質問主意書

第193回国会(常会)

質問主意書


質問第九九号

環境基本法の観点に立脚した六ヶ所再処理工場の在り方に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十九年五月八日

川田 龍平   


       参議院議長 伊達 忠一 殿



   環境基本法の観点に立脚した六ヶ所再処理工場の在り方に関する質問主意書

 日本原燃株式会社六ヶ所再処理工場(以下「六ヶ所再処理工場」という。)が本格稼動すると、原発からのトリチウム排出基準六万ベクレル毎リットルの約二千七百倍もの高濃度排液が一日おきに約五百五十立方メートルずつ海洋へ排出されることになっており、三陸沿岸の漁民そして漁業資源への悪影響は計りしれない。事故後の福島第一原発から太平洋へ排出される汚染水におけるトリチウムの濃度は千五百ベクレル毎リットル以下とするとの排出基準を地元漁協が了解している。一方、六ヶ所再処理工場から同じ太平洋へ排出される高濃度廃液におけるトリチウムの濃度は福島第一原発からの排出汚染水の約十一万倍となっている。このような高濃度廃液の排出を許可することは、六ヶ所再処理工場から放出される放射性物質の人体への影響が机上計算で年間〇・〇二二ミリシーベルトとされており、人体への影響は少ないとしても、海洋生態系への影響は無視しており、環境基本法の基本理念に著しく反していると考える。そこで以下、質問する。

一 最新の医学的な研究では、トリチウムの生物への有害性が究明されてきていると承知しているが、トリチウム水(HTO:Tはトリチウム)の形で動植物に摂取された場合、何%が有機物のトリチウム(有機トリチウム)として固定されるのか。また、トリチウム水や有機トリチウムを摂取した場合の生物や人体への有害性について政府が承知しているところを明らかにされたい。

二 六ヶ所再処理工場の使用済み燃料に含まれている、トリチウムの全量環境放出を容認することを改め、環境基本法の基本理念(第三条から第五条)に基づき、少なくとも原発の放出・排出規制並となるように濃度限度を定めるべきではないか。これに類似した内容の質問は第百八十九回国会質問第五三号の質問七で行ったが、これに対する答弁がなかったので再度質問する。今なお濃度限度を定める予定がないなら、その理由を明らかにされたい。

三 私が提出した第百八十九回国会質問第一二一号の質問三の3や平成二十七年五月十三日の第百八十九回国会東日本大震災復興及び原子力問題特別委員会における質疑(以下「委員会質疑」という。)において、環境基本法第十六条に基づき放射性物質の環境基準を定めるべきではないかと訴えてきた。これに対して国からは、「諸外国においては、ICRP勧告の考え方にのっとって発生源を管理する手法による放射線防護が行われており、我が国の環境基準に当たる基準を放射性物質については設けていない」、「また、我が国においても(中略)ICRP勧告の考え方にのっとった平常時の発生源管理が行われている(中略)ことから、改めて放射性物質に係る我が国の環境基準を設定する必要性はない」との答弁(内閣参質一八九第一二一号)があった。
 ICRP勧告には、人の健康を保護し、生活環境を保全する上で維持されることが望ましい大気、水質、土壌などに係る環境上の条件を定めた基準についての条項が含まれているのか、含まれているのならば示されたい。含まれていなければ、ICRP勧告のどの条項の考え方に則って放射性物質の平常時の発生源管理を行っており、放射性物質に係る環境基準を設定する必要性はないとしているのか。

四 委員会質疑において、環境基本法第二十条に基づく環境影響評価に関連し、六ヶ所再処理工場は「環境影響評価法の制定あるいは施行以前の平成五年に既に着工がされていたということから、この環境影響評価法の対象事業ということにはなっていない」と小林正明環境省総合環境政策局長から答弁があった。しかし、放射性物質による環境汚染を防止するための措置が環境基本法の対象とされた現在、当然のことながら、同法第二十条に基づき、六ヶ所再処理工場の環境影響評価を求めるべきではないか、見解を示されたい。

五 日本原燃株式会社(以下「原燃」という。)の有する再処理技術が、六ヶ所再処理工場の高濃度廃液からトリチウムを除去回収できないものであるならば、それは再処理技術としては未完成な技術であり、環境基本法の基本理念に鑑みると、国は、原燃を再処理事業から撤退させるべきではないか。

六 六ヶ所再処理工場から大気へ放出されるクリプトン85(半減期十・七六年)は年に三百三十ペタ(3.3×1017)ベクレルという莫大な放射能量である。クリプトン85の除去回収技術は、国立研究開発法人日本原子力研究開発機構核燃料サイクル工学研究所において確立されているにも拘わらず、原燃がその技術を六ヶ所再処理工場に導入しないのはなぜか。また、政府は原燃に対し、なぜクリプトン85の除去回収技術を導入するよう指導しないのか。クリプトン85を除去回収せず六ヶ所再処理工場を稼働させることは、大気中の放射能濃度を押し上げることになるため、原燃は環境基本法第八条に違反する行為をしていることになるのではないのか。それぞれ見解を示されたい。

  右質問する。