質問主意書

第192回国会(臨時会)

答弁書


答弁書第五二号

内閣参質一九二第五二号
  平成二十八年十二月二十日
内閣総理大臣 安倍 晋三   


       参議院議長 伊達 忠一 殿

参議院議員川田龍平君提出塩化ラジウム(ラジウム223)注射液(製品名ゾーフィゴ静注)に関する再質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員川田龍平君提出塩化ラジウム(ラジウム223)注射液(製品名ゾーフィゴ静注)に関する再質問に対する答弁書

一について

 お尋ねの「ラジウム223の「下限数量」」(以下「下限数量」という。)は、放射線を放出する同位元素の数量等を定める件(平成十二年科学技術庁告示第五号)において、放射線を放出する同位元素の種類が一種類の場合、十万ベクレルと定められている。
 お尋ねの「本注射液一滴(〇・〇五ミリリットル)に含まれる放射能量」については、先の答弁書(平成二十八年十一月十五日内閣参質一九二第二六号。以下「前回答弁書」という。)七についてでお答えしたとおり、塩化ラジウム(ラジウム二二三)注射液(以下「本注射液」という。)は、〇・〇五ミリリットル中、検定日において塩化ラジウム(ラジウム二二三)としてラジウム二二三を最大五十五キロベクレル含有することとなる。このため、お尋ねの「本注射液一滴(〇・〇五ミリリットル)に含まれる放射能量」は下限数量の最大〇・五五倍となる。
 また、内部被ばく線量は、放射性物質の摂取量、放射線の種類、放射線を受ける臓器の感受性等を元に算出される人体への影響の大きさを示すものであり、その計量の基準となる単位はシーベルトが用いられる。下限数量は、ベクレル(放射性核種の壊変数が一秒間に一の割合である放射能をいう。)を単位として示されるものである。
 このように、内部被ばく線量と下限数量はそれらの計量等の基準となる単位が異なっているため、お尋ねの「本注射液を一回投与された患者の内部被ばく線量は「下限数量」の何倍になるか」についてお答えすることは困難である。

二について

 前回答弁書六についてでお答えしたとおり、本注射液及び本注射液による汚染物については、放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律施行令(昭和三十五年政令第二百五十九号)第一条第二号の規定に基づき、放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律(昭和三十二年法律第百六十七号。以下「放射線障害防止法」という。)の適用除外とされており、病院又は診療所(以下「病院等」という。)における本注射液を含む診療に用いる放射線の防護については、医療法(昭和二十三年法律第二百五号)、医療法施行規則(昭和二十三年厚生省令第五十号。以下「規則」という。)等において定めている。
 当該防護については、病院等における診療用放射性同位元素(規則第二十四条第八号に規定する診療用放射性同位元素をいう。以下同じ。)等を用いた診療行為等に応じて、診療用放射性同位元素等の使用場所の制限等の必要な規定を医療法、規則等に設けており、本注射液を含む診療用放射性同位元素等は、医療法、規則等の適用対象とされることにより、放射線障害の防止(病院等において必要とされるものをいう。)や公共の安全の確保が実現されるものと考えている。

三について

 お尋ねの「内部被ばく線量の概数」の意味するところが必ずしも明らかではないが、本注射液の添付文書において、去勢抵抗性前立腺がんの日本人患者に本注射液が一回投与された場合について臓器及び組織ごとに算出された吸収線量の平均値等が記載されている。
 また、お尋ねの「本注射液の投与による内部被ばく線量とそのリスクについて説明しなくてよいのか」の意味するところが必ずしも明らかではないが、医療法第一条の四第二項において「医師、歯科医師、薬剤師、看護師その他の医療の担い手は、医療を提供するに当たり、適切な説明を行い、医療を受ける者の理解を得るよう努めなければならない」と規定されているとともに、本注射液の添付文書の警告欄において「本剤は、緊急時に十分対応できる医療施設において、がん化学療法及び放射線治療に十分な知識・経験を持つ医師のもとで、本剤の投与が適切と判断される症例についてのみ投与すること。また、治療開始に先立ち、患者又はその家族に本剤の有効性及び危険性を十分説明し、同意を得てから投与すること」と注意喚起が行われていることから、内部被ばくの影響も含めたリスクについて患者又はその家族に対して説明された上で本注射液は使用されているものと考える。

