質問主意書

第193回国会(常会)

質問主意書


質問第一六号

偽造医薬品流通阻止及び薬局等における医薬品販売の品質管理に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十九年一月二十五日

川田 龍平   


       参議院議長 伊達 忠一 殿



   偽造医薬品流通阻止及び薬局等における医薬品販売の品質管理に関する質問主意書

 奈良県内の調剤薬局チェーンが開設する薬局にて処方されたC型肝炎治療薬「ハーボニー配合錠」が、処方された患者の指摘によって偽造医薬品であると発覚し、当該医薬品の偽造医薬品が流通していることが確認された(以下「今回の事件」という。)。世界的には大きな問題として認識されてきた偽造医薬品の流通に係る問題について私は、第百七十四回国会質問第九五号において政府の見解をただしたところであるが、政府は答弁書(内閣参質一七四第九五号)の二についてで、「模造に係る医薬品等については、第五十五条第二項において、保健衛生上の観点から、販売、授与又は販売若しくは授与の目的での貯蔵若しくは陳列が禁止されており、厚生労働省としては、当該規定が遵守されるよう、同法に基づき適切に監視や取締りを行っているところである。また、厚生労働省のホームページやリーフレット等を活用して、模造に係る医薬品等に関する販売事例等について注意喚起を行っているところであり、引き続き、これらの取組を推進してまいりたい。」と答弁し、模造に係る医薬品、つまり偽造医薬品等が、薬局等医薬品の製造販売に係るものによって貯蔵若しくは陳列されることがないように、薬事法(現「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」(以下「薬機法」という。))に基づいて、適切に監視や取り締まりを行っていると強調し、社会一般においても、我が国では医薬品製造販売企業から卸売販売事業者、医療機関や薬局に至る流通経路が高度に管理されていて安全だと認識されてきたところである。
 しかし、今回の事件では、偽造医薬品が、薬機法による監視を簡単にすり抜け、しかも処方箋患者である国民の手にわたってしまった。つまり、政府による医薬品流通の監視が十分でなかった証左であり、今や我が国においても偽造医薬品対策を念頭においた医薬品流通監視の在り方について新たな対策を講ずるべきと考える。
 今回の事件において、エンドユーザーである国民に偽造医薬品を販売した当該薬局を加害者ではないと擁護する向きもあるようだが、薬局は、薬機法で偽造医薬品の流通を阻止することが期待されている医薬品の販売業に従事する者であると同時に、医薬品流通における最後の砦である。その薬局において偽造医薬品を未然に発見できなかったことは、薬局の管理者が「薬局の構造設備及び医薬品その他の物品を管理し、その他その薬局の業務につき必要な注意をしなければならない」という薬機法第八条に定められた注意義務を怠ったことに他ならず、医薬品販売業の責任として卸売業者の選定及び当該薬局が販売する医薬品の質に対する責任を完遂していなかったことは間違いがない。したがって、当該薬局が加害者ではないという認識が流布されることは適切ではないと考える。
 二〇一七年一月二十三日の厚生労働省報道発表によれば、正規品ならばシールによって封緘されて箱に添付文書とともに封入されているはずであるが、偽造医薬品は箱から取り出されたボトルのみの状態で流通し、添付文書も添付されていないとある。通常の卸売業者であれば、製造行為とみなされかねない箱から取り出すというような行為に及ぶはずもなく、こうした行為をしている卸売業者であるということから、医薬品の調達元としての妥当性を疑い、検品を丁寧に実施するなどの適切な手段を講じなかった当該薬局の本部は、薬機法第一条の四が定める努力義務を怠り、医薬品供給者としての責任が欠如していたと断じざるを得ない。こうした本部であっても、傘下にある薬局の現場では、本部の購入した医薬品は、当然に本部が内容確認をしたものと管理薬剤師が善意の解釈をすることが想像される。これは、本部の購入した医薬品の卸売業者の実態や転売の来歴などを傘下の薬局の管理薬剤師が確認できないことに由来する問題である。また、雇用契約上、被用者である管理薬剤師が雇用者である本部に意見具申することについて、雇用不安などから消極的にならざるをえないという労働環境にも注意が必要である。雇用者である本部が大手の法人であればあるほど、薬局の管理者である管理薬剤師の実態的な権限が抑制的になりうることについて、大手調剤薬局チェーンによる市場の寡占化が進む昨今、薬機法の規定の実効性を担保する新たな施策が必要となってきていると考える。また、同時に、経済的優位にある雇用者たる大手法人が、傘下の薬局の決定権を損なうような本部指示を行って運営に介入するような事例では、薬局開設申請ごとの個別薬局指導という枠組みを超えて、法人全体に影響力を与えるような行政処分の在り方も議論せねばならない時期にあるとも考える。
 さらに今回の事件を受け、ギリアド・サイエンシズ株式会社が薬剤師向けに二〇一七年一月十七日に発出した「C型肝炎治療薬「ハーボニーR配合錠」の偽造品についての重要なお知らせ」によれば、正規ルートを通じて購入した真正品と考えられる医薬品であっても、患者の目の前でボトルを開封して中身を確認するように要請しているが、このような措置を医薬品製造販売企業が依頼すること自体が、我が国の医薬品流通機構への信頼を瓦解させるに等しい過剰な注意喚起であり、自社が指定した正規流通ルートが当然に安全であると宣言できない状態には呆れざるをえない。注意喚起の在り方は医薬品の製造元である医薬品製造販売企業の自由裁量であり、前記の措置を依頼する企業判断が下ったことについては致し方ないとしても、政府は、正規ルートを経た医薬品にまで疑いの目を向けざるをえない医薬品製造販売企業の疑心を一刻も早く払しょくし、我が国の医薬品流通機構が世界に冠たる安全なものであることを示すように努めなければならない。同時に、複数の流通業者を介しているため医薬品の製造元や輸入元を辿ることが困難な、トレーサビリティーが確保できていない医薬品については、その品質を担保するための自主ルールの策定などを日本薬剤師会、日本病院薬剤師会、日本保険薬局協会などの業界団体に促す必要があるのではないかと考える。
 以上のような問題意識から以下、質問する。

