質問主意書

第192回国会(臨時会)

質問主意書


質問第六一号

モザンビーク農業開発のための三角協力プロサバンナ事業に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十八年十二月十三日

石橋 通宏   


       参議院議長 伊達 忠一 殿



   モザンビーク農業開発のための三角協力プロサバンナ事業に関する質問主意書

 二〇〇九年九月に、日本、ブラジル、モザンビークの三カ国政府によって合意され、その後プロジェクトがスタートした「日本・ブラジル・モザンビーク三角協力によるアフリカ熱帯サバンナ農業開発プログラム」(以下「プロサバンナ事業」という。)については、二〇一二年十月、モザンビーク最大の小農運動を率いる全国農民連合(UNAC)が抗議声明を発表して以来、二〇一三年五月には「プロサバンナ事業の緊急停止」を求める公開書簡が三カ国首脳宛に提出されるなど、現地農民や市民社会の懸念や反対の声が繰り返し表明されてきた。また、現地の反対派農民や市民グループは、彼らに対する言論弾圧等の人権侵害や介入が頻発していると訴え、これまで三カ国の市民社会グループによる計三十もの声明や要請・嘆願書が出されてきたところである。
 そのような中、今年に入ってから、独立行政法人国際協力機構(JICA)による情報開示により、日本政府の出資によってプロサバンナ事業のコミュニケーション戦略(以下「コミュニケーション戦略」という。)が策定され、その契約にもとづき「処方箋」等を含むいくつかのレポートの集合体として完成した「コミュニケーション戦略書(ProSAVANA: Estrategia de Comunicaca~o)」(二〇一三年九月。以下「戦略書」という。)が策定され実施に移されてきたことが明らかになっている。
 以上の経緯を踏まえ、以下、質問する。

一 現在までに、プロサバンナ事業に投じられてきた日本政府(JICAを含む)の公的資金(財政支出)の総額を年度毎の内訳を含めて明らかにされたい。

二 前記一の中で、同事業の三本柱の一つである「マスタープラン策定支援プロジェクト」(PD)に対し、日本政府がこれまで投じてきた公的資金(財政支出)の総額と、そのうち、PDの当初予定された終了時期であった二〇一三年九月以降に投じられた公的資金(財政支出)の総額を併せて明らかにされたい。

三 PDが、当初予定された終了時期に完了せず、現在に至るまで、およそ三年以上に渡って継続している理由を示されたい。

四 日本政府またはJICAが、コミュニケーション戦略の策定及び実施のために契約した企業名、契約日、契約期間、契約金額及びこれまで支払った金額を示されたい。

五 コミュニケーション戦略の事業は、日本政府またはJICAが単独で実施している事業か、または、協力パートナーであるブラジル政府及びモザンビーク政府も関与をして実施している事業か、事実関係を明らかにされたい。仮にブラジル政府及びモザンビーク政府も関与している場合には、それぞれが同戦略の策定・実施のために拠出した資金の総額を明らかにされたい。

六 JICAは、二〇一三年八月に「プロサバンナの戦略確定事業」という名称でCV&A社と契約を締結し、この契約に基づいて戦略書が策定された。戦略書は二〇一六年十二月七日に、JICAによって、同機構の公式文書であることが確認されている。戦略書には、以下の①から④の記述があるが、これは事実であるか確認されたい。なお、原文はポルトガル語であることから、日本語訳に誤りがあるという場合には、その誤りを具体的に指摘し、当該箇所の政府としての公式な日本語訳を明らかにされたい。

①【戦略書三十四ページ】「市民社会諸組織のモザンビークのメディアに対する影響力については、継続的なコミュニケーションを保持することで、特にモザンビークにおける組織の実効力を減らしていくものとする。」
②【戦略書三十四ページ】「コミュニティとの直接的なコンタクトを行うことによって、コミュニティあるいは農民を代表するこれらの組織の価値/信用を低下させることができる。」
③【戦略書三十五ページ】「モザンビーク市民社会諸組織の重要性を奪うことによって、モザンビークで活動する外国NGOの力を削ぐことができる。」
④【戦略書三十五ページ】「ブラジルのセラードとナカラ回廊の結びつきを遠ざけることにより、これらの国際NGOが去年来使用してきた主要な論点のいくつかに関して信用を低下させることが可能となる。」
⑤【戦略書三十五ページ】「それでも、その影響力が継続するならば、以下のアクションを勧める。モザンビークで果たされている外国の諸組織の役割について問題化する、あるいは批判する(この批判については、モザンビーク当局によって推進される)。」

七 プロサバンナ事業については、二〇一四年五月十二日の参議院決算委員会における私の質疑に対し、岸田文雄外務大臣並びに田中明彦JICA理事長(当時)が、現地農民や市民社会からの抗議や反対の声があることを認識していることに加え、当該組織との「丁寧な対話」を行っていく旨の答弁を行っている。しかし、その直後の二〇一四年七月付のCV&A社からJICAへの「活動報告」によれば、JICAが戦略書を策定したCV&A社に「戦略の実行」を行わせていたことが明記されている。「小農支援」を謳う我が国の農業開発協力のための事業で、日本のODAのための公費(日本国民からの貴重な税金)を使い、外務大臣やJICA理事長の国会答弁にも反する形で、JICAがこのような戦略書を策定し、さらにCV&A社にその中身を実行させていたことの正当性・妥当性について、日本政府としての見解を明らかにされたい。

