質問主意書

第192回国会(臨時会)

質問主意書


質問第四八号

シベリア抑留問題の現状に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十八年十二月一日

那谷屋 正義   


       参議院議長 伊達 忠一 殿



   シベリア抑留問題の現状に関する質問主意書

 本年十二月十五日、ロシアのプーチン大統領が来日し、日露首脳会談が予定されている。今から六十年前の一九五六年十月十九日に調印された日ソ共同宣言で、全シベリア抑留者の帰還が約束され、同年十二月二十六日、ソ連からの最後の引揚船が舞鶴に入港して、十一年間にわたる「シベリア抑留」は終了した。日ソ共同宣言は、政府間の請求権相互放棄を明記し、抑留者への未払い賃金問題は、二〇一〇年に制定された戦後強制抑留者に係る問題に関する特別措置法(以下「特措法」という。)により日本政府が特別給付金を支給する形で一定の負担をし、一応の解決をみた。特措法には、政府が強制抑留の実態調査等を総合的に行うため、実態調査等の基本的方向や、死亡した抑留者の調査、遺骨・遺留品の収集と送還、労苦継承事業、死亡した抑留者の追悼事業などの実施の基本的事項などを定めた基本方針を策定することが規定されている。
 しかしながら、特措法制定から六年が経過し、生存する抑留体験者の平均年齢が九十三歳に達する中、約六十万人の日本人が戦後に騙されてソ連、モンゴル等に移送され、飢えと寒さと強制労働のために抑留者の約一割に当たる六万人以上が異国で死没した重大な人権侵害が、日露両国政府で真摯に受け止められ、実態調査等が行われているのか、不安・疑問視する声が少なくない。本年十月にはシベリアの遺骨収集の現場で、DNA鑑定用に確保されていた検体を誤って焼却してしまう不祥事も発生した。
 以下、シベリア抑留問題の現状に関する政府の認識について質問する。

一 本年十二月十五日に予定されている日露首脳会談において、シベリア抑留の実態解明の推進について取り上げ、話し合う予定はあるか明らかにされたい。また、抑留体験者は、ロシアとの平和条約締結交渉の中においてもシベリア抑留問題について真摯な協議が行われることを強く要望しているが、同交渉にそのような態度で臨む方針であるのか、政府の認識を示されたい。

二 安倍総理は、プーチン大統領と頻繁に首脳会談を重ねてきたが、これまでの日露首脳会談で、安倍総理がシベリア抑留の実態解明の推進について言及したことはあるか明らかにされたい。言及したことがあれば、その内容とそれに対するプーチン大統領の発言を明らかにされたい。

三 特措法のロシア語の訳文はあるか示されたい。また、これまで、特措法についてロシア政府に説明したことはあるか明らかにするとともに、ロシア政府は特措法の趣旨を理解しているか、政府の認識を示されたい。

四 近年の調査や研究を踏まえ、政府が把握している抑留者の数は何人か、そのうち女性や外国籍(植民地出身者)の方は何人か、それぞれ示されたい。また、抑留者の人数を各都道府県別に示されたい。

五 樺太、千島列島、北朝鮮、中国東北部(旧満州)においてソ連軍の統制下で抑留された方の人数は、それぞれ何人か示されたい。

六 一九四五年から一九五六年まで日本人が抑留された収容所は全部で何か所あったと推定しているか示されたい。それらの中で、存在の事実を日本政府が把握している収容所は何か所か示されたい。また、日本政府職員・関係者らが訪問できた収容所跡・埋葬地は何か所か示されたい。

七 抑留中に亡くなった方の遺族に対して、どの程度正確に死亡の事実が伝達されているか、政府の認識を示されたい。抑留犠牲者について出された死亡告知書は全部で何人分か、それらの死亡告知書の発信者は誰か、それぞれ示されたい。

八 特措法に基づく実態調査等を行っている政府内の部局と責任者を明らかにされたい。また、同実態調査等にこれまで政府が支出した額を示されたい。

九 強制抑留の実態解明作業に関するロシア政府の窓口はどこが担当しているか示されたい。ロシア政府の同作業に係る費用はすべて日本政府が負担してきたのか、それともロシア政府が負担した費用はあるのか、明らかにされたい。

十 強制抑留の実態解明のために、ロシア政府とはこれまで公式、非公式を問わず、何回協議を行ったか明らかにされたい。また、次回協議を行う予定と、その際に取り上げる予定の課題を示されたい。

十一 死亡した抑留者の主な死因を列挙し、それぞれの割合を示されたい。

十二 死亡した抑留者の中で、戦犯またはソ連国内法違反者として処刑された方は何人いたか示されたい。また、処刑された抑留者の起訴状や裁判記録を日本政府は保有しているか、それらの記録は現在どこで保管されているか、それぞれ明らかにされたい。

十三 戦犯またはソ連国内法違反者として処刑された抑留者について、日本政府はソ連以外の連合国がそれぞれの国で行った軍事裁判及び極東国際軍事裁判で有罪判決を受けた方と同等に扱ってきたか、相違点があれば説明されたい。

十四 一九九〇年代に戦犯またはソ連国内法違反者として処刑された抑留者に対する名誉回復が行われたが、同名誉回復に係るソ連・ロシアの法令および同法令に基づく措置について、日本政府は、ソ連・ロシア政府からどのように知らされ、その内容を同抑留者の遺族らに正確に伝達してきたか、明らかにされたい。

十五 戦犯およびソ連国内法違反者のほとんどが冤罪であり、処刑は不当なものであったが、日本政府はそれらに関する調査や補償を行うよう、ソ連・ロシア政府に要求したことはあるか、明らかにされたい。

十六 強制抑留における労働・使役は、炭鉱採掘、森林伐採、鉄道敷設、工場勤務、建物建築などであったことがよく知られているが、労働・使役に占める割合がそれぞれ何割程度と推定されるか示されたい。

十七 毎年十二月二十六日をソ連からの帰還終了の記念日として、政府主催の式典等を行う予定はあるか、明らかにされたい。

  右質問する。