質問主意書

第192回国会(臨時会)

質問主意書


質問第六四号

「東京五輪を通じて復興に向かいつつある我が国の姿を世界に発信すること」に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十八年十二月十四日

山本 太郎   


       参議院議長 伊達 忠一 殿



   「東京五輪を通じて復興に向かいつつある我が国の姿を世界に発信すること」に関する質問主意書

 二〇二〇年(平成三十二年)開催予定の東京オリンピック・パラリンピック競技大会(以下「東京五輪」という。)に向けて、政府は平成二十八年三月十一日に閣議決定された「「復興・創生期間」における東日本大震災からの復興の基本方針」(以下「復興基本方針」という。)等において、東京五輪を「復興五輪」と位置付け、「同大会やラグビーワールドカップ二〇一九を通じて、(中略)国の総力を挙げて力強く復興に向かいつつある我が国の姿を世界に発信する。」としている。さらにこの復興基本方針には、東京電力株式会社福島第一原子力発電所事故(以下「東電原発事故」という。)により甚大な放射能汚染を受けた福島県に関して「福島の原子力災害被災地域においては、遅くとも事故から六年後(平成二十九年三月)までに避難指示解除準備区域・居住制限区域の避難指示を解除できるよう環境整備に取り組む。こうした取組等により、本格的な復興のステージへ移行していく。」とある。これらを踏まえて、東京五輪を通じて復興に向かいつつある我が国の姿を世界に発信することに関して、安倍内閣の認識を確認すべく以下質問する。

一 東京五輪開催までの間に、避難指示解除準備区域・居住制限区域・帰還困難区域等いわゆる避難指示区域に対する避難指示解除の進捗及び支援対象地域等の縮小、さらにそれに伴う福島県外へ避難している東電原発事故被災者の福島県への帰還者数及び福島県における定住人口の増加は、政府が東京五輪を通じて「力強く復興している我が国の姿」として世界に発信できるものとなるか、政府の認識を明確に示されたい。

二 平成二十八年十一月十八日、参議院東日本大震災復興特別委員会で私が行った質疑(以下「復興特委質疑」という。)において「汚染に関して、避難区域解除の要件に空間線量率以外の決まり、ありますか。あるかないかでお答えください。」と質したのに対して、政府参考人の星野岳穂経済産業大臣官房審議官は「避難指示解除の要件のうち(中略)放射線量に係るものは、空間線量率で推定された積算線量が年間二十ミリシーベルト以下となることが確実であることというのみでございます。」との答弁を行った。我が国においては、これまで放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律(昭和三十二年法律第百六十七号。以下「放射線障害防止法」という。)や核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(昭和三十二年法律第百六十六号。以下「原子炉等規制法」という。)等によって様々な放射線防護のための基準値が定められてきたが、当該答弁における「避難指示解除の要件」の「空間線量率で推定された積算線量が年間二十ミリシーベルト以下となることが確実であること」とは、いかなる法的根拠に基づくものか。その根拠法が存在するのであれば、該当する条文とともに明確に示されたい。またその根拠法が存在しない場合は、当該「避難指示解除の要件」の「空間線量率で推定された積算線量が年間二十ミリシーベルト以下となることが確実であること」については、我が国の国内法において法的根拠が存在しない旨を、政府として明確に示されたい。

三 前記二に関して、東京五輪を通じて国の総力を挙げて力強く復興に向かいつつある我が国の姿を世界に発信するに当たって、我が国が東電原発事故に伴い生じた避難指示区域の解除の要件を「空間線量率で推定された積算線量が年間二十ミリシーベルト以下となることが確実であること」としている旨についても具体的かつ詳らかに世界に発信するのか、また発信しない場合はその理由は何か、政府の認識を明確に示されたい。

四 復興特委質疑においても指摘したように、ふくいち周辺環境放射線モニタリングプロジェクトからの情報によれば、除染が終わった地域の土を採取、計測したもののうち、一平方メートル当たり四万ベクレルの放射線管理区域相当を下回る場所は一つだけしか確認できず、それ以外は放射線管理区域相当かそれ以上、百万ベクレルに値する地域まであるとのことである。平成二十七年六月十二日に閣議決定された「原子力災害からの福島復興の加速に向けて」の改訂版には、「住民の方々の要望等に応じた生活圏の空間線量率、食品、飲料水、土壌等のきめ細かなモニタリングや復興の動きと連携した除染といった被ばく低減対策についても今後も着実に取組を進めていく。」とあるが、この「土壌等のきめ細かなモニタリング」によって、すでに避難指示解除が行われた地域における、一平方メートル当たり四万ベクレルを上回る放射性セシウムによる汚染が認められる土壌等(以下「放射性セシウムにより高度に汚染された土壌等」という。)に関して、政府は把握しているか、すでに適切な対策によりこれらの土壌等は当該地域から完全に除去されているのか、明確に示されたい。

五 前記四に関して、東京五輪を通じて国の総力を挙げて力強く復興に向かいつつある我が国の姿を世界に発信するに当たって、東電原発事故に伴い生じた放射性セシウムにより高度に汚染された土壌等が、すでに避難指示解除が行われた地域において完全に除去されているか、政府として具体的かつ詳らかに世界に発信するのか、また発信しない場合はその理由は何か、政府の認識を明確に示されたい。