一 政府は、偽造医薬品のまん延を阻止するための対策として、具体的にどのような施策を予定しているのか、お示し願いたい。

二 政府は今回の事件の発覚後、偽造医薬品の流通経路の解明に力を注いできた。しかし、医薬品流通における最後の砦である薬局及び薬剤師の医薬品供給に対する責任について正確な整理をしていないのではないか。今回の事件に限らず一般論として、医薬品を販売する者としての販売物への責任放棄や品質管理に係る不作為などについて、具体的には、医薬品の調達に対する責任、調達元の妥当性の検討、調達した製品の来歴が不確かな場合の品質検査などにおいて不作為があった場合の行政処分の考え方はもちろん、医薬品調達における調達元の健全性と調達した製品の来歴についての確認の在り方に関する考え方を整理し、公表することを考えているのか。もし考えていないとするならば、その具体的な理由をお示し願いたい。

三 薬局等医薬品販売業における医薬品調達の信頼性確保について、とくに卸売業者の選定や医薬品の製造元からの来歴などの確認といった観点から政府の見解をお示し願いたい。

四 大手調剤薬局チェーンなど大企業が開設者である薬局において、被用者である管理薬剤師の職能確保について政府はどのように考えているのか、雇用者に経済的な絶対的優位性があることや意見具申しても被用者の不利とならないようにする必要性を踏まえて説明願いたい。

五 法人本部の調達した医薬品などについて、傘下の薬局の管理者である管理薬剤師が、そもそも医薬品調達の選択・決定権をもたない場合、当該管理薬剤師は医薬品調達における品質保全への責任を追及されるのかについて、政府の見解をお示し願いたい。

六 これまで薬機法や健康保険法における処罰に当たっては、原則、開設許可ごとに処分が決定されてきたと承知しているが、昨今のように大手調剤薬局チェーンによる市場の寡占化が進む中、開設者である法人本部の意向が強く個別店舗の決定権がほとんどなく、法人本部の方針などによって全店舗に出した業務指示が原因で法令違反や事故が生じた場合には、法令違反や事故を生じた店舗だけでなく、全店舗に対して指導はもちろんとして行政処分を命ずることができるのか。あるいは、再三にわたって法令違反や事故が相次ぐ法人やその法人の代表者に対して、新たな薬局の開設を留保するなどの行政処分は可能なのかどうかについて政府の見解をお示し願いたい。また、仮に、法令違反や事故が度重なる法人や法人の代表者に対して行政処分ができないならば、法令違反や事故が度重なる法人や法人の代表者に対してどのように改心を促すのか政府の見解をお示し願いたい。

七 日本の医薬品流通機構が、信頼性と安全性において堅牢であるということを示すために、どのような新たな施策を考えているのか、政府の見解をお示し願いたい。

八 医薬品の調達において、複数の流通業者を介しているため、医薬品の製造元や輸入元を辿ることが困難な場合における医薬品の品質を確認するためのルールなどを策定する予定はあるのか政府の見解をお示し願いたい。

  右質問する。