質問主意書

第196回国会(常会)

質問主意書


質問第二三号

生活保護受給者への後発医薬品使用原則化に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成三十年二月二十一日

山本 太郎   


       参議院議長 伊達 忠一 殿



   生活保護受給者への後発医薬品使用原則化に関する質問主意書

 生活保護法(昭和二十五年法律第百四十四号)第三十四条第三項は、医師又は歯科医師に対して、生活保護受給者(以下「被保護者」という。)に投薬する際に、後発医薬品を「使用することができると認めたものについては、被保護者に対し、可能な限り後発医薬品の使用を促すことによりその給付を行うよう努めるものとする」として、被保護者への後発医薬品の積極使用を法律によって促している。さらに政府は、被保護者に対し原則として後発医薬品により給付を行うものとすること等を内容とする生活保護法の改正を含む、生活困窮者等の自立を促進するための生活困窮者自立支援法等の一部を改正する法律案(第百九十六回国会閣法第二〇号。以下「本法律案」という。)を今国会に提出している。本法律案が成立し施行された場合、被保護者本人の意向に反して後発医薬品が使用される事態が発生することが懸念される。これらを踏まえて、被保護者への後発医薬品使用を促進するだけでなく使用を原則とすることについて、安倍内閣の認識を確認すべく、以下質問する。

一 現行の生活保護法においても、被保護者に対して「可能な限り後発医薬品の使用を促すことによりその給付を行うよう努めるものとする」として後発医薬品使用促進の努力義務を課しているにもかかわらず、これをさらに進めて、本法律案において後発医薬品による給付を原則とする理由は何か、明確に示されたい。

二 平成二十九年六月九日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針二〇一七」では、「二〇二〇年(平成三十二年)九月までに、後発医薬品の使用割合を八十%とし、できる限り早期に達成できるよう、更なる使用促進策を検討する。」としているが、被保護者における後発医薬品の使用割合を八十%とするのも二〇二〇年(平成三十二年)九月までを目標として定めているとの理解でよいか、安倍内閣の認識を示されたい。また、これと異なる目標があるとする場合は、その理由とともに目標年限を具体的に示されたい。

三 前記二に関して、本法律案が成立し施行されることにより、被保護者の後発医薬品の使用割合が政府目標に達した場合、それによる医療扶助費削減効果は年間何億円規模となるのか、また、それは社会保障関係費のうち何%を占める規模と予測されるのか、現時点で試算をしているのであれば、その具体的金額及び百分率を、根拠とともに明示されたい。

四 本法律案が成立し施行されること、すなわち被保護者への後発医薬品による給付を原則とするということは、被保護者に対して後発医薬品の使用を原則として義務付けることであるとの理解でよいか、安倍内閣の認識を明確に示されたい。

五 被保護者への後発医薬品による給付を原則とすることは、被保護者に対して被保護者本人の意向に反した薬剤が投与される可能性も否定出来ないとの理解でよいか、安倍内閣の認識を明確に示されたい。加えて、政府の認識がこの理解と同じである場合、薬剤の処方に関して処方医による特別の指示がないとき、被保護者本人の意向及び服薬する薬剤の選択の自由が妨げられる可能性があるとの理解でよいか、安倍内閣の認識を明確に示されたい。

六 平成二十年五月十三日に福田内閣(当時)において閣議決定された「衆議院議員山井和則君提出ジェネリック医薬品と生活保護に関する質問に対する答弁書」(内閣衆質一六九第三三一号)の一及び三についてで、「生活保護受給者については、通常、医療に係る患者負担が発生せず、後発医薬品を選択する動機付けが働きにくい状況であるため、必要最小限度の保障を行うという生活保護法(中略)の趣旨・目的にかんがみ、調剤の給付の決定を行う際には、処方医が医学的な理由があると判断した場合を除き、福祉事務所が生活保護受給者に対して、後発医薬品を選択するよう求めることとし」とあるが、安倍内閣においても当該政府見解を変更することなく、この見解に基づいて被保護者に対して後発医薬品使用を促す政策を継続しているとの理解でよいか。

七 前記六に関して、「医療に係る患者負担が発生せず、後発医薬品を選択する動機付けが働きにくい状況である」との政府見解を、安倍内閣においても変更しないとする場合、同政府見解にある状況は被保護者の場合にのみ該当するのか、あるいは、被保護者以外の医療に係る患者負担が発生しない者、例えば、公費により医療費助成を受けている子ども、難病医療費助成制度対象患者、心身障害者医療費助成制度対象患者あるいは公害健康被害者に対する医療費公費負担制度対象者についても該当し得るのか、安倍内閣の見解を明確に示されたい。加えて、「医療に係る患者負担が発生せず、後発医薬品を選択する動機付けが働きにくい状況」が、被保護者以外の医療に係る患者負担が発生しない者には該当せず、被保護者の場合にのみ該当するものであるとの見解である場合、その具体的根拠を明示されたい。

八 平成二十八年度診療報酬改定で実施された後発医薬品の使用促進策を検証する目的で行われた「後発医薬品の使用促進策の影響及び実施状況調査報告書」(平成二十九年度調査)のうち、患者の「ジェネリック医薬品に関する使用意向」では、「いくら安くなっても使用したくない」という患者が十二・一%存在することが明らかとなった。その理由を問うたところ「ジェネリック医薬品の効き目(効果)や副作用に不安があるから」が六十一・九%、「使いなれたものがいいから」が四十四・八%であり、さらに前者にその不安のきっかけを問うたところ「ジェネリック医薬品に切り替えて、効き目が悪くなったことがあるから」、「ジェネリック医薬品に切り替えて、使用感が悪くなったことがあるから」がそれぞれ十・五%であった。
 本法律案が成立し施行された場合、「ジェネリック医薬品の効き目(効果)や副作用に不安があるから」あるいは「使いなれたものがいいから」との理由によって、先発医薬品を選択する自由が、妨げられることとなり得るのか、安倍内閣の認識を明確に示されたい。

九 日本国民のうち被保護者に対してのみ原則として後発医薬品による給付を行うことを法制化することは、被保護者に対する差別であり、被保護者本人の服薬する薬剤の選択の自由を侵害しかねないものであることから、被保護者の自己決定権を否定する人権侵害であると言わざるを得ず、日本国憲法第十三条「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。」及び第十四条「すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。」に反すると考えるが、安倍内閣の認識を明確に示されたい。

十 国策として後発医薬品使用促進策を推進するため、被保護者に対してのみ原則として後発医薬品による給付を行うことを法制化するのであれば、それ以前にまず後発医薬品使用促進策を推進している政府関係者に対して後発医薬品の原則使用を法制化し徹底させるべきと考えるが、安倍内閣としての認識は如何か。

十一 前記二、七及び十に関して、被保護者以外の医療に係る患者負担が発生しない者及び政府関係者に対しては原則として後発医薬品による給付を行うことを法制化しない一方で、被保護者に対してのみ原則として後発医薬品による給付を行うことを法制化する施策を講ずることは、国民に対して「後発医薬品は医療扶助費削減の目的で被保護者に強制的に使わせる安物である」といった印象を与えることに繋がりかねず、政府の「二〇二〇年(平成三十二年)九月までに、後発医薬品の使用割合を八十%とし、できる限り早期に達成」との目標に、むしろ悪影響を及ぼしかねないと考えるが、安倍内閣の認識は如何か。

  右質問する。