質問主意書

第192回国会(臨時会)

質問主意書


質問第四五号

体罰や懲戒の定義と体罰等を行う悪質な各種教育団体等への対応に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十八年十一月二十九日

山本 太郎   


       参議院議長 伊達 忠一 殿



   体罰や懲戒の定義と体罰等を行う悪質な各種教育団体等への対応に関する質問主意書

 体罰の有害性については、一般社団法人日本行動分析学会が科学的研究等の蓄積を踏まえ「「体罰」に反対する声明」を出している。複数の医学・教育学・心理学等の論文からも体罰の有害性は明確に証明されている。
 学校での体罰は明治十二年の教育令第四十六条以来法律で禁止されており、初等教育での体罰禁止の空白期間は一時期あったが、現在は学校教育法第十一条で禁止されている。また、児童虐待の防止等に関する法律(以下「児童虐待防止法」という。)第三条には「何人も、児童に対し、虐待をしてはならない。」とある。
 そこで、以下体罰や懲戒の定義を確認するとともに、体罰等の問題や体罰等を行う悪質な各種教育団体等への対応について、質問する。

一 懲戒と体罰・虐待について

1 民法第八百二十条の「子の利益のため」に同法第八百二十二条では「親権を行う者は、第八百二十条の規定による監護及び教育に必要な範囲内でその子を懲戒することができる」と定められているが、同条の「監護」及び「懲戒」の定義を説明されたい。
2 児童虐待防止法では児童虐待の定義を第二条で定めている。また厚生労働省ホームページの「児童虐待の定義と現状」ではより詳細に児童虐待を定義している。これらで定義された児童虐待は当然、民法第八百二十二条の「懲戒」から除外されると考えてよいか。除外されていない場合、児童虐待の両定義のうちどの事項が「懲戒」に該当するか示されたい。
3 子どもの権利委員会一般的意見八号(二〇〇六年)の「Ⅲ.定義」「11.」で述べられている体罰の定義で例示されている事項は、民法第八百二十二条の「懲戒」には該当せず、児童虐待防止法第二条で定義された「児童虐待」に当たり、我が国でも法律により禁止されていると考えてよいか。禁止されていない事項がある場合、どの事項が禁止されていないか示されたい。
4 民法第八百二十二条の「懲戒」をする方法として体罰や心理的虐待の行使を一定程度でも認めているのかどうか、政府の見解を明らかにされたい。
 我が国が批准している子どもの権利に関する条約(以下「子どもの権利条約」という。)第十九条及び第三十七条では体罰その他の残虐な又は品位を傷つける形態の罰から保護されるための子どもの権利を擁護しており、禁止される行為を前記一の3の子どもの権利委員会一般的意見八号で定義していると理解している。民法第八百二十二条の「懲戒」をする方法として体罰や心理的虐待の行使を一定程度でも認めている場合、同条約と国内法との間に矛盾が生じると考えるが、政府の見解を明らかにされたい。矛盾が生じている場合は、同条約に矛盾しないよう国内法等における懲戒や体罰の解釈等を変更する必要があると考えるが、政府の見解を示されたい。
5 学校では、憲法第三十一条、子どもの権利条約第十九条、第二十八条第二項及び第三十七条並びに学校教育法第十一条等に基づき体罰は禁止されており、「体罰の禁止及び児童生徒理解に基づく指導の徹底について(通知)」(二十四文科初第千二百六十九号)の別紙では、体罰が例示されている。また、教育的懲戒については、学校教育法第十一条で「教育上必要があると認めるとき」に加えることができるとされるとともに、学校教育法施行規則第二十六条で「児童等の心身の発達に応ずる等教育上必要な配慮をしなければならない」とされており、慎重な運用が求められている。
 そこで、前記一の2における厚生労働省の「児童虐待の定義と現状」で示された「心理的虐待」を例示した通知等があれば示されたい。また、「心理的虐待」は当然学校でも禁止されていると理解してよいか、政府の見解を明らかにされたい。禁止されていない場合はその理由を説明されたい。
