質問主意書

第191回国会(臨時会)

質問主意書


質問第八号

沖縄・米軍北部訓練場ヘリパッド建設に抗議する市民に対する警察権行使の法的根拠に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十八年八月三日

山本 太郎   


       参議院議長 伊達 忠一 殿



   沖縄・米軍北部訓練場ヘリパッド建設に抗議する市民に対する警察権行使の法的根拠に関する質問主意書

 平成二十八年七月二十一日、沖縄県議会は沖縄県国頭郡のアメリカ海兵隊北部訓練場のヘリコプター着陸帯(以下「ヘリパッド」という。)建設中止を求める意見書を与党の賛成多数で可決した。
 これにもかかわらず、翌二十二日、沖縄防衛局はヘリパッド建設工事に着手した旨を発表し、同日早朝から県道七十号線の複数箇所に検問を設置して一帯を封鎖。全国より集結した機動隊は、ヘリパッド建設に抗議する市民を実力をもって強制排除した。
 以上の事実を踏まえて、ヘリパッド建設に抗議する市民に対して行使された警察権について、その法的根拠及び憲法との整合性につき、安倍政権の認識を確認すべく、以下質問する。なお、答弁はまとめず、各質問項目ごとに個別に回答されたい。

一 前記に先立つ同月十九日午前、ヘリパッド建設予定地へ向かう経路となる県道七十号線の東村宮城と高江の計二カ所で警察による自動車検問が行われた。当該検問を実施した具体的理由及びいかなる経緯によって、いつ、誰が検問実施を決定し命令したのかについて、政府の把握している事実関係を、把握した日時とともに、全て具体的かつ明確に示されたい。

二 前記一に関して、一般的に、自動車検問とは「犯罪の予防、検挙のため、警察官が走行中の自動車を停止させて、自動車の見分をなし、運転者または同乗者に対し必要な質問を行うこと」とされており、その類型は「交通違反の予防、検挙を目的とする交通検問」、「不特定の一般犯罪の予防、検挙を目的とする警戒検問」及び「特定の犯罪が発生した場合に犯人の検挙捕捉と捜査情報の収集を目的とする緊急配備としての検問」に分類されるが、当該検問はいずれの類型に該当するものか、加えて、当該検問は「不審車両を対象とする検問」と「一斉の無差別検問」のいずれであったのか、それぞれ政府の認識を明確に示されたい。

三 前記一及び二に関して、当該検問は警察官職務執行法(昭和二十三年法律第百三十六号)第二条第一項「警察官は、異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して何らかの犯罪を犯し、若しくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者又は既に行われた犯罪について、若しくは犯罪が行われようとしていることについて知つていると認められる者を停止させて質問することができる。」を根拠として実施されたものか、政府の認識を明確に示されたい。同項を根拠とするものではない場合、当該検問を行った法的根拠を具体的に示して、政府の認識を詳らかに説明されたい。加えて、当該検問実施の決定について事前に把握していた場合、当該検問実施に一切の法的瑕疵はなく、法的妥当性は十分に満たされているとの認識であったのか、政府の認識を明確に示されたい。

四 平成二十八年七月二十二日午前六時頃、沖縄県東村高江の県道七十号線新川ダム入り口の交差点で警察車両が両側二車線を塞ぎ、人と車両の通行を遮断、警察官が人と車両を止め迂回指示し、市民だけでなく報道関係者、さらに道路管理者として状況確認に向かった沖縄県職員も、その規制線から先に進めない事態(以下「県道封鎖」という。)となった。この県道封鎖を実施した具体的理由及びいかなる経緯によって、いつ、誰が県道封鎖実施を決定し命令したのかについて、政府の把握している事実関係を、把握した日時とともに、全て具体的かつ明確に示されたい。

五 前記四に関して、当該県道封鎖は道路交通法(昭和三十五年法律第百五号)第四条第一項「都道府県公安委員会(以下「公安委員会」という。)は、道路における危険を防止し、その他交通の安全と円滑を図り、又は交通公害その他の道路の交通に起因する障害を防止するため必要があると認めるときは、政令で定めるところにより、信号機又は道路標識等を設置し、及び管理して、交通整理、歩行者又は車両等の通行の禁止その他の道路における交通の規制をすることができる。この場合において、緊急を要するため道路標識等を設置するいとまがないとき、その他道路標識等による交通の規制をすることが困難であると認めるときは、公安委員会は、その管理に属する都道府県警察の警察官の現場における指示により、道路標識等の設置及び管理による交通の規制に相当する交通の規制をすることができる。」を根拠として実施されたものか、政府の認識を明確に示されたい。同項を根拠とするものではない場合、当該県道封鎖を行った法的根拠を具体的に示して、政府の認識を詳らかに説明されたい。加えて、当該県道封鎖実施の決定について事前に把握していた場合、当該県道封鎖実施に一切の法的瑕疵はなく、法的妥当性は十分に満たされているとの認識であったのか、政府の認識を明確に示されたい。

