質問主意書

第195回国会(特別会)

質問主意書


質問第四一号

我が国の電線関連産業の持続的発展に向けた施策に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十九年十二月八日

石上 俊雄   


       参議院議長 伊達 忠一 殿



   我が国の電線関連産業の持続的発展に向けた施策に関する質問主意書

 我が国の電線関連産業は、これまでエネルギー及び情報伝達の担い手として、電力・通信・電気機械・建設等あらゆる国内産業を支え、我が国全体の経済発展や国民生活の向上に多大な貢献をし、また、国際競争の激化する昨今においては、自ら、産業維持・発展のために最先端技術である超大容量の海底光ケーブルや送電ロスの大幅低減を可能にする超電導電力ケーブル等、高度な製造力・技術開発力を強化しつつ、同時に業態としては、ワイヤハーネス等の自動車分野、電子部品等のエレクトロニクス分野等へと幅広い事業多角化にも打って出る等のビジネスイノベーションにも挑戦し続けている。
 しかしながら、従来主流であった銅電線・ケーブルの国内市場はすでに成熟し、光ファイバを中心とした光製品も海外向けは繁忙を期すものの、国内向けは光ネットワーク網が利用者全般に行き渡っていることや海外製品との価格競争も相まって需要環境は著しく厳しい状況にある。企業存続のための事業再編・構造改革等の結果、電線関連産業の雇用の不安定さがこれ以上増大するようなことがあれば、同産業が支えてきた我が国のものづくり基盤も大きなダメージを受けかねない。また、経済産業省が掲げる政策「コネクテッド・インダストリーズ(Connected Industries)」においては、どの産業、どの技術をつなげるといかなるイノベーションが生まれるかという観点に関心が向けられがちであるが、そもそもそれらをつなぐ電線・ケーブルがなければ何も始まらないのは自明の理である。その意味では「電線なくして産業の未来なし。産業の未来なくして豊かな国民生活もなし。」とも考えられるわけで、我が国の電線関連産業の持続的発展に向けた施策に関して、以下のとおり質問する。

一 環境配慮型の技術や電線・ケーブルの普及促進について

1 最適導体サイズの設計技術やダブル配線化等の環境配慮型技術の積極的な普及推進
 電力需給がひっ迫する中、電線・ケーブルの最適導体サイズの設計技術(ECSO:Enviromental and Economical Conductor Size Optimization)や既設ケーブルを残し、同一サイズ・同一長さのケーブルを新たに並列に配線するダブル配線化等の環境配慮型技術は、省エネルギーや二酸化炭素の削減、設備のイニシャルコストだけでなくランニングコスト等も含めたライフサイクルコスト最小化の観点から、社会全体への普及を推進するべきと考えるが、政府の見解及び取組みを明らかにされたい。
2 エコマテリアル電線、超電導電力ケーブル等の環境配慮型電線・ケーブルの積極的な普及推進
 これまで電線・ケーブルを廃棄する際、有価物である銅やアルミニウムは回収・リサイクルされる一方、被覆材の多くは焼却されてきたが、被覆材の素材であるポリ塩化ビニル等はハロゲン等を含有しているため、燃焼時にハロゲン系ガスや有害なダイオキシンを発生させ、また、安定剤として鉛等の重金属を含む場合には土壌汚染や地下水汚染の原因となる可能性があった。こうした問題の解消には、ハロゲンや鉛等を含まずリサイクルし易い材料で構成されたエコマテリアル(EM:Ecomaterial)電線・ケーブルの社会的普及が重要であり、その推進には、例えば、公的機関が自ら計画・実施する電線・ケーブルの新設工事において積極的にEM電線・ケーブルを採用すること等が有効と考えられる。また、超電導電力ケーブルは、超電導状態における電気抵抗ゼロの性質を利用して電力損失の大幅低減を可能にする究極の環境配慮型技術であり、これら夢の新技術を早期に実用化するための開発支援・普及推進を積極的に行うべきと考えるが、政府の見解及び取組みを明らかにされたい。

二 IoT技術や蓄電池システムを活用したスマートグリッドの構築について

 環境と経済の両立が可能な低炭素社会の実現には、家庭や企業等を結んだ電力網を利用し、双方向に効率よく電力を流すことができる次世代送電網(スマートグリッド)の構築が必要である。そしてスマートグリッドの構成要素としては、安定した電力供給に貢献する蓄電池システムやIoT(モノのインターネット)技術等があるが、IoT技術におけるセキュリティ対策の確立や、蓄電池システムの大容量化・低コスト化・高効率化等が課題である。こうした技術課題・目標を定期的にレビューし、社会全体で共有すべきロードマップを更新し続けることで、IoT技術や蓄電池システムを活用したスマートグリッドの構築を強力に推進するべきと考えるが、政府の見解及び取組みを明らかにされたい。

三 無電柱化の整備の拡充について

1 無電柱化による安全で快適なまちづくりの推進
 都市部に立ち並ぶ電柱と電線は良好な都市景観を損ない、観光振興上のマイナス要素である。また、歩道における電柱は、車椅子やベビーカー等の通行の妨げとなるだけでなく、ひとたび災害発生となれば、電柱倒壊・電線切断で物資輸送や緊急車両の通行が妨げられ、復旧遅延の主因となり得る。こうした観点から、二〇二〇年東京オリンピック・パラリンピックの開催に合わせて無電柱化が推進されているが、国際的にみれば、ロンドン・パリ・香港・シンガポール等では都市部の完全無電柱化が実現しているのに対して、我が国の無電柱化率は東京二十三区で七パーセント、大阪市では五パーセントと大きく立ち遅れている。一刻も早い無電柱化による安全で快適なまちづくりの実現を推進するべきと考えるが、政府の見解及び取組みを明らかにされたい。
2 「電線等の埋設物に関する設置基準」の緩和等を活用したさらなる無電柱化の推進
 二〇一六年四月、国土交通省の「電線等の埋設に関する設置基準」が緩和され、浅層埋設や小型ボックス活用埋設等の低コスト手法・工法の導入が可能となった。また、同年十二月には、第百九十二回国会において「無電柱化の推進に関する法律(平成二十八年法律第百十二号)」が成立し、前記設置基準の緩和と併せて様々な無電柱化の施策が講じられているが、今後国全体で無電柱化を本格的に推進するにあたっては、各地域・具体的な箇所ごとのキーとなる様々なステイクホルダーの間で、他の地域・箇所における成功事例等を含めた情報共有を推進すること等が重要と考えるが、政府の見解及び取組みを明らかにされたい。

四 付加価値の適正循環の実現について

 付加価値の適正循環の実現には、資源から物流に至るまでの各企業が付加価値を適切に確保・分配することが重要で、そのことにより、各企業の業績が改善され、賃金の引上げや投資拡大も誘発され、ひいては社会全体の経済の好循環が達成可能となる。電線関連産業における付加価値の適正循環の実現に向けた基本的な考え方は、経済産業省の「金属産業取引適正化ガイドライン」や一般社団法人日本電線工業会の取引適正化ガイドライン「電線業界の取引適正化のために」で示されているが、これらガイドラインを参考に、各企業の職場レベルでも付加価値の適正循環は労使共通の問題との認識に立ち、取引環境の改善に向けた点検等を行い、当該改善が早期になされるよう政府としてもより一層環境整備に努めるべきと考えるが、政府の見解及び取組みを明らかにされたい。

  右質問する。