6 子どもの権利条約第十二条第二項では「特に、自己に影響を及ぼすあらゆる司法上及び行政上の手続において、国内法の手続規則に合致する方法により直接に又は代理人若しくは適当な団体を通じて聴取される機会を与えられる」と定められているが、これを踏まえ、学校教育法及び学校教育法施行規則では、児童生徒に対する聴取又は聴聞の機会が学校の手続きとしてどのような形で設けられ、機能しているか示されたい。また、同聴取又は聴聞においては一般的にどの程度児童生徒の意見が考慮されるのか示されたい。
7 刑法第二百八条に定められた「暴行罪」は、人の身体に向けて有形力を行使した場合に成立すると私は認識しているが、その認識でよいか政府の見解を示されたい。その認識でよい場合、被害者を殴る、蹴る、叩く、投げるなどの物理的な暴行の他に、被害者に向けて物を当てないまでも物を飛ばすことや、被害者の耳元で大声でののしること、怒鳴ること、感情的に大声で叱責することなども有形力の行使に含まれるのか、それとも有形力の行使に含まれないものがあるのか、政府の見解を示されたい。
8 児童虐待防止法第三条では「何人も、児童に対し、虐待をしてはならない。」と定められている。これは、民間団体や公的機関も含めたすべての法人や国内在住者を対象とし、前記一の2の「児童虐待の定義と現状」に掲げられた虐待は当然すべて禁止されると考えてよいか、政府の見解を示されたい。禁止されないものがある場合、どのような場面や事項において禁止されないのか、具体的に説明されたい。
9 「不登校児童生徒への支援の在り方について(通知)」(二十八文科初第七百七十号)の「2 学校等の取組の充実 (3)不登校児童生徒に対する効果的な支援の充実 7.児童生徒の立場に立った柔軟な学級替えや転校等の対応」では「教員による体罰や暴言等、不適切な言動や指導が不登校の原因となっている場合は、不適切な言動や指導をめぐる問題の解決に真剣に取り組むとともに、保護者等の意向を踏まえ、十分な教育的配慮の上で学級替えや転校を柔軟に認めていくことが望まれる」としている。
 ここでは、「保護者等の意向を踏まえ」とあるが、子どもを権利の主体とする子どもの権利条約の趣旨に基づいて考えると、まず子どもの意向を第一にし、次に保護者等の意向を踏まえるのが、教育行政、学校としてのあるべき対応であると考えるが、政府の見解を示されたい。
 また、体罰は学校教育法第十一条で禁止されている。同条に違反して体罰をした者がいた場合は、真っ先にその者が教育的指導を受けたり、体罰の軽重に合わせた異動や、懲戒を受けたりするべきである。もし同通知が、体罰をした者に教育的指導や異動、懲戒などを行うよりも、まずは被害を受けた子どもが第一にクラスを替えたり、転校したりしなければならないという意味も含む通知だとしたら、極めて問題だと考える。同通知にそのような意味は万が一にもないとは思うが、念のため文部科学省の見解を示されたい。
10 前記一の9の通知は子どもやその意向に基づいた保護者の意思を尊重した場合を除き、クラス替えや転校を強いる意味ではないと信じているが、同通知の趣旨は言葉足らずで、真意が伝わりにくいのではないか。同通知をどんな教員が読んでも理解できるように、平易な言葉に改めるつもりはないか、文部科学省の見解を示されたい。
 「平成二十七年度「児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査」結果(速報値)について」の「(3-12)都道府県別いじめの認知件数等(国公私立)」では、都道府県別の児童生徒千人当たりのいじめの認知件数の最多は京都府の九十・六件、最少は佐賀県の三・五件とされており、両者は約二十六倍の差である。教育行政においても地方自治が認められているとはいえ、地方自治体間で極端に教育制度が異なってはいないことから、調査結果にこのような格差が生じているのは、同調査で文部科学省が用いている言葉の定義の曖昧さが一因とも考えられる。もし、同定義が厳密で他に解釈の余地がないと文部科学省が考える場合は、どのような原因があって数値に極端な格差が生じたのか説明されたい。
 文部科学省の通知は、伝えたいことは一つであるはずなのに、多様な解釈ができる言葉が使われているため、読み手によっては同じように理解することが難しくなっていると考えるが、政府の見解を示されたい。とくに体罰が行われることはあってはならず、今後の体罰に関する通知等が曖昧では、現場が誤解し児童生徒の命や心身の健康に大きく関わる問題が発生する可能性もある。だからこそ通知は厳密で他の解釈の余地がなく、かつ平易な言葉を心掛けるようにされたい。

