質問主意書

第192回国会(臨時会)

質問主意書


質問第五二号

塩化ラジウム(ラジウム223)注射液(製品名ゾーフィゴ静注)に関する再質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十八年十二月十二日

川田 龍平   


       参議院議長 伊達 忠一 殿



   塩化ラジウム(ラジウム223)注射液(製品名ゾーフィゴ静注)に関する再質問主意書

 塩化ラジウム(ラジウム223)注射液(製品名ゾーフィゴ静注)に関する質問主意書(第百九十二回国会質問第二六号)を本年十一月四日に提出し、同月十五日に答弁書(内閣参質一九二第二六号。以下「前回答弁書」という。)を受け取った。アルファ線放出核種のラジウム223を用いた世界で初めてのアルファ線放出医薬品であるゾーフィゴ静注(以下「本注射液」という。)は、従来のベータ線やガンマ線を放出する医薬品と比べて内部被ばく線量が数百倍であり危険性が高いが、我が国でも製造販売の審議・承認がなされ、医療現場で使用されるようになっている。
 ラジウム223を吸入摂取した場合の実効線量係数は、経口摂取した場合の五十七倍であると前回答弁書で明らかになり、経口摂取よりも吸入摂取の方が危険度が上がるので、特に本注射液による汚染物(以下「汚染物」という。)を焼却することによる大気汚染に注意しなければならない。しかし、そのような危険性があるにもかかわらず、医療現場での取扱いミスによる汚染、本注射液を投与された患者(以下「投与患者」という。)による汚染の拡散、本注射液の廃棄物処理の際の汚染、火葬場や下水の終末処理場での汚染などの防止策が、従来のベータ線やガンマ線を放出する医薬品による汚染の防止策と変わらないことが前回答弁書で明らかになった。また、投与患者は体内に大量の放射能を抱えているにもかかわらず投与日から自由に行動でき、家族や介護者への放射線防護措置はとられず、被ばくを容認している。これでは火葬場や終末処理場で働く人やその周辺住民、汚染物を集荷し処理する人、投与患者の家族や介護者が被ばくするリスクは格段に増大する。投与患者の排泄物、終末処理場の処理水、火葬場の排気などに含まれるラジウム223の量の測定など、本注射液による汚染を監視する作業が全く不十分であることは明らかであり、汚染物の処理に関わる作業者や公衆の安全が守られるとは思えない。また、汚染物がどこでどのように処理されるのかも明確になっていない。このような現状の下、見切り発車でアルファ線放出医薬品の使用を認めることは無責任な行政対応と言わざるをえないので、再度質問する。

一 前回答弁書の五についてでは、「本注射液は五・六ミリリットルバイアル中、検定日において塩化ラジウム(ラジウム二二三)を六千百六十キロベクレル含有する製剤であり、(中略)通常、一回当たり五十五キロベクレル毎キログラムを四週間間隔で最大六回まで、緩徐に静脈内投与することとされている。このため、体重六十キログラムの成人には、通常、本注射液を投与することにより一回当たり三千三百キロベクレルが投与されることとなるため、六回投与した場合には、(中略)延べ一万九千八百キロベクレルとなる」とのことである。また、本注射液及び汚染物については放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律(以下「放射線障害防止法」という。)の適用除外とされており、医療法及び同法施行規則等において放射線の防護について定められているとのことである。以上を踏まえ、放射線障害防止法の対象となるラジウム223の「下限数量」を示されたい。また、本注射液を一回投与された患者の内部被ばく線量は「下限数量」の何倍になるか、本注射液一滴(〇・〇五ミリリットル)に含まれる放射能量は「下限数量」の何倍になるか、それぞれ示されたい。

二 患者に本注射液を一回でも投与したり、本注射液を一滴でも体外に漏らしたりした際のラジウム223の下限数量及び濃度が、原子力規制委員会が定める下限数量及び濃度を超える場合、本注射液は本来、放射線障害防止法の対象とされるべきものとなるのではないか。本注射液を使用するに当たり、放射線障害防止法第一条に規定する「放射線障害を防止し、公共の安全を確保する」ことが、医療法及び同法施行規則等による規制で実現できると考えているのか、見解を示されたい。

三 前回答弁書の五についてでは、投与患者が受ける内部被ばく線量については、「腫瘍の大きさや体内でのラジウム二二三の分布には個人差があること、(中略)ラジウム二二三等が体外に排せつされることも考慮する必要があること等から、正確な内部被ばく線量を算出することはできない」とのことであったが、内部被ばく線量の概数をも示せないままに本注射液を医療現場で使用してよいと考えるのか、投与患者や家族に対して本注射液の投与による内部被ばく線量とそのリスクについて説明しなくてよいのか、それぞれ見解を示されたい。

四 内部被ばく線量の正確な算出ができないことはその通りであろうし、そこまで求めるつもりはないが、投与患者の個人差をも踏まえ核種が人体に与える平均的な被ばく線量を算出するための係数として国際的に認められている実効線量係数を用いて、投与患者が受ける内部被ばく線量を計算し、その値を示されたい。

五 世界初のアルファ線放出医薬品である本注射液を審議・承認した本年二月二十六日の薬事・食品衛生審議会医薬品第二部会の議事録によると、医薬品医療機器総合機構が「本剤はラジウム223を活性本体とする放射性医薬品であり、腫瘍の骨転移部位に集積し、アルファ線を放出することで、DNAの二重鎖切断を誘発し、腫瘍の増殖を抑制すると考えられています。」と説明している。この説明によれば、本注射液を体内摂取した場合、ラジウム223が集積した腫瘍の骨転移部位の周辺にある普通の細胞まで二重鎖切断という大きな変異をもたらす傷を受けるのではないか、見解を示されたい。普通の細胞が傷を受けるような問題はないというのであれば、その根拠を示されたい。

