質問主意書

第191回国会(臨時会)

質問主意書


質問第一〇号

臨床研究法案に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十八年八月三日

川田 龍平   


       参議院議長 伊達 忠一 殿



   臨床研究法案に関する質問主意書

 第百九十回国会に政府が提出した臨床研究法案(以下「法案」という。)について、郡和子衆議院議員提出の「臨床研究に関する質問主意書」(第百九十回国会質問第三二一号。以下「郡議員主意書」という。)に対する答弁書(内閣衆質一九〇第三二一号。以下「郡議員への答弁書」という。)及び私が提出した「臨床研究法案における被験者の人権の保護と研究の公正性の確保等に関する質問主意書」(第百九十回国会質問第一四二号。以下「前回主意書」という。)に対する答弁書(内閣参質一九〇第一四二号。以下「前回答弁書」という。)を踏まえ、以下の通り質問する。

一 学問の自由と人権について

1 前回答弁書一についてに関し、現在の厚生労働省の考えは、「研究対象者の人権の尊重」は、法律によって規定すべき事柄ではないということか。もしそうなのであれば、その理由を明示されたい。なお、前回答弁書二についてにあったように、特定臨床研究における同意取得義務は、研究対象者保護の枠組みの一部すなわち必要条件であって、それのみで十分な条件ではないため、研究対象者保護の枠組みの上位概念としての「研究対象者の人権の保護」という理念を法律の目的として、法案で規定する必要性はないと考えているのか、またその理由について、それぞれ明示されたい。
2 前回主意書二において、医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令(以下「GCP省令」という。)に明記されている「被験者の人権の保護」を、なぜ臨床研究について規定する法案には明記できないのか質問したところ、「「被験者の人間の尊厳、人権の尊重」の意味するところが必ずしも明らかではない」との答弁であったが、GCP省令における被験者保護の枠組みの上位概念として省令の目的として規定される「被験者の人権の保護」の意味を厚生労働省は理解できないということか。
3 前回主意書三において、ハンセン病、薬害肝炎という公衆衛生・薬事行政に関わる重大な過誤に対する厚生労働省における検討を踏まえた厚生科学審議会医薬品等制度改正検討部会「薬事法等制度改正についてのとりまとめ」(平成二十四年一月二十四日)において、「被験者の権利の確立が必要であり、治験以外の臨床研究と治験を一貫して管理する法制度の整備を視野に入れた検討を望む」という事項が盛り込まれたことを担当官が、厚生科学審議会科学技術部会疫学研究に関する倫理指針の見直しに係る専門委員会・臨床研究に関する倫理指針の見直しに係る専門委員会の初回会議において紹介したにも関わらず、同専門委員会ではその後まったく議論されなかった事実について、「重大な歴史に学んでいないことになるのではないか。」と質問したところ、前回答弁書三についてでは、同委員会の目的は疫学研究及び臨床研究に係る指針の見直しであるため議論されなかったものと考える、とのことであった。このことはすなわち、厚生労働省の重大な過誤について検討した部会が結論として別の委員会で検討すべきと提言した事項を、当該委員会が検討しなくてもよいと厚生労働省が考えていることを示しているものであると考えるが、そのような理解でよいか。

二 特定臨床研究の未承認医薬品の製造基準について

 本年五月二十五日の衆議院厚生労働委員会における郡和子議員の質疑に対する塩崎厚生労働大臣の答弁では、「特定臨床研究の未承認医薬品の製造基準は、治験薬GMPへの準拠を基本に検討したい」とのことであった。これに関し、特定臨床研究における未承認医薬品を初めて人に投与する際の安全性を確認する非臨床試験に対してGLP(Good Laboratory Practice)への準拠を求めることは考えていないのか。