二 懲戒権の委任について

 保護者は民間教育団体、福祉団体、公立学校、私立学校等及び個人に対し民法第八百二十二条に定められた子どもへの懲戒権を委任することができるのか、政府の見解を示されたい。もし委任できる場合、民間教育団体、福祉団体、公立学校、私立学校等及び個人のそれぞれについて、どのような手続きで、どのような懲戒の委任が許されるのか示されたい。

三 虐待や懲戒権の乱用を防止する法律について

 子どもに対する虐待や懲戒権の乱用を防ぐために、憲法第三十一条、子どもの権利条約、児童虐待防止法、学校教育法第十一条の他に、児童福祉法第三十三条や児童福祉施設の設備及び運営に関する基準第九条の二があると認識しているが、子どもへの虐待や懲戒権の乱用を防ぐ法律や条文は他にどのようなものがあるのか、すべて示されたい。

四 権利侵害に対する救済について

1 家庭等における保護者等による子どもへの権利侵害を救済する措置については、例えば児童虐待防止法に定めがあるが、学校における教員等による体罰など児童生徒への権利侵害については、どのような法律を根拠とした救済措置があるのか示されたい。
2 宗教法人、社団法人、財団法人、社会福祉法人、株式会社等の会社及び特定非営利活動法人等の民間の教育団体や福祉団体が子どもに体罰や虐待等の違法行為を行った場合、子どもの命、安全及び人権を守る観点から、業務の改善や勧告、業務の停止、法人の解散などを命じる法律は整備されているか、それぞれ団体の種類ごとに説明されたい。整備されていない場合、どの法人によるどのような行為に関する法制に不備があるのか示されたい。
 株式会社については、会社法第八百二十四条第一項本文で「裁判所は、次に掲げる場合において、公益を確保するため会社の存立を許すことができないと認めるときは、法務大臣又は株主、社員、債権者その他の利害関係人の申立てにより、会社の解散を命ずることができる」とし、その場合として同項第一号で「会社の設立が不法な目的に基づいてされたとき」を掲げている。株式会社立の教育団体又は福祉団体が、子どもに対する著しい有害行為、体罰や虐待を行う目的で設立された場合や、設立目的を逸脱して体罰や虐待を行っていた場合にも、同条の規定に該当し、裁判所は当該団体の解散を命ずることができるのか、政府の見解を示されたい。また、団体の種別を問わず、団体が命に関わる等著しく有害な業務を行っている場合は、当該団体を早急に解散させる仕組みが現行法にあるのか説明されたい。