六 前記五に関して、道路交通法第百十条の二は、第二項で「公安委員会は、第四条第一項の規定に基づき第八条第一項の道路標識等により自動車の通行を禁止しようとする場合において、その禁止を行なうことにより、広域にわたり道路における交通に著しい影響が及ぶおそれがあるときは、都道府県知事及び関係地方行政機関の長その他政令で定める者の意見をきかなければならない。」、さらに第三項で「公安委員会(第五条第一項の規定により権限を委任された警察署長を含む。(略))は、第四条第一項の規定に基づき(略)交通の規制を行おうとするときは、当該規制の適用される道路(略)の管理者の意見を聴かなければならない。ただし、(略)緊急を要するためやむを得ないと認められるときは、この限りでないものとし、この場合には、事後において、速やかに当該交通の規制に係る事項を通知しなければならない。」と定めている。県道七十号線は、近隣住民の日常生活道路として極めて重要であり、当該県道封鎖は広域にわたり道路における交通に著しい影響を及ぼすものである。つまり当該県道封鎖に際しては、緊急を要するためやむを得ないと認められない限りは、沖縄県知事及び道路管理者たる沖縄県の意見を聴かなければならないと考えられるが、沖縄県公安委員会はいかなる手続きと通知を沖縄県知事及び道路管理者たる沖縄県に行ったのか、政府の把握している事実関係を明確に示されたい。
 なお、平成二十八年七月二十二日に沖縄防衛局が決定したヘリパッド建設工事着手及びそれに伴う県道封鎖は、沖縄県議会においてヘリパッド建設中止を求める意見書が可決された翌日の決定であり、その決定には緊急性など一切ないばかりか、その拙速な決定自体が民主的議論を著しく無視したものであることを付言する。

七 平成二十八年七月二十二日午前、ヘリパッド建設着工に反対し、北部訓練場ゲート前付近にて座り込み抗議活動を続ける市民を機動隊が実力をもって強制排除した。この際、非暴力で抗議する市民に対して機動隊員が顔面を殴打するなど暴行を加える模様がテレビの報道番組でも繰り返し放送されたが、市民の非暴力の抗議活動を警察官が警察権を行使し中止させる法的根拠を具体的に示して、政府の認識を詳らかに説明されたい。その際、非暴力の市民に対して警察官が殴打等の暴行を加えることを容認する法律があれば、その条文を明示されたい。さらに、その法的根拠がない場合、非暴力の市民に殴打等の暴行を加えた警察官の行為は違法であるとの理解で良いか、政府の認識を明確に示されたい。

八 前記一から三に関して、明確な法的根拠のなきまま市民の日常生活道路に検問を設置することは、ヘリパッド建設反対の抗議活動への参加を公権力によって威圧し牽制することにつながりかねず、憲法第二十一条によって保障されている集会、言論及び表現の自由を侵害する行為に該当すると考えるが、政府の認識を明確に示されたい。

九 前記四から六に関して、明確な法的根拠のなきまま市民の日常生活道路を封鎖し人及び車両の移動の自由を制限することは、憲法第十三条が尊重されるべきとする自由に対する国民の権利の侵害、さらに県道封鎖により報道関係者の立ち入りを制限したことは、憲法第二十一条によって保障される表現の自由から派生した国民の知る権利に資する真実の報道の自由を侵害する行為に該当すると考えるが、政府の認識を明確に示されたい。

十 前記七に関して、非暴力で抗議活動を続ける市民に対して実力をもって警察官がその抗議活動を中止させかつ強制排除を行うことは、憲法第二十一条によって保障されている集会、言論及び表現の自由を侵害する行為に該当すると考えるが、政府の認識を明確に示されたい。加えて、警察官が非暴力の市民に対して殴打等の暴力を振るうことは、憲法第三十六条によって絶対に禁ずるとされている、公務員による拷問に該当し、明確な憲法違反であると考えるが、政府の認識を明確に示されたい。

  右質問する。