質問主意書

第196回国会(常会)

質問主意書


質問第六三号

精神障害者の非自発的入院と障害者権利条約の趣旨に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成三十年四月六日

川田 龍平   


       参議院議長 伊達 忠一 殿



   精神障害者の非自発的入院と障害者権利条約の趣旨に関する質問主意書

一 精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(以下「精神保健福祉法」という。)に規定された措置入院制度は、障害者の権利に関する条約(以下「障害者権利条約」という。)の趣旨に違反するのか、又はしないのか、その理由も含めて政府の見解を示されたい。

二 精神保健福祉法に規定された医療保護入院制度は、障害者権利条約の趣旨に違反するのか、又はしないのか、その理由も含めて政府の見解を示されたい。

三 心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律に規定された入院処遇及び通院処遇は、障害者権利条約の趣旨に違反するのか、又はしないのか、その理由も含めて政府の見解を示されたい。

四 これからの精神保健医療福祉のあり方に関する検討会第一回医療保護入院等のあり方分科会(二〇一六年三月十一日)では、障害者権利条約を批准したときに整理した、精神保健福祉法に定める非自発的入院(措置入院制度及び医療保護入院制度)は障害者権利条約に違反しない旨の政府解釈を改めて確認している。他方で、障害者権利条約に基づき国連に設置された、障害者の権利に関する委員会(以下「障害者権利委員会」という。)が出した「一般的意見第一号」には、障害者権利条約第十四条を侵害する慣行として、精神障害を理由とした法的能力の制限と精神障害を理由とした非自発的入院が明示されており、また同委員会が出した「十四条ガイドライン」には、精神障害に加えて他の理由も要件とするものも含め、非自発的入院を許す法条項は障害者権利条約の趣旨に違反することが明示されている。こうした「一般的意見第一号」や「十四条ガイドライン」をうけて、障害者権利条約を批准したときの前記政府解釈を変更する予定はあるのか、政府の見解を示されたい。

五 障害者権利委員会が行う締約国政府からの報告の審査では、ほとんどの締約国が、精神障害に加えて他の理由も要件とする非自発的入院制度について障害者権利条約違反である旨の重大な懸念及び勧告を出されている。日本政府も間違いなく同様の指摘をうけることになると考えられるが、仮に諸締約国と同様の指摘をうけたとしても、なお日本政府は、障害者権利条約を批准したときの前記政府解釈を変更しないのか、政府の見解を示されたい。

六 日本政府は、精神保健福祉法に定める非自発的入院が障害者権利条約の趣旨に違反するかどうかについて「障害者権利条約第十四条は自由の剥奪が障害の存在のみにより正当化されないことを確保した規定である」旨の解釈を示しているが、一方、第百九十三回国会の参議院厚生労働委員会における参考人質疑(平成二十九年四月十三日)で、池原毅和参考人は障害者権利条約第十四条について、「権利条約の策定の過程で日本政府が精神障害のみを理由とした強制入院は許されないという規定にできないだろうかという提案をしたが、それが否定された結果、現在の規定になった」旨の発言をしている。池原参考人の発言を踏まえると、前記の障害者権利条約第十四条についての政府解釈は妥当ではないと思われるが、これについて政府の見解を示されたい。

七 日本政府は、精神保健福祉法に定める非自発的入院が障害者権利条約の趣旨に違反するかどうかについて「強制入院の禁止についても検討されたが、各国の反対により強制入院の一律の禁止については規定しないこととされた」と説明しているが、これは強制的な医療侵襲を否定した、拷問等の禁止(障害者権利条約第十五条)や不可侵性の保護(同第十七条)に結実した議論の途中で確認されたことであり、身体の自由と安全を規定した障害者権利条約第十四条の議論の中で確認されたことではないものと考えるが、政府の見解を示されたい。

  右質問する。