県民健康調査などを行っている」と回答しているが、福島県外への避難者は調査対象となっておらず、同国による勧告で求められた対策を忠実に実施していないのは明らかである。県民健康調査の内容や実施方法などの決定に当たっては、有識者の意見だけで決めるのではなく、福島第一原発事故当時の子どもの保護者への意向調査を含め、当事者の参画をはかるべきではないか。

五 福島県の「県民健康調査」検討委員会では、甲状腺検査を学校検診で行うことを疑問視し、当該検査を縮小すべきとの意見があるようだが、チェルノブイリ原発事故から得られた知見を持ち出すまでもなく、福島第一原発事故の被災者一人一人を救済し、二〇一一年から始めたこの県民健康調査の疫学的な価値を損ねないためにも、当該検査の縮小は絶対にするべきではないと考えるが、政府の見解はいかがか。

六 政府として、県民健康調査の意義をどのように理解しているのか。

七 学校検診での甲状腺検査をやめると、県民健康調査の意義が損なわれるのではないか。

八 吉野復興大臣は、本年三月七日、フォーリン・プレスセンターで行った講演で、「放射線に関して世界の科学者は、百ミリシーベルトを超えて浴びると発がんの知見がある。でも、百ミリシーベルト以下は知見がない、というふうに言われております」と発言した。しかし、ランセット・ヘマトロジー誌二〇一五年七月号に掲載された、厚生労働省が資金提供している「放射線モニタリングを受けた作業者(INWORKS)における電離放射線と白血病およびリンパ腫の死亡リスク:国際コホート研究」では、放射線が年間百ミリシーベルト以下でも、がんの過剰リスクは直線的に増加すると結論づけられている。同調査の結果を踏まえ、吉野復興大臣は前記発言を訂正すべきではないか。

  右質問する。