五 戸塚ヨットスクール等の体罰を行っている団体等について

1 一九八〇年代に訓練生四人が死亡や行方不明となる事件を起こした戸塚ヨットスクール代表の戸塚宏氏は、私が提出した質問主意書(第百九十一回国会質問第九号)で取り上げたように、体罰についてマスメディアで「封印なんかしてないよ。違法じゃないんやから。そんな法律はない。体罰禁止は学校教育法の中にあるだけで、民法の中にはないんや。体罰を使った方が、この子たちはうまくなるということを知っとったもんで、うちは学校法人にせず株式会社にしたんや。」と述べたとされている。実際に東海テレビ「みんなのニュースOne」の本年九月二十八日の放送では、同スクールで嫌がる幼児を海に投げ込んだり、叩いたりしている映像が放送されている。また同スクールでは不登校児童生徒を預かる対象にしていることもホームページに明示されている。
 同ホームページには「「青少年の問題行動は、脳幹の機能低下により引き起こされる」-脳幹論」を掲載し、脳幹を鍛えることを運営の一理論としている。この戸塚氏の考えについては一般社団法人日本児童青年精神医学会が専門的立場から二〇一五年四月十二日に「戸塚宏氏ほか「私の脳幹論」に関する理事会声明」を出している。同声明では「「脳幹論」(「本能論」)自体が何ら医学的根拠を持つものではない」、「戸塚氏は、発達障害はトレーニングで治ると述べ、幻聴等の精神病症状がある場合でもトレーニングをまず行い、悪化した時は統合失調症なので、そのときに初めて精神病として扱えばいいと述べている。これは換言するなら、病気や障害を有する者が不適切な対応をされることにより悪化した場合に、初めて適切な治療や支援を受けるべきであるという考えであり、重大な人権侵害である。」と医学的見地等から戸塚氏の考えの問題点を述べている。
 実際に戸塚氏が二〇〇六年に刑務所から出所してからでも、同スクールでは二〇〇六年十月から二〇一二年一月まで自死が二件、自死とみられるものが一件、自死未遂が一件あったと朝日新聞等で報道されている。
 また、同スクールとは別件であるが、本年十一月十四日、日本テレビは、「東京の多摩地域にある寺で、「体験修行」として預かっている不登校や家庭の事情などを抱える中学生らを、住職が暴行していた疑いなどがあるとして、児童相談所がその中学生らを保護していた旨報道した。まだ事件の詳細はわからないが、同月二十日には新聞各社が、住職が中学生を布団たたきの棒で打った等の続報を報じている。
 同スクールについての報道や公表された情報を見る限り、医学や心理学の科学的根拠のない理論に基づいて、体罰・虐待の人権侵害を確信的に行い、またそこで生活する利用者が一度ならず頻繁に自死等を起こしており、このような団体は法に違反し著しく有害であると考える。政府は同スクールにおける人権侵害の事実を、地元の地方自治体に確認して把握しているか明らかにされたい。また、このような、非科学的根拠を基に死者を複数出し、体罰を行うなど人権侵害に改善が見られない民間団体に対する政府の見解と対策を示されたい。
2 一般的に行政は、子どもに有害な行為を行う団体に対して行政指導をしたり改善勧告や業務停止命令を出したりすると思うが、常習的に体罰を行う団体に対して、行政はどのような法令に基づき、どのような行政指導をしたり、改善勧告や業務停止命令を出したりするのか、前記四の2で掲げた団体ごとに法令の根拠と手続きの流れを示されたい。
3 戸塚ヨットスクールについて前記五の1で示した報道が事実だとするならば、同スクールには過去の事件への反省がなく、著しく有害な行為を行っていると私は考えるが、政府の見解を示されたい。同スクールが有害な行為を行っていると政府が考える場合、今まで国や地方自治体は同スクールに対してどのような指導を行い、対策を講じてきたのか示されたい。また、国や地方自治体が指導を行い、対策を講じてきたとしても、戸塚氏が前記五の1のような体罰肯定の発言をし、同スクールでは依然として体罰が行われている現状を考えると、さらなる指導を行い、対策を講じる必要があると考えるが、政府の見解を示されたい。さらに、それでも同スクールの行為に改善が見られず、子どもに対する著しい有害行為、体罰や虐待等の問題が起きた場合は、国や地方自治体が同スクールを解散させることができるか、政府の見解を示されたい。もしできない場合はその理由を示されたい。
4 団体の公私を問わず体罰や虐待等の人権侵害等が行われる可能性はあるが、そのような違法行為について相談したり救済を求めたりすることのできる政府統一の相談窓口や救済機関が存在するのであれば具体的に示されたい。政府統一の相談窓口等は存在せず、違法行為を行った団体を所管する省庁によって相談窓口等が異なる場合には、どのような違法行為についてどの省庁が相談窓口等を設置しているのか示されたい。また、違法行為を犯した団体の職員に対して再発防止教育やケアをするシステムがあれば示されたい。

