質問主意書

第195回国会(特別会)

質問主意書


質問第六号

沖縄・米軍ヘリ炎上事故現場における米軍の行為及び日本政府の対応と日米地位協定に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十九年十一月一日

山本 太郎   


       参議院議長 伊達 忠一 殿



   沖縄・米軍ヘリ炎上事故現場における米軍の行為及び日本政府の対応と日米地位協定に関する質問主意書

 平成二十九年十月十一日、在日米軍普天間基地に配備されているヘリコプターCH53Eが、沖縄県東村高江地区の民間の牧草地に不時着して大破炎上するという事故(以下「当該米軍ヘリ炎上事故」という。)を起こした。過去、米軍ヘリコプターは平成十六年八月十三日にも沖縄国際大学に墜落炎上する事故を起こしているが、当時は事故直後、消火作業が終わった後に米軍が現場を封鎖し、事故を起こした機体を搬出するまで日本の警察・消防・行政・大学関係者は現場に一切立ち入ることを許されず、さらに、沖縄県警が機体の差押えなどの同意を求めたものの、米軍に拒否されたという経緯がある。これらを踏まえて、当該米軍ヘリ炎上事故後の米軍の行為並びに我が国政府の対応と、日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定(昭和三十五年条約第七号。以下「日米地位協定」という。)及び日米地位協定第二十五条1に基づいて設置された日米合同委員会(以下「日米合同委員会」という。)においてなされた日米地位協定各条及び環境補足協定に関する日米合同委員会合意等に関する安倍内閣の認識を確認すべく、以下質問する。

一 当該米軍ヘリ炎上事故は、合衆国軍隊が日米地位協定第二条の規定に基づき使用する「施設及び区域」の外部に該当する、民家から三百メートルほどしか離れていない民有地で発生したものであることから、日本国の当局としては、事故原因解明のため、さらに「航空の危険を生じさせる行為等の処罰に関する法律」(昭和四十九年法律第八十七号)違反容疑も視野に入れつつ、事故現場において事故機の捜索、差押え又は検証を積極的に行うべきであったと考えるが、安倍内閣の認識如何。

二 前記一に関して、当該米軍ヘリ炎上事故発生直後から平成二十九年十一月一日現在までの間に、日本国の当局あるいは日本政府として、「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定の実施に伴う刑事特別法」(昭和二十七年法律第百三十八号)第十三条の規定に基づき、合衆国軍隊の財産である事故機の捜索、差押え又は検証を行うべく、合衆国軍隊の権限ある者に対して同意を得るための要請を行った事実はあるか、明確に示されたい。加えて、当該事実が存在する場合は、いつ、誰が、どのような手段と手続きによって要請を行ったのか、具体的かつ詳らかに示すとともに、当該要請に対して合衆国軍隊が如何なる対応を取ったのかについても具体的かつ明確に示されたい。

三 日米地位協定第十七条10(b)は、合衆国軍隊の施設及び区域の外部における合衆国軍隊の警察権について「必ず日本国の当局との取極に従うことを条件とし、かつ、日本国の当局と連絡して使用されるものとし、その使用は、合衆国軍隊の構成員の間の規律及び秩序の維持のため必要な範囲内に限るものとする。」と規定している。しかしながら当該米軍ヘリ炎上事故現場における合衆国軍隊当局による事故機の残がい等の捜索、差押え又は検証は、「合衆国軍隊の構成員の間の規律及び秩序の維持」とは無関係であり、当該事故現場における合衆国軍隊のこれらの警察権行使は、この規定を無視したものであると言わざるを得ないが、安倍内閣の認識如何。

四 日米地位協定第十七条10(a)及び(b)に関する合意議事録の日本語訳(以下「地位協定十七条関連合意議事録」という。)には、「日本国の当局は、(中略)所在地のいかんを問わず合衆国軍隊の財産について、捜索、差押え又は検証を行なう権利を行使しない。ただし、合衆国軍隊の権限のある当局が、日本国の当局によるこれらの捜索、差押え又は検証に同意した場合は、この限りでない。」とある。地位協定十七条関連合意議事録は日本国憲法第七十三条第三号により国会の承認を必要とする国際約束と、同条第二号にいう外交関係の処理の一環として行政府限りで結び得る国際約束の何れに該当するか、安倍内閣の認識をその理由とともに明確に説明されたい。