四について

 お尋ねの「国際的に認められている実効線量係数」の意味するところが必ずしも明らかではないため、お尋ねの方法で「投与患者が受ける内部被ばく線量」を計算することは困難である。

五について

 お尋ねの「普通の細胞まで二重鎖切断という大きな変異をもたらす傷」の意味するところが必ずしも明らかではないが、ラジウム二二三が集積している腫瘍の周辺の細胞においてDNAの二重鎖切断が起きる可能性は否定できないと考えている。なお、本注射液については、本注射液の有効性とこのようなリスクも含めた安全性を比較衡量し、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(昭和三十五年法律第百四十五号。以下「医薬品医療機器等法」という。)第十四条第一項の規定に基づき製造販売を承認したものである。

六について

 お尋ねの「事前審査した専門委員九名」の意味するところが必ずしも明らかではないが、本注射液については、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(以下「機構」という。)において医薬品医療機器等法第十四条第一項の製造販売の承認のための審査が行われたところである。当該審査の際に実施された専門協議に参加した委員(以下「委員」という。)の氏名及び本注射液の製造販売の承認の申請者(以下「申請企業」という。)又は本注射液の競合品目の製造販売業者(以下「競合企業」という。)との利益相反の有無等に関する各委員からの機構に対する回答は機構において公開されている。いずれの委員からも、薬事関係企業の役職、職員又は定期的に報酬を得ている顧問等に就いていないこと、本注射液に関して申請企業から報酬を得て相談に応じ又は調査、試験若しくは研究を行っていないこと、本注射液に関連する特許等の知的財産権を保有していないこと及び平成二十五年度から当該専門協議の開催年度である平成二十七年度までにおいて申請企業又は競合企業から受け取った寄附金、契約金等の額が五百万円を超える年はなかったことが回答されている。
 また、お尋ねの「審査報告書に関する資料」の意味するところが必ずしも明らかではないが、本注射液の審査報告書及び申請資料の概要は、機構のホームページにおいて公表されている。

七について

 御指摘の「医療現場において・・・と思われる」の意味するところが必ずしも明らかではないが、政府としては、地方自治法(昭和二十二年法律第六十七号)第二百四十五条の四第一項の規定に基づく技術的な助言(以下「技術的助言」という。)である「放射性医薬品を投与された患者の退出について」(平成十年六月三十日付け医薬安発第七十号厚生省医薬安全局安全対策課長通知)別添「放射性医薬品を投与された患者の退出に関する指針」(以下「指針」という。)において、放射性核種の物理的特性に応じた防護並びに患者及び介護者への説明その他の安全管理に関して、放射線関係学会等団体の作成するガイドライン等を参考に行うよう示している。本注射液の当該ガイドライン等として扱われるものとしては、公益社団法人日本医学放射線学会等の関係学会から「塩化ラジウム(ラジウム二二三)注射液を用いる内用療法の適正使用マニュアル」(以下「マニュアル」という。)が示されているところである。マニュアルにおいては、作業台や床面等に放射能汚染が発見された場合には、迅速に除染を行う必要があること、汚染箇所を比較的早く発見した場合は、直ちにペーパータオル等で吸い取り、水、中性洗剤等を用いて除染することが有効であること等の対応の手順が示されており、御指摘の「本注射液をこぼした場合」には、各病院等が当該手順に従って対応するものと考えている。
 御指摘の「焼却することがあるのか」の意味するところが必ずしも明らかではないが、技術的助言である「医療法施行規則の一部を改正する省令の施行について」(平成八年三月二十六日付け健政発第二百六十三号厚生省健康政策局長通知)別紙「放射性有機廃液の焼却対象、施設及び取扱いに関する安全指針」において、規則第三十条の十一第一項の規定により構造設備の基準を定める廃棄施設(以下「廃棄施設」という。)において焼却の対象となる診療用放射性同位元素等により汚染された物(以下「医療用放射性汚染物」という。)は、トリチウム等を含む有機廃液であって、十分な可燃性があり、装置に適した流動性を持つものに限ることを示しており、御指摘の「本注射液がこぼれて汚染されたシーツ類」(以下「汚染シーツ類」という。)は、当該有機廃液には該当しない。また、汚染シーツ類を含む本注射液による医療用放射性汚染物が病院等内で焼却されるという事例があるとは承知していない。
 御指摘の「汚染物」の意味するところが必ずしも明らかではないが、前回答弁書八についてでお答えしたとおり、規則第三十条の十四の規定において、医療用放射性汚染物の廃棄は廃棄施設において行わなければならないとしているところであり、病院等は、その廃棄を委託するまでの間、医療用放射性汚染物を、病院等に設けられた廃棄施設に保管廃棄することとなる。また、技術的助言である「医療法第二十五条第一項の規定に基づく立入検査要綱について」(平成十三年六月十四日付け医薬発第六百三十七号・医政発第六百三十八号厚生労働省医薬局長及び医政局長連名通知)別添「医療法第二十五条第一項の規定に基づく立入検査要綱」(以下「立入検査要綱」という。)において当該保管廃棄の状況が確認項目とされていることから、医療法第二十五条第一項の規定に基づく都道府県知事、保健所を設置する市の市長又は特別区の区長が実施する病院等への立入検査(以下「立入検査」という。)の際に当該状況が確認され、必要に応じて指導が行われているものと認識している。