六 体罰等子どもの人権を侵害する悪質な民間団体等を排除する方法について

1 前記五の1で示した住職による暴行報道においては、暴行を受けた中学生らを児童相談所が保護したとされているが、その事実関係を明らかにされたい。
 私の質問主意書に対する答弁書(内閣参質一九一第九号。以下「答弁書」という。)の「九の2について」では、「教育委員会の職員が民間の団体等を訪れその実態を知ること」について、「こうした取組を通じて、民間の団体等の質の向上が図られるものと期待している」としていたが、私も大切なことであると考える。この点、文部科学省は、教育委員会等の職員が訪問する対象は、教育や福祉にかかわるすべての種類の団体であると考えているのか、見解を示されたい。
 また、「民間施設についてのガイドライン(試案)」の「3 相談・指導の在り方について」で、「児童生徒の人命や人格を尊重した人間味のある温かい相談や指導が行われていること」などの方針が示されているが、「子どもの自発的意思の尊重」は明記されていない。今回は極めて稀な事例と思うが、それでも、宗教家という「人間味のある温かい相談や指導」が当然求められるような者ですら体罰を行ったと報道されていることを鑑みると、相談・指導をする者の人格の確認も大切だが、「子どもの自発的意思の尊重」を第一に重視して民間施設を評価する制度の設計に取り組むべきであると考えるが、政府の見解を示されたい。そのような取組を行う予定がない場合、その理由を示されたい。また、もう一度子どもの権利条約第三条に定められた「子どもの最善の利益」の趣旨を政府には深く考えていただき、フリースクール等の評価をされることを要望する。
2 答弁書の「九の2について」では「民間の団体等による自主的な取組として相互の評価を実施すること」が、「こうした取組を通じて、民間の団体等の質の向上が図られるものと期待している」ものの一つとして挙げられている。よい取組だと思うが、体罰や、体罰ではないが厳しすぎる規範の強制等を行う悪質なフリースクール等が相互評価をして不当に高い評価をし合う危険性があり、また、体罰等を行わない良心的団体に悪質なフリースクール等が低い評価をつけるようなことがあってはならない。さらに、子どもの権利条約等の趣旨や法令を尊重する良心的団体であっても、教育に対する思想の違いから、組織の大きい団体が弱小な団体や地方にある団体を低く評価してしまうことがありうるかもしれない。このように相互評価にはバイアスがかかりうるが、協働が「子どもの最善の利益」となるよう、民間団体等による相互評価にかかるバイアスを排除し、公平な評価が行われるようにするための政府の方策を具体的に説明されたい。
 また、悪質なフリースクール等を厳しく取り締まるのは当然としても、ごく一部の悪質な団体や個人の不良行為を口実に、子どもの権利条約の趣旨に基づいて運営する良心的団体までも厳しく管理したり、取り締まったりすることのないよう要望する。

