質問主意書

第193回国会(常会)

質問主意書


質問第一一八号

東海再処理工場のシビアアクシデント防止等に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十九年六月一日

川田 龍平   


       参議院議長 伊達 忠一 殿



   東海再処理工場のシビアアクシデント防止等に関する質問主意書

 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(以下「JAEA」という。)の核燃料サイクル工学研究所(以下「東海再処理工場」という。)には、二〇一三年二月一日現在、福島原発事故で大気へ放出されたセシウム137の約八十倍の量の高放射性廃液が貯蔵されていると聞いている。高放射性廃液を冷却できなくなると、高放射性廃液の沸騰・蒸発乾固・硝酸塩爆発・水素爆発等により、シビアアクシデント(二〇一七年一月三十一日の日本原子力学会再処理・リサイクル部会核燃料サイクル施設シビアアクシデント研究ワーキンググループフェーズⅡ報告書「再処理施設において想定される事故の影響評価手法の現状と課題」が定義する「設計基準事故の想定を超える条件で発生し、その判断基準を超えて大きい影響をもたらす事故」をいう。以下同じ。)に拡大する可能性がある。東海再処理工場において絶対にシビアアクシデントを起こさないよう厳しい監視と指導が必要との観点から質問するので、首都圏が放射能汚染により壊滅状態になるのではないかとの懸念を払拭するべく、以下の質問に、一つ一つ丁寧に答弁いただきたい。

一 東海再処理工場について、「高レベル放射性廃液が約四百立方メートルあり、十二年半かけてガラスで固める作業を続ける。(中略)ただ、ガラスで固める設備は老朽化で故障が相次ぎ、今年は予定の四分の一しか処理できなかった。」との報道(朝日新聞二〇一六年十二月一日)があったが、この報道内容は事実か。多くの国民は、高放射性廃液の早期のガラス固化によるリスク低下を期待していたが、この報道内容が事実とすれば、「十二年半かけて行う」というガラス固化の作業目標が実現するかどうか危ぶまれる事態である。政府は、このような遅延事態に至ったJAEAの計画や技術的問題をどう捉え、どのように指導しているのか。

二 東海再処理工場の敷地は標高約六メートルである。隣接する東海第二発電所では防潮堤の建設計画があるが、東海再処理工場では計画されていない。気象庁ホームページにある「津波波高と被害程度」という表からは、二十メートルをこす津波は鉄筋コンクリートビルを全面破壊することが読み取れる。このことは東日本大震災で大津波による被害を受けた沿岸部の建物の状況を見ても明らかである。JAEAは東海再処理工場付近の基準津波を十四メートル程度と評価しているが、東海第二発電所では基準津波を十七メートルと評価し、二十メートルの防潮堤を作る対策をとるとしていることを考えると、東海再処理工場の高放射性廃液貯蔵建屋のコンクリート壁が津波により破壊されるのではないかとの懸念が生ずる。東海再処理工場においても、高放射性廃液の固化が完了するまでは、リスク回避のために、東海第二発電所と同じ程度の防潮堤対策を講ずる等何らかの対策が必要ではないか。

三 前記一の報道では、東海再処理工場に「中身がよくわからない廃棄物の容器が多数あり、確認のうえ分別しなければならない。使用済み燃料の被覆管が入ったドラム缶は貯蔵プールの底に整理されずに山積みされている。作業のための取り出し装置を新たにつくる必要がある。」とあったが、この報道内容は事実か。この報道内容が事実で、日本有数の原子力学者・専門家集団であるJAEAの事業所でこのような杜撰な管理がなされてきたとすれば、「研究・開発」が先行し「廃棄」に対する視点が欠落してきたことを示しているのではないか。原子力事業の全てに渡って、後始末について無責任な対応が横行していることは、文科省を始めとする監督官庁に責任があるのではないか。

四 東海再処理工場に存在する使用済み核燃料に関する以下の質問について、まとめることなく個々に答弁されたい。

1 現在、東海再処理工場には何体・何トンの使用済み核燃料が保管されているのか。その内訳はどこの核施設で発生したものか、MOX燃料とウラン燃料とを区別して示されたい。
2 前記1の使用済み核燃料に含まれるセシウム137の放射能総量は何ベクレルか。
3 使用済み核燃料が燃料貯蔵プール内に保管されていると聞くが、燃料貯蔵プールに冷却水を供給できなくなった場合、燃料貯蔵プール内の水の沸騰は何日で開始するのか。また冷却水漏れ事故等が発生した場合、使用済み核燃料の緊急避難移送先は確保されているのか。
4 JAEAの「東海再処理施設の廃止に向けた計画」では、燃料貯蔵プール内に保管中の使用済み核燃料は「海外での再処理を視野に入れて搬出先を検討中」としているが、いつからどこの国で再処理を行い、使用済み核燃料をどのように搬出する計画なのか。
5 現在、日本はプルトニウムを過剰に保有しているが、この状況において、使用済み核燃料の「海外再処理」を認めてよいのか。乾式貯蔵などに切り替えてより安全に使用済み核燃料を保管する等の検討は行われていないのか。