八 戦略書の策定後、モザンビークでは、プロサバンナ事業に異議を唱える農民・市民(組織)への政府による付きまといや威嚇、脅迫などの弾圧が行われてきたことが、三カ国の市民社会によって繰り返し指摘されている。例えば、現地NGOは、二〇一五年五月十一日、ナンプーラ州マレマ郡では、二〇一五年四月のマスタープランの公聴会で疑問を口にした農民組織の代表が、地元政府関係者に付きまとわれ、プロサバンナ事業に同意し、村の家々を尋ねてプロサバンナ事業への賛同を呼びかけなければ投獄すると脅迫されたことを公表しており、日本のNGOによる二〇一五年八月の現地調査でも、この事実が確認されている。このような人権侵害の具体的ケースは、日本のNGOを通じてJICA及び外務省に逐次、報告されてきたと理解しているが、日本政府として、プロサバンナ事業に関連して生じているこれらの人権侵害事案に対し、報告を受けて以降どのように対処してきたのか、または今後対処するつもりなのか、明らかにされたい。

九 二〇一六年四月十二日にJICAモザンビーク事務所で開催された会議で、JICAが「ステークホルダー関与プロジェクト」の名称で資金を拠出して設置した「市民社会対話メカニズムMCSC-CN」の責任者であるコーディネイターAntonio Mutuoa氏が、三カ国の事業担当者に行った説明が明らかになっている。会議記録によると、同氏は、「我々は、「プロサバンナにノー キャンペーン」に参加するNGOやその支援者に対し、「(精神的に)働きかけるミッション」を実行に移す一方、むしろメカニズムのビジョンと手を組むよう(促す)活動に従事している。これを、マプト市(首都)でも州レベルでも、すでに実行した。」と述べたという。この会議記録には、JICAモザンビーク所長の署名も残されているが、この会議記録ならびに同氏の発言内容は事実であるか、あらためて確認されたい。

十 モザンビークの農村モニタリング研究所(OMR)によると、本年八月、JICAによってモザンビーク国内で公示された「マスタープランに関する農民や市民社会組織を含むステークホルダーの意見聴取と同プラン最終化」のためのコンサルタント契約に関し、JICA関係者がモザンビーク元農業副大臣を伴って同研究所を訪れ、応札を強く要請したとのことであるが、これは事実か確認されたい。事実である場合、競争入札の前提を蔑ろにする不正な対応と考えるが、日本政府の見解を示されたい。なお、同研究所は応札をしていない。

十一 本年十一月十五日のJICAの説明によると、前記十の公示事業(マスタープラン最終化)について、四社が応札した結果、JICAは前記九の発言を行ったMutuoa氏がコーディネイターを務めるモザンビークNGO「Solidariedade Mocambique(ナンプーラ州)」とコンサルタント契約を結び、六カ月で二十万六千百三十九・七五米ドル(約二千二百万円)を支払うという。現地の物価水準並びに去年から現地通貨価値が暴落していることを考えると、NGOへの同種の事業契約としては異例に高額な水準と考えられるが、この予算の内訳(積算根拠)とその妥当性を示されたい。

十二 現状、依然として、明確にプロサバンナ事業に異議を唱える農民や市民社会組織が多数あり、とりわけナンプーラ州農民連合が強い反対の立場を取り続けている中、公的な援助機関としてのJICAには、中立かつ公正さが求められるはずである。にもかかわらず、農民団体や市民社会の参加・参画を得るためのJICA事業において、四応札者の中から、前記九の会議記録に示されているような反市民社会的活動に従事し、プロサバンナ事業推進のために政府とともにブラジル等でも活発に宣伝活動を行うMutuoa氏の所属団体を選定し、巨額の契約金を与えるような決定を行った理由を示されたい。

十三 前記十一のJICAとSolidariedade Mocambiqueとの契約について、本年十一月八日、三カ国の市民社会組織は、「公正さを欠く」だけでなく、「JICAによる市民社会への介入と分断の促進」と強く抗議する声明を現地の新聞で発表したが(O Pais紙、Verdade紙)、その中で示された具体的批判についての日本政府の見解を示されたい。

十四 前記の通り、二〇一二年十月にUNACが最初に抗議声明を発出して以降、四年が経過するが、大変残念ながら、今に至っても、プロサバンナ事業は、本来のあるべき農業開発協力事業からかけ離れたところで、日本国民の貴重な税金が使われているのではないかという強い懸念を禁じ得ない。この状況について、日本政府としていかなる評価をし、そしてここから得られた教訓を、その他の地域も含め、今後の日本の国際協力事業の実施にどのように活かしていく所存か、政府の見解を示されたい。

  右質問する。