七 学校での体罰防止について

1 明治十二年の教育令以来、現在学校での体罰は法律で禁止されているものの、文部科学省の「体罰の実態把握について(平成二十六年度)」によれば、体罰は一向になくなっていない。それどころか、平成二十六年度における体罰の発生学校数は全国で千七校、発生件数は千百二十六件と報告されている。明治十二年から現在まで百三十七年も経っているが、体罰という人権侵害行為が全国の学校で膨大に発生していることについて、文部科学省は制度のどこに問題があると考え、対策を講じているのか示されたい。
2 体罰について子どもが相談したり救済を求めたりすることのできる窓口で、教育委員会や文部科学省に属さない独立した第三者的機関が我が国に存在するのであれば具体的に示されたい。また、存在する場合は同機関について記載したカード等を児童生徒に配るだけの周知ではなく、同機関の利用方法や、相談の際に秘密や子どもの権利条約に基づく子どもの権利等が守られることなどを学校の授業等で周知する必要があると考えるが、政府の見解を示されたい。また、そのような周知を行っているのであればその内容を具体的に示されたい。
3 答弁書の「十について」は「現時点で御指摘の「子どもオンブズパーソン」を設置する予定はない」との答弁であったが、政府は悪質なフリースクール等への対策を答弁書の「九の2について」で述べられた対策以外講じる予定がないものとも理解できる。
 百年以上に渡り文部科学省は各地方自治体の模範として法令を遵守する立場から真剣に体罰防止に取り組んできたことと思うが、一向に体罰はなくならない。またいじめによる深刻な人権侵害が現実にある。体罰やいじめによる人権侵害に対応するため、子どもの権利条約に基づく第三者機関を設立し、児童生徒や教員をサポートする予定はないか、政府の見解を示されたい。
 法務省ホームページの「パリ原則に準じた国内人権機関設置に関する勧告・要請等」では、政府から独立した国内人権機構を設立するよう国際社会の場において指摘を受けている旨が掲載されている。また、UPR第二回日本政府審査・結果文書(仮訳)では、「12.法務省の人権擁護機関が人権擁護活動を実施している。2012年9月、内閣は、次期国会に提出することを前提として、パリ原則に適合する独立した人権委員会を設置するための法律案及び人権擁護委員法の一部を改正する法律案の内容を確認する閣議決定を行った。日本政府として引き続き必要な準備を進めていく所存である。」と述べられている。この法案は廃案となったが、パリ原則に適合する独立した人権委員会の設置について政府が国連人権理事会に表明したことを踏まえ、子どもの権利条約に基づく子どもオンブズパーソン、あるいは包括的機能を備えた人権救済機関(以下「第三者機関」という。)を作る予定が政府にあるのか明らかにされたい。その予定がない場合、国連人権理事会にどう説明するのか、今後の方針を法務省は示されたい。
 体罰は百年以上続いている根深い問題であるから、第三者機関を作らないという政府の既存の施策では体罰を劇的に減少させることは難しいと私は考えるが、文部科学省は既存の施策で体罰を減らしていけると考えているのか、見解を明らかにされたい。また、既存の施策で体罰を減らせると考えている場合、その施策の年次ごとの工程表と実現できなかったときの対策を示されたい。
 既存の施策としては教員を大幅に増加することによる負担軽減と、相談職員等を増加しつつ常勤化して最低一校一人体制とすることが考えられるが、今以上に教員等を増やすのは第三者機関の設立よりもコストがかかると考えられる。財務省はコスト抑制の観点から、外部人材の活用を進めて教員を削減するよう求めているが、第三者機関は作らず教員を削減して今以上に体罰を減らし、児童生徒をケアすることができるのか、財務省の認識を示されたい。
 以上を踏まえて、体罰という法律違反が長年膨大な数発生している事実に鑑みて、新たな予防策と発生後の早期解決の仕組み、体罰を受けた児童生徒のケアや体罰をした教員の再教育やケアのそれぞれについて今後どのように取り組むのか、政府は具体的に示されたい。
4 日本経済新聞の本年十一月二日の報道によれば、十年後に公立小中学校の教職員定数を最大四万九千人削減することが可能との試算を財務省がしたという。教員の精神疾患や長時間労働、いじめや体罰等の様々な教育課題が指摘され、これらが改善されていない現在、私はむしろ教職員を増やすべきであるし、カウンセラーやソーシャルワーカーといった相談職員等も正規職員として常勤化すべきと考える。日本の未来を支える子どもたちのための教育投資は削減するべきではないと考える。また、人員増加による教員の負担軽減も大切であると考える。教員と児童生徒との信頼関係の醸成は、コストの観点からは測れない。財務省は同報道の試算をどのような根拠に基づいて行ったのか明らかにされたい。また、この試算に基づく教職員定数削減案は採用せず、子どもとじっくり関われる正規で常勤の教員等を、目先の経済的視点からではなく、国家の百年先を見据えて増員すべきだと考えるが、政府の見解を示されたい。

  右質問する。