質問主意書

第192回国会(臨時会)

答弁書


答弁書第二六号

内閣参質一九二第二六号
  平成二十八年十一月十五日
内閣総理大臣 安倍 晋三   


       参議院議長 伊達 忠一 殿

参議院議員川田龍平君提出塩化ラジウム(ラジウム223)注射液(製品名ゾーフィゴ静注)に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員川田龍平君提出塩化ラジウム(ラジウム223)注射液(製品名ゾーフィゴ静注)に関する質問に対する答弁書

一について

 お尋ねの「経緯」としては、塩化ラジウム(ラジウム二二三)注射液(以下「本注射液」という。)については、バイエル薬品株式会社が、平成二十七年四月二十四日に、厚生労働大臣に対し医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(昭和三十五年法律第百四十五号。以下「法」という。)第十四条第一項の規定に基づく医薬品の製造販売の承認の申請を行ったものである。その後、平成二十八年二月二十六日に開催された薬事・食品衛生審議会薬事分科会医薬品第二部会において、本注射液の製造販売の承認の可否等について審議が行われ、本注射液の製造販売を承認して差し支えないとされたため、厚生労働大臣が同年三月二十八日に本注射液の製造販売を承認したものである。
 お尋ねの「本注射液を承認した審議会名とその議事録の所在」の意味するところが必ずしも明らかではないが、本注射液の製造販売の承認の可否等について審議した薬事・食品衛生審議会薬事分科会医薬品第二部会の議事録は、厚生労働省のホームページにおいて公表されている。

二について

 お尋ねの「本注射液の製造方法」及び「原料となる核種と生成核種」の意味するところが必ずしも明らかではないが、法第四十二条第一項の規定に基づき、保健衛生上特別の注意を要する医薬品につき、その製法等に関する基準として告示された放射性医薬品基準(平成二十五年厚生労働省告示第八十三号。以下「放射性医薬品基準」という。)中本注射液の製法の基準を定めている第四中四十五の項製法の目において、本注射液はアクチニウム二二七を原料とし、その壊変によって得られるラジウム二二三を抽出、精製して塩化ラジウム(ラジウム二二三)原液とした後、注射剤の製法により製造すると定めている。このため、厚生労働大臣が定める本注射液の製法において、原料となる核種はアクチニウム二二七、生成される核種はラジウム二二三である。
 お尋ねの「半減期」の意味するところが必ずしも明らかではないが、丸善出版株式会社が発行している「理科年表」(以下「理科年表」という。)によると、アクチニウム二二七の物理的半減期は二十一・七七年であり、ラジウム二二三の物理的半減期は十一・四三日である。
 お尋ねのアクチニウム二二七の「経口摂取並びに吸入摂取した場合の実効線量係数」は、放射線を放出する同位元素の数量等を定める件(平成十二年科学技術庁告示第五号)において定めている。アクチニウム二二七を経口摂取した場合の実効線量係数は一万分の十一ミリシーベルト毎ベクレルと、吸入摂取した場合の実効線量係数はハロゲン化物、硝酸塩、酸化物及び水酸化物以外の化学形等であるアクチニウム二二七について百分の六十三ミリシーベルト毎ベクレル、ハロゲン化物及び硝酸塩の化学形等であるアクチニウム二二七について百分の十五ミリシーベルト毎ベクレル並びに酸化物及び水酸化物の化学形等であるアクチニウム二二七について千分の四十七ミリシーベルト毎ベクレルと定めている。
 お尋ねのラジウム二二三の「経口摂取並びに吸入摂取した場合の実効線量係数」は、放射性物質の数量等に関する基準(平成十二年厚生省告示第三百九十九号)において定めている。ラジウム二二三を経口摂取した場合の実効線量係数は一万分の一ミリシーベルト毎ベクレルと、吸入摂取した場合の実効線量係数は一万分の五十七ミリシーベルト毎ベクレルと定めている。

三について

 お尋ねの「許容濃度」の意味するところが必ずしも明らかではないが、放射性医薬品基準中本注射液の品質の基準を定めている第四中四十五の項純度試験の目において、検定日において、アクチニウム二二七の放射能はラジウム二二三の放射能の〇・〇一四パーセント以下とすることを定めている。
 お尋ねの「検査方法」については、同目において、トリウム二二七の放射能の測定結果に基づきアクチニウム二二七の放射能を算出する方法を規定している。また、同目で定める純度試験は製造販売業者で実施されているものと承知しており、本注射液を使用する病院又は診療所(以下「病院等」という。)が当該純度試験を実施するのに必要な設備等を備える必要はないと考えている。

