質問主意書

第196回国会(常会)

質問主意書


質問第六一号

カンボジアにおける法の支配の危機に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成三十年四月六日

川田 龍平   


       参議院議長 伊達 忠一 殿



   カンボジアにおける法の支配の危機に関する質問主意書

 国連の「持続可能な開発目標」(SDGs)の目標十六では、「平和と公正をすべての人に」とし、「国家及び国際的なレベルでの法の支配を促進し、すべての人々に司法への平等なアクセスを提供する」、「あらゆるレベルにおいて、対応的、包摂的、参加型及び代表的な意思決定を確保する」、「国内法規及び国際協定に従い、情報への公共アクセスを確保し、基本的自由を保障する」ことを目標に定めている。
 法務省を中心に、日本が二十年以上にわたって民法や民事訴訟法の整備を支援してきたカンボジアでは、昨年最大野党が解散させられ、野党幹部の政治活動が禁じられており、その中で行われた本年二月二十五日の上院議員選挙では、与党が全改選議席を独占してしまった。また多くの独立系メディアも閉鎖に追い込まれている。他にもカンボジアでは数々の人権侵害が行われていることがNGOによって指摘されているところであり、日本と自由、民主主義、基本的人権、法の支配といった普遍的価値を共有する国家に踏みとどまることができるか、まさに正念場を迎えている。カンボジアにおける法の支配が危機に瀕しているとの懸念から、以下、質問する。

一 安倍政権は、自由、民主主義、基本的人権、法の支配といった普遍的価値を共有する国々との関係を深める「価値の外交」を標榜しているが、今のカンボジアはこれら普遍的価値を日本と共有している国であると認識しているか。

二 法の支配を通じた民主主義の定着には一定程度の時間を要することは承知しているが、カンボジアに対する二十年以上にわたる司法支援の成果の検証を、この際行うべきではないか。特に、日本の支援で整備された法体系が広くカンボジア市民の生活向上に役立ってきたのか、また司法関係者への能力開発支援がカンボジアにおける司法の独立性の強化に貢献できたのかどうかを検証することを通じて、日本の司法支援がカンボジアにおける法の支配の確立に貢献できたのかどうかを明らかにすべきではないか。

三 世界中の国際会議においてNGOやCSOとのパートナーシップや参加が主流化したのは、カンボジア復興閣僚会議が嚆矢である。いまそのカンボジアにおける法の支配が危機に瀕しているからこそ、日本政府はカンボジア復興閣僚会議の共同議長国を務めた原点に戻って、これ以上事態を悪化させないよう、日本やカンボジアの市民社会組織と手を携えて、世界規模での市民社会の悪化、劣化の連鎖をカンボジアにおいて食い止めるべきではないか。

四 前記三に当たっては、JANICの谷山理事長が述べているように、「四半世紀の紛争を終結に導いたパリ和平協定の原則、国際合意、あるいは、CSOの開発効果・援助効果に関する国際合意、そしてSDGsの目標十六である「市民社会の自由権」に基づいて」、カンボジア政府に働きかけを行うべきではないか。

五 NGO・外務省定期協議会などの定期的な協議の場が持たれていることは評価しているが、具体的な案件についての市民社会組織との議論は不十分だと考える。カンボジアへの選挙改革支援の実態と方向性などについて、市民社会組織や民間の専門家も含めて深い議論をする場を設けるべきではないか。

六 本年七月に予定されているカンボジアの総選挙は、現在の状況が続けば実質的に野党の候補者がいない中で実施され、与党の人民党が圧勝すると思われる。その時にフン・セン首相は、日本の選挙改革支援のおかげで自由で公正な選挙が実施できたと公言すると思われるが、その場合に日本政府は、自らが三年近く支援した総選挙を否定することもできず、同時に総選挙がカンボジア国民の意思を反映した自由で公正なものであったと認めるわけにもいかず、極めて難しい立場に置かれるのではないか。そのような事態に陥ることを防ぐため、現在のカンボジアへの選挙改革支援の在り方を緊急に見直すべきではないか。

  右質問する。