五 前記四に関して、安倍内閣において、地位協定十七条関連合意議事録が国会の承認を必要とする国際約束ではないとの認識である場合、合衆国軍隊の権限のある当局による同意の無き場合において、日本国の当局が「所在地のいかんを問わず合衆国軍隊の財産について、捜索、差押え又は検証を行なう権利を行使しない」とする国際約束は、当該米軍ヘリ炎上事故現場において、合衆国軍隊の権限のある当局による同意が得られない場合には、合衆国軍隊の財産である事故機の残がい等の捜索、差押え又は検証を日本国の当局が行うことが出来ないとするもの、すなわち我が国が主権国家として当然に認められるべき警察権を放棄するものであると言わざるを得ないことから、このような日本国の主権自体に直接影響を及ぼす国際約束である地位協定十七条関連合意議事録は、その内容の正当性につき、国会の承認を必要とすると考えるが、安倍内閣の認識如何。

六 平成二十九年十月二十一日付琉球新報は「東村高江での米軍大型輸送ヘリコプターCH53Eが不時着・炎上した事故で、県と沖縄防衛局は二十日、有害物質の調査を目的に事故現場で土壌採取を実施したが、途中から米軍が事故現場の土壌を掘り起こし、搬出作業を開始したため、当初予定した条件での土壌採取ができなかった。米軍はショベルカーで土を掘り起こし、大型トラック五台分の土を運び出した。」と報じた(以下「当該記事」という。)。当該記事の内容は事実か、加えて、当該米軍ヘリ炎上事故直後から現在までの間に当該事故現場において合衆国軍隊が行っている捜索、差押え又は検証について安倍内閣として把握している事実を、日時ごとに具体的かつ網羅的に示されたい。

七 日米合同委員会の刑事裁判管轄権に関する合意事項二十(以下「当該日米合同委員会合意」という。)は、合衆国軍用機の事故現場における措置として「合衆国軍用機が合衆国軍隊の使用する施設又は区域外にある公有若しくは私有の財産に墜落又は不時着した場合には、適当な合衆国軍隊の代表者は、必要な救助作業又は合衆国財産の保護をなすため事前の承認なくして公有又は私有の財産に立ち入ることが許されるものとする。但し、当該財産に対し不必要な損害を与えないよう最善の努力が払われなければならない。」としている。当該米軍ヘリ炎上事故直後から合衆国軍隊が当該事故現場である私有地に立ち入ったことは、当該日米合同委員会合意を根拠としたものであるとの理解でよいか、安倍内閣の認識如何。

八 前記六及び七に関して、当該日米合同委員会合意では、合衆国軍用機が私有の財産に不時着した場合、「適当な合衆国軍隊の代表者は、必要な救助作業又は合衆国財産の保護をなすため事前の承認なくして公有又は私有の財産に立ち入ることが許される」としているものの、私有の財産を差押えることは認めていない。さらに、当該日米合同委員会合意では「当該財産に対し不必要な損害を与えないよう最善の努力が払われなければならない。」としている。当該記事の「米軍が事故現場の土壌を掘り起こし、搬出作業を開始」し、さらに「ショベルカーで土を掘り起こし、大型トラック五台分の土を運び出した」ことが事実であれば、これらの合衆国軍隊の行為は、当該日米合同委員会合意で合衆国軍隊に認められているとされる権限の行使を逸脱した不当なものであると言わざるを得ないが、安倍内閣の認識如何。

九 平成二十九年十月二十一日付琉球新報は、当該米軍ヘリ炎上事故現場である牧草地の所有者西銘晃氏を取材した記事において「西銘さんは、前日に米軍から土を調べるため持ち出すとの説明は受けていたが、土質調査のため少量だと思っていた。この日、機体の一部が広範囲に飛び散っていて台風までに全ての残骸の回収が困難だったため「土ごと回収して部品を選別する」と米軍から説明を受けた。しかし大量に土を持ち帰る米軍車両を見て「ええ! あんなに持って行くわけ? 県の調査も全然できていないのに」と驚いた様子で話した。米軍から持ち帰る土の量の説明は事前になかった。」と報じた。合衆国軍隊が、西銘氏私有の財産である牧草地の土壌を事前の十分な説明無きまま大量に持ち出したこと(以下「合衆国軍隊による当該行為」という。)を安倍内閣として把握していたか、明確に示されたい。加えて、合衆国軍隊による当該行為は、如何なる法的根拠の下でその正当性を担保し得るのか、根拠となる法令等を明示の上、安倍内閣の認識を明確に示されたい。

十 前記九に関して、合衆国軍隊による当該行為は日本国憲法第二十九条によって保障されている財産権の侵害に該当するが、安倍内閣として合衆国軍隊による当該行為に関して、合衆国軍隊に対して何らかの抗議を行った事実は平成二十九年十一月一日現在までに存在するか、明確に示されたい。

  右質問する。