質問主意書

第192回国会(臨時会)

質問主意書


質問第七二号

「土人」という発言に対する鶴保大臣の答弁に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十八年十二月十四日

糸数 慶子   


       参議院議長 伊達 忠一 殿



   「土人」という発言に対する鶴保大臣の答弁に関する質問主意書

 沖縄県東村高江の米軍北部訓練場ヘリパッド工事現場で警備中の大阪府警の機動隊員が十月十八日、ヘリパッド建設に反対する沖縄県民に、「触るなくそ。触るなこら。どこつかんどんじゃ、ぼけ。土人が」などと差別発言を行った。また、ほぼ同時刻で別の機動隊員が「黙れ、こら、シナ人」と差別発言を行っていた。いずれも、すでに大阪府警から戒告の懲戒処分が行われている。
 いわゆる一連の「土人」発言について、鶴保庸介内閣府特命担当大臣(沖縄及び北方対策)は、本年十月二十一日の閣議後の会見で、「大変残念な発言」、「襟を正してこれからも警備に当たっていただきたい」と述べた一方で、「私は今のこのタイミングで、これは間違っていますよとかいう立場にもありません」、「殊更に我々がこれは人権問題だというふうに考えるのではな(い)」との見解を示した。同時に、「人権問題だと捉えるかは、言われた側の感情に主軸を置くべきなんだと思います。(中略)県民の感情を傷つけたという事実があるならば、これはしっかりと襟を正していかなければならない」とした上で、「果たして県民感情を損ねているかどうかについて、しっかり虚心坦懐に、つぶさに見ていかなければいけない」と述べた。
 また、参議院内閣委員会で十一月八日、前記機動隊員の発言が人権問題に当たるのではないのかという旨の質疑に対し、鶴保大臣は、「私個人が大臣という立場でこれが差別であるというふうに断じることは到底できない」、「第三者が一方的に決めつけるというのは、これは非常に危険なこと」と答弁し、前記機動隊員の発言を「差別」と断定しないまま現在に至っている。そこで、以下質問する。

一 十二月十二日の参議院沖縄及び北方問題に関する特別委員会で、前記機動隊員の発言の際の状況、この直前の侮蔑的な言葉などを鶴保大臣は映像で確認したかという私の質疑に対し、鶴保大臣は「私はつぶさには見ておりません」と答弁している。十月十八日の「土人」発言が大きな問題となり、同月二十一日の記者会見での自身の発言が国会でたびたび指摘されているにもかかわらず、つぶさに見ていないという発言に驚きを禁じ得ない。つぶさに見ていないにもかかわらず、殊更に我々がこれは人権問題だというふうに考えるのではないと判断した根拠を示されたい。

二 鶴保大臣は、前記機動隊員の発言が人権問題に当たるかどうかについて、「第三者が一方的に決めつけるのは、これは非常に危険なこと」とまで発言している。当該映像をつぶさに見れば、差別に当たるかどうかを客観的に判断することは容易と考えるが、いかがか。

三 鶴保大臣は、十月二十一日の記者会見で、「人権問題だと捉えるかは、言われた側の感情に主軸を置くべき」と発言している。前記機動隊員から「土人」と言われた作家の目取真俊氏は「差別的発言」と受け止めているが、鶴保大臣が発言を「差別」と認めない理由は何か明らかにされたい。

四 十月二十日の参議院法務委員会で法務省人権擁護局長は「不当な差別的な言動はいかなる者に対してであってもあってはならないものでして、一般に、沖縄の人々に対する不当な差別的言動も他の者に対するものと同様、人権擁護上非常に問題があると認識しております」と答弁した。
 また、金田勝年法務大臣も十月二十五日の参議院法務委員会で、「土人」が差別用語に当たるとの認識を示した。人権擁護を所管する法務大臣と人権擁護局長が差別と認めたことを鶴保大臣はどう受け止めるのか見解を示されたい。

五 十二月十二日の参議院沖縄及び北方問題に関する特別委員会で鶴保大臣は、「私が差別であるという断定をできる、でき得る立場にない」と答弁している。それは、当該映像をつぶさに見ていないからか、あるいは立場上なのか、その理由を示されたい。

六 十二月六日の参議院法務委員会において、差別問題に取り組む専門家の参考人が「土人」発言を差別と認識していたことをどう受け止めるのかと十二月十二日の参議院沖縄及び北方問題に関する特別委員会で質したところ、鶴保大臣は、「参考人の中には、京都産業大学の方、灘本教授でございますが、当該警察官の発言は明らかに問題発言だと思うが、それを政府が差別であるかないかというのを決定して言うことがいいのかどうかというのもちょっと、少なくとも大変な問題発言ということさえ認めれば、差別と規定するかどうかは余り重要でないと思うという発言もございます」と紹介し、あたかも差別と判断していないかのような答弁をした。しかし同参考人は、鶴保大臣が紹介した発言の冒頭に「この間のその警察官による発言は、もう明らかに差別的な意味を込めて言っているので差別発言だと思います」と述べたうえで、「土人」という用語について一般論を述べているのである。都合のいいところだけを切り取り、恣意的に答弁する鶴保大臣の姿勢は、極めて問題であると考えるが、いかがか。

七 十二月六日の参議院法務委員会では、鶴保大臣について、前記六とは別の参考人から、「差別を認めない担当大臣に対する人権教育の方が大切だ」、「鶴保大臣は大臣としてふさわしくない」旨の大臣としての資質を疑う発言が行われたことを厳粛に受け止めるべきだと思うが、いかがか。

八 十二月十二日の参議院沖縄及び北方問題に関する特別委員会で、鶴保大臣は、石垣市議会の意見書を引用し、「「しかし、今回の発言は県民に向けられたものではなく、県民への差別発言でもない。」としっかりと書いていただいております。こうしたことも踏まえ、総合的に勘案して、私が差別であるかどうかを断定する立場にない」と答弁している。石垣市議会の意見書があたかも沖縄県民を代表しているかのような使い方である。沖縄県議会は十月二十八日、「県外機動隊員による沖縄県民侮辱発言に関する意見書」および「県外機動隊員による沖縄県民侮辱発言に関する抗議決議」を可決している。同抗議決議では「「土人」という言葉は、「未開・非文明」といった意味の侮蔑的な差別用語であり、「シナ」とは戦前の中国に対する侵略に結びついて使われてきた蔑称である。この発言は、沖縄県民の誇りと尊厳を踏みにじり、県民の心に癒しがたい深い傷を与えた」と述べている。鶴保大臣は、同抗議決議をどのように受け止めているのか、明らかにされたい。

九 翁長沖縄県知事が「一県民としても、県知事としても言語道断で到底許されるものではなく、強い憤りを感じている」旨コメントし、沖縄県民の大半が「県民を侮辱している」、「差別である」という感想を持っていることをどう受け止めているか改めて見解を伺いたい。
 鶴保大臣は、「言われた側の感情に主軸をおくべき」と述べながら、「差別」と判断しないことを正当化することに終始している。言葉だけの問題ではなく、沖縄県民に寄り添う姿勢が見られないことが、厳しく問われているのだということを強調する。

  右質問する。