質問主意書

第193回国会(常会)

質問主意書


質問第一九号

性的指向又は性自認を理由とする差別等の解消に向けた取組に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十九年一月三十日

藤末 健三   


       参議院議長 伊達 忠一 殿



   性的指向又は性自認を理由とする差別等の解消に向けた取組に関する質問主意書

 レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー(以下「LGBT」という。)が性的指向又は性自認を明らかにした場合や意図せずに知られた場合、差別にさらされるという困難に直面することが多い。平成二十八年版人権教育・啓発白書によると、最近の性的指向又は性自認を理由とする偏見や差別に関する社会的な関心の高まりに伴い、法務省の人権擁護機関は平成二十七年度の人権啓発活動に当たり、「性的指向を理由とする偏見や差別をなくそう」等を年間強調事項の一つとして掲げ、講演会等の開催、啓発冊子等の配布等、各種啓発活動を実施した。また、文部科学省は、平成二十七年四月、「性同一性障害に係る児童生徒に対するきめ細かな対応の実施等について」の通知を発出し、平成二十八年四月には、「性同一性障害や性的指向・性自認に係る、児童生徒に対するきめ細かな対応等の実施について」の教職員向け周知資料の公表を行った。このように、政府における様々な取組が行われているが、いまだ偏見や差別が残っており、学校でのいじめや職場での不当な処遇等に遭うなどして、自殺を試みる者も出ている。国民が相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する豊かで活力のある社会を実現するためにも、性的指向又は性自認を理由とする差別等の解消に向けた取組を更に推進することが必要である。
 そこで、以下質問する。

一 職場における性的指向又は性自認を理由とする差別等の解消に向けた取組の推進について

1 一部企業においては、性的指向又は性自認を理由とする差別等の解消に向け、福利厚生制度の改正や啓発活動に取り組む動きが出ているが、いまだ大多数の企業等においてはこのような取組が行われていないのが実情である。そのような中、厚生労働省は、平成二十八年八月、「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針」(平成十八年厚生労働省告示第六百十五号。以下「セクハラ指針」という。)について、被害を受けた者の性的指向又は性自認にかかわらず、当該者に対する職場におけるセクシュアルハラスメントも、セクハラ指針の対象となる旨を明確化する改正を行い、本年一月より施行されている。そこで、セクハラ指針の周知及び運用状況について明らかにするとともに、同改正により、企業等は、性的指向又は性自認を理由とする差別やハラスメントを禁止する旨の就業規則等への明記や、当事者からの相談への対応のための窓口(以下「相談窓口」という。)の設置などの対応が求められることとなるのか、セクハラ指針の趣旨及び期待される効果について明らかにされたい。
2 性的指向又は性自認を理由とする差別等の解消を推進し、LGBTが働きやすい環境を実現するため、性的指向及び性自認に関する社内研修を義務づけている企業等もあるが、そのような取組の裾野を広げていくため、政府としても、企業等に対する広報・啓発活動を推進し、また、企業等における採用や昇進に際し、性的指向又は性自認を理由とする差別的な対応があった場合は、当該企業を適切に指導すべきではないかと考えるが、政府の見解及び取組を明らかにされたい。

二 国又は地方自治体における性的指向又は性自認を理由とする差別等の解消に向けた総合的な相談窓口の設置について

 学校や企業等における性的指向又は性自認を理由とする差別等に関する相談窓口の設置や、相談を受けた際の適切な対応の在り方については、前記の文部科学省による通知や、厚生労働省によるセクハラ指針の改正等が行われているところであるが、学校内や職場内に設置されている相談機関の中には、必ずしも性的指向及び性自認に関する専門的な知識及び相談対応能力を有する窓口体制が整っているとはいえないものもあり、相談者のセクシュアリティというプライバシーが周囲に漏洩するなどの被害が生じるおそれもある。そこで、性的指向又は性自認を理由とする差別等に関する相談に的確に応じ、LGBTを支援する団体に関する情報の提供その他の必要な支援を行うための総合的な窓口を国又は地方自治体に設置すべきではないかと考えるが、政府の見解を示されたい。

三 国際社会における性的指向及び性自認をめぐる環境の変化について国民に対して周知する必要性について

 二〇一一年六月、国連人権理事会は、性的指向又は性自認に関するものとしては初の国連決議を採択し、我が国も賛成している。また、性的指向又は性自認に関する差別の禁止等の保護がある国は七十六か国に上る。さらに、近年では米国の連邦最高裁判所の判決により全米で同性婚が合法化され、イタリアでも同性カップルに結婚に準じた権利を認める法律が制定されるなど、我が国を除くG7の国々は、昨年までに同性婚・同性パートナーシップ制度を既に取り入れている。G7の中でそのような制度がないのは我が国だけであり、国家レベルでの議論も進んでいない。米国では、東部にある「セブン・シスターズ」と呼ばれる名門女子大学がトランスジェンダーの入学受入れを決定したり、米国の人権団体であるヒューマン・ライツ・キャンペーンが公表している、企業がLGBTの権利を尊重し福利厚生などを整備しているかを評価する「企業平等指数」(CEI)で、ウォルマート・ストアーズ、アップルなど多数の企業が満点評価を得ていたりするように、学校や企業等の組織を始めとする社会での性的指向及び性自認の多様性の受入れが進んでいる。また、昨年のリオデジャネイロ五輪では出場選手の五十人以上がLGBTであることを明らかにした。我が国においても、大阪市淀川区では、LGBTに関する職員人権研修の実施、コミュニティスペースの開催、電話相談等の取組が行われており、渋谷区では、平成二十七年四月よりいわゆるパートナーシップ条例が施行される等、地方自治体レベルの取組は行われ始めている。しかし、それらは飽くまで地方自治体レベルでの取組であり、具体的な権利等が保障されるものではない。
 我が国では、性的指向及び性自認の多様な在り方について社会一般の理解はいまだ追いついておらず、また、いかなる性的指向又は性自認であっても個人が尊重される社会を実現するための政府の取組も極めて不十分であると思われる。二〇二〇年の東京五輪を見据え、社会での性的指向及び性自認の多様性の受入れを進めるために、まずは、前記のような国際社会における性的指向及び性自認をめぐる環境の変化について政府としても国民に対して周知することが望ましいのではないかと考えるが、政府の見解を示されたい。

  右質問する。