八について

 お尋ねの「投与患者の医療機関外での排泄物の処理」については、マニュアルにおいて、安全側に立って、患者に投与されたラジウム二二三の投与量の全てが河川に排出された場合等の仮定を置いて試算した結果、第三者の経口摂取による内部被ばく線量が、国際放射線防護委員会の勧告における公衆の被ばく線量の限度である年間一ミリシーベルトの五千分の一である年間○・二○マイクロシーベルトであると推定されているため、特段の規制を行っていない。
 お尋ねの排せつ物を下水へ流す場合の下水の終末処理場への連絡について定めた法令上の規定は存在しない。
 お尋ねの下水の終末処理場における下水中のラジウム二二三の放射能測定の実施及び公表について定めた法令上の規定は存在せず、また測定等が行われている事例については把握していない。
 お尋ねの「終末処理で生じるスラッジの処分」について定められた下水道法(昭和三十三年法律第七十九号)上の規定は存在しない。
 お尋ねの「投与患者の家庭での排泄物の処理」及び「同排泄物による家族の汚染」については、マニュアルにおいて、患者の排せつ物に触れる可能性がある場合にはゴム製の使い捨て手袋を装着してから取り扱うことや、本注射液の投与後二、三日間は、患者と小児及び妊婦との接触は最小限にすること等の注意事項が示されており、指針において、患者の退出・帰宅を認める場合は、第三者に対する不必要な被ばくをできる限り避けるため、書面及び口頭で日常生活などの注意・指導を行うこととされていることから、マニュアルで示された注意事項等に基づき適切に対応されているものと考えている。

九について

 お尋ねの「科学的な根拠」の意味するところが必ずしも明らかではないが、専門家から、患者に対するラジウム二二三の投与量が五千キロベクレル、当該患者の遺体の火葬を行うまでの期間が投与終了後十日間等の仮定を置いた場合、当該火葬を行った火葬場近辺の住民等に対する実効線量を国際原子力機関の「IAEA SAFETY STANDARDS SERIES No.GSR PART 3(2014)」により評価された実効線量係数を用いて試算すると、二歳から七歳までの幼児に対する実効線量は百万分の四十四ミリシーベルトと、成人に対する実効線量は百万分の十七ミリシーベルトと、火葬場従業員に対する実効線量は一万分の七ミリシーベルトと国際放射線防護委員会の勧告で示されている公衆の被ばく線量の限度である年間一ミリシーベルトと比較し相当低い線量となる旨の報告を受けており、当該報告によって被ばく線量が低いことを確認している。