五 東海再処理工場において一九七七年に実際の使用済み核燃料による試験が開始されてから現在まで、四十年が経過している。高放射性廃液は腐食性の強い、濃い硝酸溶液である。東海再処理工場の各工程の装置・貯槽・配管などで、高放射性廃液と接しそれを閉じ込めている金属材料の腐食が高経年化により進行していることが予想される。東海再処理工場では、一九七八年、一九八三年の酸回収蒸発缶、一九九五年の高放射性廃液蒸発缶等の腐食によるトラブルが数多く報告されている。現在行われている高放射性廃液のガラス固化に際し、溶融炉から発生する廃ガス中の放射性物質は洗浄され、蒸発缶で回収されるものと思われるが、現在使用している蒸発缶の安全性は確認されているのか。東海再処理工場の各設備や機器の腐食問題がガラス固化計画の進行を左右するものと思われるが、腐食問題に関する国の監視・指導はどのように行われているのか。

六 欧州の原発では最悪の事態に備え溶融炉心を受け止めるコアキャッチャー施設がある。以前、市民団体が、東海再処理工場で大地震や大津波による電源喪失や冷却パイプの破損などにより高放射性廃液の冷却ができなくなってしまった場合の最終方策について質問したところ、JAEAは二〇一二年七月二十四日、「福島第一原子力発電所の事故を踏まえた緊急安全対策による冷却はこれまでの訓練実績から二十時間以内で実施可能です。もし、仮にこの対策を講じることができなくなった場合には、高放射性廃液貯槽を設置しているセル(鉄筋コンクリート製の小部屋、以下同じ)にポンプ車を用いて直接冷却用の水を入れ冷却するなどの対策を行い、沸騰を防止することが考えられます。」と文書で答えている。このセル水没による防護策はそれなりに意味があるものと思われるが、この回答を国は把握しているのか。また、このような防護策はセル等の構造を踏まえ技術的に可能であると認識しているのか。

七 原子力安全委員会の決定「発電用軽水型原子炉施設におけるシビアアクシデント対策としてのアクシデントマネージメントについて」(一九九二年五月二十八日)の基となった、原子炉安全基準専門部会共通問題懇談会の「シビアアクシデント対策としてのアクシデントマネージメントに関する検討報告書-格納容器対策を中心として-」の四の一において「海外においては、既存設備の有効な活用に加え、追加設備の措置による格納容器対策として以下に述べるようなものが考えられている。」とあり、BWRプラントへの格納容器対策として「水素制御設備」があげられていた。また、四の二において「米国ではNRCが一九七九年~一九八〇年に、TMI-2事故の検討に基づく勧告及びアクションプランを発表し、BWRプラント及びPWRアイスコンデンサ型プラントへの水素対策の実施を求めた。」とある。原発事故による発生水素ガス対策としてこのような「水素制御装置」が福島第一原発に設置されていたなら、東日本大震災における福島第一原発の事故による被害が縮小されたと考えられるが、見解を示されたい。

八 前記七の報告書で示された格納容器対策には、東海・六ヶ所の両再処理工場においてもあてはまる対策があるのではないかと推察される。すなわち、前記七の報告書四の一において海外の格納容器対策としてあげられている「フィルター付ベント設備」、「格納容器内注水設備」、「水素制御設備」等の東海・六ヶ所の両再処理工場における高放射性廃液貯槽等への設置、「ADSの機能強化」等の対策をとることが、シビアアクシデントから国民を守るため必要と思われるが、見解を示されたい。

九 東海再処理工場が操業していたのは約三十年間である。その間に作られた放射性廃棄物を処理し、施設の廃止が完了するまで約七十年かかるとする工程表をJAEAが示したとの報道(毎日新聞二〇一六年九月九日)があったが、この報道内容は事実か。放射性廃棄物の生産期間に対して、その後の処理に要する期間が倍以上かかり、しかも施設の廃止費用が八千億円とされている事態には、経済的合理性がないのではないか。再処理工場を推進・監督してきた立場からの見解を示されたい。

  右質問する。