質問主意書

第193回国会(常会)

答弁書


答弁書第一〇四号

内閣参質一九三第一〇四号
  平成二十九年五月十九日
内閣総理大臣 安倍 晋三   


       参議院議長 伊達 忠一 殿

参議院議員福島みずほ君提出国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員福島みずほ君提出国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約に関する質問に対する答弁書

一、二及び四について

 お尋ねの「本条約の交渉過程」における「提案」については、国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約(以下「本条約」という。)第五条1(a)の規定の成案が得られるに至るまでの交渉過程において我が国がしたものであるところ、当該提案をした時点における本条約の案文においては、同条1(a)(i)に規定する行為については、対象となる「重大な犯罪」の範囲がいまだ定まっていなかったほか、「組織的な犯罪集団が関与するもの」という要件を付することも認められておらず、また、同条1(a)(ⅱ)に規定する行為については、特定の犯罪との結び付きのない犯罪集団の活動への参加が一般的に処罰の対象とされていた。他方、我が国の刑事法においては、一定の犯罪については実行の着手前の共謀や予備行為等を処罰することとされているものの、全ての犯罪の共謀を一般的に処罰することとはされておらず、また、必ずしも特定の犯罪との結び付きのない活動に参加する行為自体を直接処罰する規定は存在しない。そこで、我が国は、その時点における本条約の案文において犯罪とすることが義務付けられている行為を犯罪とすることは我が国の法的原則と相容れないことを説明した上で、同条1(a)(i)に相当する規定について「組織的な犯罪集団が関与するもの」との要件を加えるべきこと及び同条1(a)に相当する規定に新たな選択肢として「重大な犯罪を行う目的を有する組織的な犯罪集団の活動に、自己の参加が当該犯罪の達成に寄与することを知りつつ、参加すること。」を加えるべきことを提案したものである。
 これらの提案のうち、後者については、犯罪となる範囲が不当に狭くなるなどの指摘があり、各国の賛同が得られなかったが、前者については、各国の賛同が得られ、同条1(a)(i)に規定する行為の犯罪化について本条約上認められたオプションとして「国内法上求められるときは・・・組織的な犯罪集団が関与するもの」との要件が規定されるに至った。
 本条約を締結し、国際社会と協調して一層効果的にテロを含む組織犯罪を防止し及びこれと戦うことは重要な課題であり、そのためには、同条1(a)(i)に規定する行為を犯罪とする法整備として、現在国会で審議中の組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律等の一部を改正する法律案による改正後の組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律(平成十一年法律第百三十六号)第六条の二第一項及び第二項の罪を設けることが必要であると考えているところ、同条第一項及び第二項の規定においては、右に述べたとおり我が国の提案に基づいてオプションとして取り入れられた「国内法上求められるときは・・・組織的な犯罪集団が関与するもの」との要件の下で、「団体のうち、その結合関係の基礎としての共同の目的が別表第三に掲げる罪を実行することにあるもの」を「組織的犯罪集団」と定義した上で、「組織的犯罪集団・・・の団体の活動として、当該行為を実行するための組織により行われるもの」及び「組織的犯罪集団に不正権益を得させ、又は・・・組織的犯罪集団の不正権益を維持し、若しくは拡大する目的で行われるもの」との要件を定めること等により、その処罰の範囲を厳格に限定しており、同条第一項及び第二項の罪を設けることは、我が国の国内法の基本原則との関係で問題を生ずることはないと考えている。

三について

 御指摘の「第七回アドホック委員会」の際に開催された非公式協議の内容については、公にすることにより、関係国との信頼関係が損なわれるおそれがあることから、その開示を差し控えたい。

五について

 本条約の交渉の過程においては、本条約の対象となる「重大な犯罪」について、各国の国内法において定められている刑期を基準とするべきであるとの意見が多数を占めていたが、テロを含む具体的な犯罪類型のリストを定めるべきであるとの意見もあったところ、我が国は、後者の意見に従った場合には、当該リストの内容をどのようなものにするかについての議論が収れんせず、本条約の採択が困難になると考え、後者の意見には反対する旨の意見を述べたものである。
 なお、本条約を採択した平成十二年の国際連合総会決議第二十五号には、「国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約が、とりわけ、マネー・ローンダリング、腐敗、絶滅危惧種の野生動植物の不正な取引、文化財に対する犯罪等の犯罪活動及び拡大している国際的な組織犯罪とテロリストによる犯罪とのつながりとの戦いのための有効な手段であるとともに国際協力のために必要な法的枠組みとなることを強く確信し」との趣旨の記載があり、我が国もコンセンサスによる採択に加わった。