十について

 排気中等の放射性同位元素の濃度限度については、規則第三十条の二十六第一項の規定において、排気中等の放射性同位元素の三月間についての平均濃度が同項各号に掲げる濃度であることを定めており、排気中等の放射性同位元素がラジウム二二三のみである場合の当該濃度限度は、一億分の二ベクレル毎立方センチメートルとされている。
 規則第三十条の十四の二第一項の規定及び医療法施行規則第三十条の十四の二第一項の診療用放射性同位元素又は放射性同位元素によって汚染された物の廃棄の委託を受ける者を指定する省令(平成十三年厚生労働省令第二百二号)に基づき医療用放射性汚染物の廃棄の委託先として指定されている公益社団法人日本アイソトープ協会(以下「協会」という。)については、規則第三十条の十四の二第三項の規定に基づき付した条件において、放射線障害防止法第二十条の規定に準じて汚染状況(放射性同位元素による汚染の状況をいう。以下同じ。)等の測定を行わなければならないこととしているところである。排気設備の排気口等における汚染状況については、同条第一項の規定に基づき定めた放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律施行規則(昭和三十五年総理府令第五十六号)第二十条第一項の規定において、排気設備の排気口等における汚染状況の測定を、作業を開始する前に一回及び作業を開始した後にあっては排気する都度(連続して排気する場合は、連続して)、放射線測定器を用いて測定することが著しく困難である場合を除き、排気設備の排気口等における汚染状況を知るために最も適した箇所において放射線測定器を用いて行うこととしており、協会の排気設備の排気口等における汚染状況の測定は、協会において適切に行われているものと承知している。また、協会の排気設備の状況については、厚生労働省が実施する協会の施設に対する定期検査において、排気設備の排気口等における汚染状況の測定結果に関する記録等を確認することを通じて確認している。
 なお、七についてでお答えしたとおり、病院等において本注射液による医療用放射性汚染物が焼却されるという事例があるとは承知していないが、病院等の排気設備の排気口等における汚染状況については、規則第三十条の二十二第一項の規定において、排気設備の排気口等における汚染状況を、診療を開始する前に一回及び診療を開始した後にあっては排気する都度(連続して排気する場合は、連続して)測定することとしており、同条第二項の規定において、排気設備の排気口等における汚染状況の測定は、放射線測定器を用いて測定することが著しく困難である場合を除き、排気設備の排気口等における汚染状況を測定するために最も適した位置において、放射線測定器を用いて行うこととしている。また、当該測定の結果に関する記録の確認については、立入検査要綱における確認事項として示しており、立入検査等において確認されているものと承知している。

十一について

 お尋ねの「排気による放射能汚染対策はどうなっているか」及び「焼却炉のフィルター」の意味するところが必ずしも明らかではないが、御指摘の本注射液を投与された患者の遺体の火葬については、九について及び前回答弁書九についてでお答えしたとおり、安全性が確保されていると考えていることから、火葬場における当該遺体の火葬に係る放射性物質の測定、放射線の防護等についての法令上の規定は設けていない。また、本注射液を投与された患者の遺体の火葬において、御指摘の「排気の放射能測定」又は「放射能濃度のモニタリング」が行われている事例は承知していない。

十二について

 平成二十七年十一月二十七日から同年十二月二十六日まで実施した「放射性医薬品基準の一部を改正する件(案)」に関する意見募集に対して寄せられた意見は零件であった。
 お尋ねの「変更した理由」については、トリウムが核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(昭和三十二年法律第百六十六号)第二条第十一項に規定する国際規制物資とされていることを踏まえ、本注射液の品質の基準は厳格に定めることが適切であると判断したことから、トリウム二二七の放射能は「検定日において、検出されない(検出限界〇・一%)」と定めることとしたものである。
 また、お尋ねの「「検出限度0.1%」の意味」の意味するところが必ずしも明らかではないが、「検出限界〇・一%」とは、試料に含まれる分析対象物の検出可能な最低の量又は濃度が〇・一パーセントであることを意味する。

十三について

 お尋ねの「放射線障害防止法第一条に規定する目的に照らして正しい選択だったと考えているのか」の意味するところが必ずしも明らかではないが、前回答弁書十についてでお答えしたとおり、本注射液を含む診療用放射性同位元素等については、関係法令等に基づき、放射線防護の観点から適切な処理を行うこと等を定めている。また、本注射液については、生命に関わる重篤な疾患である骨転移のある去勢抵抗性前立腺がんのり患者に投与する際の有効性と安全性を比較衡量し、医薬品医療機器等法第十四条第一項の規定に基づき製造販売を承認したものであり、当該承認は適切であったと考えている。