四について

 お尋ねの「娘核種」は、理科年表によると、ラドン二一九、ポロニウム二一五、アスタチン二一五、鉛二一一、ビスマス二一一、ポロニウム二一一及びタリウム二〇七である。お尋ねの「半減期」の意味するところが必ずしも明らかではないが、当該娘核種の物理的半減期は、理科年表によると、ラドン二一九が三・九六秒、ポロニウム二一五が〇・〇〇一七八一秒、アスタチン二一五が〇・〇〇〇一秒、鉛二一一が三十六・一分、ビスマス二一一が二・一四分、ポロニウム二一一が〇・五一六秒及びタリウム二〇七が四・七七分である。当該娘核種の経口摂取した場合の実効線量係数は、放射線を放出する同位元素の数量等を定める件において、アスタチン二一五について百兆分の二ミリシーベルト毎ベクレル、鉛二一一について一億分の十八ミリシーベルト毎ベクレル、ビスマス二一一について十億分の十二ミリシーベルト毎ベクレル、タリウム二〇七について百億分の七十一ミリシーベルト毎ベクレルと定めており、ラドン二一九、ポロニウム二一五及びポロニウム二一一の経口摂取した場合の実効線量係数は定めていない。当該娘核種の吸入摂取した場合の実効線量係数は、放射線を放出する同位元素の数量等を定める件において、水素等のアスタチン化物等の化学形等であるアスタチン二一五について十兆分の五十一ミリシーベルト毎ベクレル、ベリリウム等のアスタチン化物等の化学形等であるアスタチン二一五について十兆分の五十二ミリシーベルト毎ベクレル、鉛二一一について千万分の五十六ミリシーベルト毎ベクレル、硝酸ビスマスの化学形等であるビスマス二一一について千万分の十五ミリシーベルト毎ベクレル、硝酸ビスマス以外のビスマス化合物の化学形等であるビスマス二一一について千万分の十八ミリシーベルト毎ベクレル及びタリウム二〇七について百億分の六十二ミリシーベルト毎ベクレルと定めており、ラドン二一九、ポロニウム二一五及びポロニウム二一一の吸入摂取した場合の実効線量係数は定めていない。

五について

 お尋ねの「放射能濃度」及び「上限回数まで使用した場合」の意味するところが必ずしも明らかではないが、本注射液の添付文書によると、本注射液は、五・六ミリリットルバイアル中、検定日において塩化ラジウム(ラジウム二二三)としてラジウム二二三を六千百六十キロベクレル含有する製剤であり、骨転移のある去勢抵抗性前立腺がんにり患している成人に対して、通常、一回当たり五十五キロベクレル毎キログラムを四週間間隔で最大六回まで、緩徐に静脈内投与することとされている。このため、体重六十キログラムの成人には、通常、本注射液を投与することにより一回当たり三千三百キロベクレルが投与されることとなるため、六回投与した場合には、お尋ねのラジウム二二三の「注入量」は延べ一万九千八百キロベクレルとなる。
 お尋ねの本注射液を使用した場合のラジウム二二三、アクチニウム二二七及びトリウム二二七(以下「ラジウム二二三等」という。)の「内部被ばく量」及び「内部被ばく量・・・の合計は公衆被ばくの線量限度・・・の何年分になるのか」については、腫瘍の大きさや体内でのラジウム二二三の分布には個人差があること、体内でのアクチニウム二二七及びトリウム二二七の分布が不明であること、ラジウム二二三等が体外に排せつされることも考慮する必要があること等から、正確な内部被ばく線量を算出することはできないため、いずれのお尋ねについてもお答えすることは困難である。

六について

 本注射液及び本注射液による汚染物については、放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律施行令(昭和三十五年政令第二百五十九号)第一条第二号の規定に基づき、放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律(昭和三十二年法律第百六十七号)の適用除外とされており、病院等における本注射液を含む診療に用いる放射線の防護については、医療法(昭和二十三年法律第二百五号)、医療法施行規則(昭和二十三年厚生省令第五十号。以下「規則」という。)等において定めている。
 お尋ねの「患者の排泄物の処理」については、規則第三十条の十四の規定において、診療用放射性同位元素(規則第二十四条第八号に規定する診療用放射性同位元素をいう。以下同じ。)等により汚染された物(以下「医療用放射性汚染物」という。)の廃棄は、規則第三十条の十一第一項の規定により構造設備の基準を定める廃棄施設(以下「廃棄施設」という。)において行わなければならないと定めている。また、地方自治法(昭和二十二年法律第六十七号)第二百四十五条の四第一項の規定に基づく技術的な助言(以下「技術的助言」という。)である「医療法施行規則の一部を改正する省令の施行について」(平成十三年三月十二日付け医薬発第百八十八号厚生労働省医薬局長通知)において、患者の排せつ物及び汚染物を洗浄した水等については、その放射性同位元素の濃度が規則第三十条の二十六第一項に定める濃度限度を超える場合には、規則第三十条の十一第一項第二号に規定する排水設備により廃棄すること等を示している。
 お尋ねの「患者の隔離」の意味するところが必ずしも明らかではないが、診療用放射性同位元素等により治療を受けている患者(以下「放射線治療患者」という。)については、規則第三十条の十五第一項の規定において、適切な防護措置及び汚染防止措置を講じた場合を除き、放射線治療病室(規則第三十条の十二に規定する放射線治療病室をいう。以下同じ。)以外の病室に入院させてはならないことを、また規則第三十条の十五第二項の規定において、放射線治療病室に放射線治療患者以外の患者を入院させてはならないことを定めている。加えて、技術的助言である「放射性医薬品を投与された患者の退出について」(平成十年六月三十日付け医薬安発第七十号厚生省医薬安全局安全対策課長通知)別添「放射性医薬品を投与された患者の退出に関する指針」(以下「指針」という。)において、放射性医薬品(診療用放射性同位元素のうち、法第二条第十七項に規定する治験の対象とされる薬物を除くものをいう。以下同じ。)を投与された患者から公衆及び自発的に当該患者を介護する家族等が受ける放射線の安全性に配慮する必要があることから、放射性医薬品を投与された患者が放射線治療病室等から退出することが認められる放射性医薬品の最大投与量等の基準等を示している。
 お尋ねの「入院部屋の表示」については、規則第三十条の十二第二号の規定において、放射線治療病室の構造設備の基準として、放射線治療病室である旨を示す標識を付することを定めている。
 お尋ねの「患者家族などへの対応」の意味するところが必ずしも明らかではないが、先に述べたとおり、指針においては、放射性医薬品を投与された患者を介護する家族等が受ける放射線の安全性に配慮している。

