第192回国会(臨時会)
質問第八号 東京大学の研究不正の調査のあり方に関する質問主意書 右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。 平成二十八年十月十二日 櫻井 充
参議院議長 伊達 忠一 殿 東京大学の研究不正の調査のあり方に関する質問主意書 平成二十八年八月、東京大学の医学部と分子細胞生物学研究所に所属する教授六人がそれぞれ発表した計二十二本の論文データについて、不自然な点が多数あるとする匿名の告発があり、同年九月、東京大学は研究不正の有無について本格的な調査をはじめたと報道されている。また、同年八月には、東京大学循環器内科の教授が、いわゆる一連のディオバン事件の臨床研究論文に関して撤回に追い込まれたことが報道されている。 東京大学は日本における最も権威ある大学であり、その医学部で発生した研究不正の調査を適正に行わなければ、日本の科学・医学そのものに対する信頼を失う事態に陥ると考える。 研究不正とその調査のあり方に対する社会の目は非常に厳しく、過去には、理化学研究所が小保方氏によるSTAP細胞の問題において、問題を矮小化し、厳しい調査を避け続けたことで、組織の構造的な欠陥を指摘され、CDBの再編につながった。 しかし、これまでの東京大学の対応を見ると、調査委員会の委員の選考や研究不正の調査を実施する範囲について、不十分であると考える。 そこで、以下の通り質問する。 一 東京大学では、今回告発のあった二十二本の論文について本調査を進めるとしているが、告発されていない論文についての調査は実施しないとしている。さらに、二十二本の論文のなかでも、疑義が指摘されたデータに限って調査を行うべきとする意見もあると言われている。 しかし、過去に東京大学が調査を行った同大学分子細胞生物学研究所の研究不正においては、同研究所が発表した百六十五本の論文すべてを調査した結果、告発された二十四本の論文を上回る、三十三本の論文で不正が見つかったとされている。 このような前例があることから、今回の研究不正の調査において正確な結論を得るためには、疑義が指摘された論文の全データに加え、該当の研究者の過去の論文すべてを調査すべきだと考えるが、いかがか。政府の見解を示されたい。 二 東京大学では現在、調査委員会の委員の選考を行っているが、早急に調査結果を出すために、委員は東京近郊の研究者に限るという方針が示されている。しかし、東京近郊には東京大学医学部の関連病院が多く、実質的に内輪の調査と変わらない状況になりかねない。文部科学省は調査結果の信頼性を高めるためにも、大阪大学や京都大学といった、東京大学医学部の影響が少ない地域の研究者を委員に加えるよう指導すべきだと考えるが、いかがか。 三 国民に対する説明責任を果たし、内部の学生や研究者の不安に答えるとともに、被告発者の名誉を回復(不正が否定されたらいち早く発表)するためにも、東京大学は調査の進捗について中間報告を行うべきだと考えるが、いかがか。政府の見解を示されたい。また、文部科学省は東京大学に対し、そのような指導を行うつもりはあるかどうか明らかにされたい。 四 文部科学省には、度重なる研究不正をうけて研究公正推進室が作られたが、研究公正推進室が作られる以前と比較してなにがどう変わったのか、根拠とともに示されたい。 五 今回の調査で、東京大学の研究不正はすべて明らかになると考えるか、政府の見解を示されたい。また、研究不正がすべて明らかにならない場合、文部科学省の責任が問われると考えるが、いかがか。 六 一般的に、研究不正の調査において、被告発者と利害関係にある人物は調査委員会に入れるべきではないと考えるが、いかがか。 七 一般的に、研究不正の調査委員会の委員や調査の内容は明らかにされるべきであると考えるが、いかがか。 八 東京大学における研究不正の調査のあり方をめぐっては、今回告発対象となっている六名の教授のうち二名について、過去の研究不正の調査にも問題があるという指摘がある。 二名のうちの一人、糖尿病・代謝内科の教授による過去の研究不正の調査については、大学側の予備調査で、問題なしと結論付けられている。しかし、調査委員の名前や調査の内容は全く明らかにされていない。また、調査の責任者は被告発者である同教授と親しい医学部の研究者が務めたと言われている。このような、透明性に欠いた内輪の委員のみで調査を終えてしまったことは問題であり、文部科学省が研究不正の調査に対する指導を行うべきであったと考えるが、いかがか。 一方、循環器内科の教授による過去の研究不正の調査については、調査委員会に、疑義を指摘された論文を掲載した雑誌の編集担当者が入っている。被告発者の利害関係者とみなすべき人物は研究不正の調査委員会から外すべきだと考えるが、いかがか。政府の見解を示されたい。また、同教授は本年八月に自らが実施した臨床研究(VART研究)の主論文の撤回に追い込まれた。既に同教授の前職場の千葉大学が「本研究は臨床研究の基本的なルールから逸脱したものである」と断定する調査報告書を出しているにも関わらず、同教授は撤回の理由を「honest error」と強弁している。このVART研究問題は、今国会で審議される臨床研究法案(いわゆるディオバン法案)の立案に至った中心的な事件であるが、東京大学では十分な調査が行われていない。ディオバン事件に関係した他大学が行ったように、東京大学は学内メンバーに加えて第三者を含むコンプライアンス委員会を設置して真相解明を図るとともに、責任者の適切な処分を行うべきと考えるが、いかがか。政府の見解を示されたい。また、厚生労働省は、このVART研究問題に関してどのような指導を東京大学に行ったか明らかにされたい。 右質問する。 |