三 法案の対象範囲について

1 郡議員への答弁書三の3についてでは、「薬物動態等を明らかにしようとする臨床研究については、医薬品等の有効性又は安全性を明らかにするものに含まれる」とのことであったが、①マイクロドーズ臨床試験(方法論的定義については同試験についての厚生労働省通知による)、②PET医薬品、MRI用の造影剤を用いるが、これらの薬物の性能を明らかにすることが目的ではなく、人体の病態生理メカニズムを観察することを目的とする研究、③体外診断機器であるCTや造影剤を用いないMRIにより人体の構造等の観察を目的とし、人体に対する被ばくや負担などの侵襲はあるが診断結果を返す又は観察結果によって治療方針を変える等の介入は伴わず、これら機器の有効性安全性評価は目的に含んでいない研究についても同様に、医薬品等の有効性又は安全性を明らかにするものに含まれるということか。
2 法案に関する厚生労働省の説明資料では、「特定」ではない臨床研究についてもモニタリングと監査が努力義務になるとされているが、これは、「特定」の臨床研究と「特定でない」臨床研究の両方に、同じ実施基準が適用され、必須の義務か努力義務かの違いを設けるということか。それとも、両研究には、それぞれ異なる実施基準を設けることを想定しているのか。
3 現行の「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」では、「侵襲を伴う研究であって介入を行うもの」に対しては「モニタリング及び必要に応じて監査」を実施しなければならないが、法案の実施基準では、「モニタリングと監査」の両方が適用されるのかそれとも、依然として「モニタリング及び必要に応じて監査」となるのか。また、この点につき、「特定」の臨床研究と「特定でない」臨床研究とで、区別を設けるのか。
4 郡議員への答弁書四の2についてでは、臨床研究実施基準に手術・手技等の医療技術に着目した規制を盛り込むことは検討していない、としているが、そのような医療技術の安全性・有効性を明らかにすることを目的とする臨床研究であって、未承認の医薬品を用いることはあっても、当該医薬品の有効性・安全性を明らかにすることは目的としていない臨床研究については、法案の対象外か。
5 本年五月二十五日の衆議院厚生労働委員会で塩崎厚生労働大臣が手術・手技に係る臨床試験は「EU、米国でも原則として規制をしていない」と答弁したことについて、郡議員主意書六の2で、フランス、オランダ、スウェーデン、韓国、台湾では手術・手技も法令により規制している事実を指摘したところ、郡議員への答弁書六の2についてでは、「御指摘の諸外国の状況については承知していない」との答弁であった。承知していないにも関わらず「規制をしていない」と委員会で大臣が答弁することは、「知らないこと」をすなわち「存在しないこと」としてしまうという意味で、大臣の態度として不適切だと考えるが、いかがか。

四 他法令との関係について

1 「臨床研究において用いられる未承認医療機器の提供等に係る薬事法の適用について」(平成二十二年三月三十一日付薬食発〇三三一第七号)及び「「臨床研究において用いられる未承認医療機器の提供等に係る薬事法の適用について」に関する質疑応答集(Q&A)について」(平成二十三年三月三十一日付薬食監麻発〇三三一第七号)は、薬事法が現行の医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(以下「医薬品医療機器等法」という。)に改正される前に発出されたものであるが、現行の同法の規制を受ける再生医療製品にも同様に、同通知及び質疑応答集の考え方を適用できると考えてよいか。
2 再生医療製品の治験は、承認申請を目的とするものであれば医薬品医療機器等法に基づくGCP省令の適用を受けると理解しているが、その場合の製造基準は、再生医療製品特有のものではなく、治験薬GMPが適用されているのか。また、製品の性質から、再生医療の安全の確保等に関する法律の適用対象であるというよりは未承認再生医療製品とみなすべき製造物について承認申請を目的とせずに、臨床研究を行う場合の製造基準にも、同じく治験薬GMPが適用されるのか。
3 郡議員への答弁書三の4についてでは、「医薬品医療機器等法は医薬品の品質、有効性及び安全性の確保等の観点から規制を行うものであるが、法案は臨床研究の対象者の保護の観点から規制を行うことが必要であると判断し、医薬品医療機器等法とは別の枠組みで規制することとした」としている。だが、医薬品医療機器等法に基づくGCP省令でも被験者の保護は目的として規定されているため、あえて別の法令で規定することの理由としては不十分であると考えるが、それでもなお別の枠組みで規定すべきと判断した理由は何か。
4 郡議員への答弁書三の2についてでは、「法案においては、特定臨床研究を実施する者が、特定臨床研究の実施に関する計画を厚生労働大臣に提出する等の義務を負う」とのことであるが、現行の「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」では研究責任者が研究機関の長の許可を求めることが必要とされるが、特定臨床研究においても、届出を行った者は、その者の所属機関の長の許可を必要とする枠組みを、特定臨床研究の実施基準において設けることを想定しているのか。

五 資金提供について

1 製薬企業がある研究者に講演料や顧問料を支払っており、当該研究者は当該企業から臨床研究用の資金を受け取っていないという場合に、当該研究者が、当該企業の既承認医薬品についての臨床研究を自主的に行うときは、特定臨床研究に該当するのか。
2 製薬企業が自社の医薬品を用いる臨床研究費に充てられることを想定しないで特定の大学の教室に奨学寄附金等の形で資金提供しているときに、当該教室の一職員が、所属教室に寄附金が提供されていることを知らずに当該寄附金を提供する企業の既承認医薬品について自主的に、当該寄附金を資金源として用いないで行う臨床研究は、特定臨床研究に該当するのか。

  右質問する。