七について

 お尋ねの「本注射液一滴(〇・〇五ミリリットル)に含まれるラジウム223の放射能量」については、本注射液の添付文書によると、本注射液は、一ミリリットル中、検定日において塩化ラジウム(ラジウム二二三)としてラジウム二二三を千百キロベクレル含有するとされていることから、〇・〇五ミリリットル中には、最大五十五キロベクレル含有することとなる。
 また、お尋ねの「医師・看護師などによる汚染時の管理や取扱対応」については、規則等において、汚染の拡大を防止するための取扱いを定めている。例えば、規則第三十条の二十第一項の規定において、病院等の管理者は、医療用放射性汚染物を取り扱う者に、診療用放射性同位元素使用室、廃棄施設等においては作業衣等を着用すること、これらを着用してみだりにこれらの室又は施設の外に出ないこと等の事項を遵守させなければならないとしている。

八について

 お尋ねの「廃棄物」については、規則第三十条の十四の規定において、医療用放射性汚染物の廃棄は廃棄施設において行わなければならないとされており、病院等が自らの施設内で廃棄する場合には、病院等に設けられた廃棄施設に保管廃棄されることとなる。また、規則第三十条の十四の二第一項の規定に基づき、病院等の管理者は、医療用放射性汚染物の廃棄を、規則第三十条の十四の三に規定する技術上の基準に適合する廃棄施設等を有する者であって厚生労働省令で指定するものに委託することができるとされている。当該委託を受ける者については、医療法施行規則第三十条の十四の二第一項の診療用放射性同位元素又は放射性同位元素によって汚染された物の廃棄の委託を受ける者を指定する省令(平成十三年厚生労働省令第二百二号)により、公益社団法人日本アイソトープ協会(以下「協会」という。)を指定しているが、協会における廃棄の場所、方法等については、今後協会において検討される予定であると承知している。

九について

 御指摘の本注射液を投与された遺体の火葬については、専門家から「英国放射線防護庁(NRPB、現HPA)等の資料で、公衆の被ばくは低いことが示され、大きなリスクを負うことはないと考えられます」と報告を受けており、安全性が確保されているものと考えている。
 また、お尋ねのように廃棄物が焼却される場合、病院等については規則第三十条の十一第一項第四号の規定に基づき、協会については規則第三十条の十四の三第三項第五号の規定に基づき、それぞれ排気設備に連結されている焼却炉を設けることを定めている。当該排気設備については、規則第三十条の二十六第一項の規定において、排気中等の放射性同位元素の濃度限度を定めるとともに、規則第三十条の十一第一項第三号イの規定において、排気口における排気中等の放射性同位元素の濃度を当該濃度限度以下とする能力を有するものであることを定めている。このため、各病院等がこれらの規定に基づき適切に対応し、安全性が確保されるものと考えている。

十について

 六についてから九についてまででお答えしたとおり、本注射液を含む診療用放射性同位元素等については、関係法令等に基づき、放射線防護の観点から適切な処理を行うこと等を定めている。
 本注射液については、生命に関わる重篤な疾患である骨転移のある去勢抵抗性前立腺がんのり患者に投与する際の有効性と安全性を比較衡量し、法第十四条第一項の規定に基づき製造販売を承認したものである。現時点では、新たな安全性上の懸念は発生しておらず、効能及び効果に比して著しく有害な作用を有するとは認められないことから、同条第二項各号に掲げる製造販売承認拒否事由のいずれにも該当せず、製造販売承認の見直しの必要はないと考えている。