六 東京電力原子力事故により被災した子どもをはじめとする住民等の生活を守り支えるための被災者の生活支援等に関する施策の推進に関する法律(平成二十四年法律第四十八号。以下「東電原発事故被災者支援法」という。)は、附則第二項で「国は、第六条第一項の調査その他の放射線量に係る調査の結果に基づき、毎年支援対象地域等の対象となる区域を見直すものとする。」としている。「第六条第一項の調査」とは「東京電力原子力事故により放出された可能性のある放射性物質の性質等を踏まえつつ、当該放射性物質の種類ごとにきめ細かく、かつ、継続的に実施する」調査と解されるが、現在、避難指示区域においても東電原発事故被災者支援法に基づき当該調査が行われているとの理解でよいか、政府の認識を明確に示されたい。

七 平成二十七年八月二十五日に改定が閣議決定された「被災者生活支援等施策の推進に関する基本的な方針」(以下「被災者支援基本方針」という。)の「Ⅱ 支援対象地域に関する事項」は、東電原発事故被災者支援法附則第二項の規定について、「法の規定上は「放射線量に係る調査の結果に基づき、毎年支援対象地域等の対象となる区域を見直すもの」とされており、線量の低下に伴って支援対象地域を縮小することを予定していたものと考えられる。」としており、同法附則第二項において区域の見直しに際して要請している「第六条第一項の調査」を削除している。被災者支援基本方針において、同法附則第二項から「第六条第一項の調査」を削除して引用した理由を明確に示されたい。また、被災者支援基本方針においては、東電原発事故被災者支援法第六条第一項の定める「東京電力原子力事故により放出された可能性のある放射性物質の性質等を踏まえつつ、当該放射性物質の種類ごとにきめ細かく、かつ、継続的に実施する」調査は、毎年支援対象地域等の対象となる区域を見直す際に考慮する必要はないとしているとの理解でよいか、政府の認識を明確に示されたい。

八 我が国は、これまで放射線障害防止法や原子炉等規制法等によって、国民の放射線障害を防止し、公共の安全を確保することを担保するため様々な放射線防護のための基準値を定めてきたが、平成二十五年十二月二日に提出した「放射線被ばく環境下における居住に関する質問主意書」(第百八十五回国会質問第七九号)に対する答弁書(内閣参質一八五第七九号)の八についてでは「住民の被ばく線量の評価は、放射性同位元素の使用等を規制する放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律施行規則の適用外」との答弁があった。支援対象地域等及び避難指示が解除された地域に居住あるいは帰還を希望する住民に対して、放射線障害防止法及び原子炉等規制法の他に、放射線障害を防止し、公共の安全を確保することを担保する法律が存在するのであれば、その法律を該当する条文とともに示されたい。また当該法律が存在しないのであれば、支援対象地域等及び避難指示が解除された地域に居住あるいは帰還を希望する住民に対して、放射線障害を防止し、公共の安全を確保することを担保する法律が、現在の我が国には存在しない旨を、政府として明確に示されたい。

九 前記二で示した「避難指示解除の要件のうち(中略)放射線量に係るものは、空間線量率で推定された積算線量が年間二十ミリシーベルト以下となることが確実であることというのみでございます。」との復興特委質疑に対する政府答弁を踏まえれば、放射性セシウムにより高度に汚染された土壌等が存在する地域であっても、空間線量率で推定された積算線量が年間二十ミリシーベルト以下となることが確実である地域であれば、当該地域において居住する住民にはいかなる放射線障害による健康影響も起きる可能性はないと政府は認識しているとの理解でよいか、明確に示されたい。

十 平成二十六年六月五日に提出した「いわゆる「風評被害」に関する質問主意書」(第百八十六回国会質問第一一七号)の一で政府における「風評被害」の定義を明確に示すよう質した。この点について、同質問主意書に対する答弁書(内閣参質一八六第一一七号)の一及び六についてでは、東京電力株式会社福島第一、第二原子力発電所事故による原子力損害の範囲の判定等に関する中間指針においては「いわゆる風評被害については確立した定義はないとし、また、かかる被害に対して風評被害という表現自体を避けることが本来望ましい(中略)ともされている。」と答弁しておきながら、復興基本方針では「風評被害の払しょくに向けて、「風評対策強化指針」においてこれまで講じた風評被害対策を継続的に検証し、一層の効果的取組を推進していく。」として、今なお「風評被害」との語を政府として使用し続けている。復興基本方針で払しょくするとしている「風評被害」とは具体的にいかなる被害のことを指すのか、改めて政府の認識を明確かつ詳らかに示されたい。

十一 前記十に関して、東京五輪を通じて国の総力を挙げて力強く復興に向かいつつある我が国の姿を世界に発信するに当たって、復興基本方針で払しょくするとしている「風評被害」とはいかなる被害のことを指すのかについても理解を得るべく具体的に世界に発信するのか、政府の認識を明確に示されたい。また発信する場合、「風評被害」との語をいかなる英語に訳して世界の理解を得ようと考えているのか、政府の見解を具体的に示されたい。

十二 平成二十五年九月十三日、復興庁は「二〇二〇年・東京オリンピックの開催について」を発表し、その「1 復興における東京オリンピックの意義」で、「東京オリンピックは、東日本大震災で被災された方々に勇気と希望を与え、復興の力になると確信。また、世界各国からの大震災への支援に感謝し、力強く復興している我が国の姿を世界に発信する絶好の機会。」としている。しかし復興特委質疑で指摘した通り、平成二十九年三月末日で東電原発事故の避難区域以外からの自主避難者に対する避難用住宅(いわゆる「みなし仮設住宅」)への居住に要する費用の無償化(以下「みなし仮設無償化」という。)が完全に打ち切られることによって、居住地選択や家計に多大な負担を強いられる被災者が少なくないことも事実である。東京五輪開催を前にして、みなし仮設無償化を打ち切ることは、「東日本大震災で被災された方々に勇気と希望を与え」ることになるか、政府の認識を明確に示されたい。

  右質問する。