六 前記五で示した議事録によれば、同日の配付資料は二十六点あるが、このうち公開されているのは二点のみであり、肝心の本注射液を事前審査した専門委員九名の名前やその審査報告書に関する資料は公開されていないが、その理由を明らかにされたい。また、同専門委員の名前を公表すると製薬企業の知的財産権に支障を来すことになるのか、同専門委員とバイエル薬品など製薬企業との利益相反の有無も含め、具体的に明らかにされたい。

七 医療現場において、本注射液を一滴でもこぼすと、放射線障害防止法による規制対象の放射性物質に相当すると思われるが、本注射液をこぼした場合の対応を示されたい。本注射液がこぼれて汚染されたシーツ類は病院内で焼却することがあるのか明らかにされたい。汚染物を岩手県滝沢市にある日本アイソトープ協会の施設(RMC)で焼却する計画があるようだが、同市は現在、汚染物の搬入受け入れについて慎重に検討しており、受け入れを拒否する可能性もあると承知している。汚染物の受け入れ先が決まるまでの間、汚染物をどのように扱うよう医療現場に指導するつもりなのか、方針を示されたい。

八 「放射性医薬品を投与された患者の退出に関する指針」によれば、ラジウム223を静注された体重二百二十キログラム以下の投与患者は医療機関からの退出・帰宅が認められるが、投与患者の医療機関外での排泄物の処理について規制はあるか示されたい。排泄物を下水へ流す場合、当該下水の終末処理場へは誰がどのように連絡するのか、同終末処理場において下水中のラジウム223の放射能測定を行いその結果を公表しているのか、終末処理で生じるスラッジの処分については、下水道法で対応が規定されているのか、それぞれ示されたい。また、投与患者の家庭での排泄物の処理は厳重に管理されているのか、同排泄物による家族の汚染、特に放射線の感受性が高い妊婦や子ども達が汚染されることはないのか、それぞれ示されたい。

九 前回答弁書の九についてでは、「遺体の火葬については、専門家から「英国放射線防護庁(NRPB、現HPA)等の資料で、公衆の被ばくは低いことが示され、大きなリスクを負うことはないと考えられます」と報告を受けており、安全性が確保されているものと考えている」とあるが、これは「考えている」といったいい加減な答弁であり、科学性がない。安全性が確保されているとする科学的な根拠を具体的に示されたい。

十 前回答弁書の九についてでは、「廃棄物が焼却される場合、病院等については規則第三十条の十一第一項第四号の規定に基づき、協会については規則第三十条の十四の三第三項第五号の規定に基づき、それぞれ排気設備に連結されている焼却炉を設けることを定めている。当該排気設備については、規則第三十条の二十六第一項の規定において、排気中等の放射性同位元素の濃度限度を定めるとともに、規則第三十条の十一第一項第三号イの規定において、排気口における排気中等の放射性同位元素の濃度を当該濃度限度以下とする能力を有するものであることを定めている。このため、各病院等がこれらの規定に基づき適切に対応し、安全性が確保されるものと考えている。」とあるが、ラジウム223の排気中等の濃度限度を示されたい。また、同答弁にある「排気中等の放射性同位元素の濃度を当該濃度限度以下とする能力」を排気設備が有することをどの機関がどのように確認しているのか明らかにされたい。加えて、ラジウム223や不純物として混入する親核種などについて、排気中等の濃度限度以下となっているか、実際に測定し確認しているのか、同測定を行う法令上の根拠を含め明らかにされたい。

十一 本注射液は前立腺がん骨転移患者の延命治療薬であるが、薬効の甲斐なく亡くなられ火葬された場合、火葬場の排気に亡くなられた患者内にあったラジウム223の大部分が排出されるものと思われるが、その排気の放射能測定は行われているか、同測定を行う法令上の根拠を含め明らかにされたい。また、排気による放射能汚染対策はどうなっているか、焼却炉のフィルターで放射能を何%除去できるか、放射能濃度のモニタリングは常時行われているのか、それぞれ示されたい。

十二 放射性医薬品基準に本注射液に関する基準の追加等を行うため、二〇一五年十一月二十七日、「放射性医薬品基準の一部を改正する件(案)」についてパブリックコメントが行われたが、その意見の応募件数を示されたい。また、同パブリックコメントの「放射性医薬品基準(案)」において、「検定日において、トリウム227の放射能はラジウム223の放射能の0.8%以下である。」とされている箇所が、平成二十八年三月二十八日厚生労働省告示第百七号において改正された放射性医薬品基準では、「検定日において、検出されない(検出限度0.1%)。」へと変更されているが、変更した理由と「検出限度0.1%」の意味を示されたい。

十三 アルファ線放出核種による様々な被害の例として、エックス線造影剤のトロトラストの例、ラジウムを含んだ夜光塗料が原因でガンを発症した米国のラジウムガールズの例、ポロニウムにより毒殺されたとみられるリトビネンコ氏の例があるように、アルファ線放出核種は人体への危険性が極めて高い。アルファ線放出医薬品を使用するメリットと、これによる広域な環境汚染や取り扱う人たちの被ばくリスクを比較考量しても、本注射液の製造販売を承認したことは、放射線障害防止法第一条に規定する目的に照らして正しい選択だったと考えているのか、見解を示されたい。

  右質問する。