質問主意書

第190回国会(常会)

答弁書


答弁書第一四二号

内閣参質一九〇第一四二号
  平成二十八年六月七日
内閣総理大臣 安倍 晋三   


       参議院議長 山崎 正昭 殿

参議院議員川田龍平君提出臨床研究法案における被験者の人権の保護と研究の公正性の確保等に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員川田龍平君提出臨床研究法案における被験者の人権の保護と研究の公正性の確保等に関する質問に対する答弁書

一について

 市民的及び政治的権利に関する国際規約(昭和五十四年条約第七号)第七条は、何人も、その自由な同意なしに医学的又は科学的実験を受けない旨を規定するものであり、御指摘の「人権の尊重」について一律に法律で規定することを求めるものではない。なお、第百九十回国会に提出した臨床研究法案(以下「法案」という。)においては、法案第二条第二項に規定する特定臨床研究(以下「特定臨床研究」という。)を実施する者は、当該特定臨床研究の対象者からの同意を得なければならないこととする等、特定臨床研究の対象者の保護に資する規定を設けている。

二について

 御指摘の「被験者の人間の尊厳、人権の尊重」の意味するところが必ずしも明らかではないが、法案においては、特定臨床研究の対象者の保護を図るため、具体的な措置として、特定臨床研究を実施する者は、厚生労働大臣の定める臨床研究実施基準(法案第三条第一項に規定する臨床研究実施基準をいう。以下同じ。)に従ってこれを実施しなければならないこと、当該特定臨床研究の対象者の同意を得なければならないこと等を規定している。なお、臨床研究実施基準の内容については、今後定めることとしているが、特定臨床研究の実施に当たり、臨床研究(法案第二条第一項に規定する臨床研究をいう。以下同じ。)の対象者の保護が必要である旨を明示することについては、臨床研究実施基準において規定することを検討してまいりたい。

三について

 お尋ねが、仮に、いわゆる臨床研究についての法規制について御指摘の疫学研究に関する倫理指針の見直しに係る専門委員会・臨床研究に関する倫理指針の見直しに係る専門委員会合同委員会において議論されなかったことについての御質問であるとすれば、同委員会の議事に関することであるためお答えすることは困難であるが、同委員会は疫学研究に関する倫理指針(平成十九年文部科学省・厚生労働省告示第一号)及び臨床研究に関する倫理指針(平成二十年厚生労働省告示第四百十五号)の見直しについて議論を行うためのものであったことから、議論されなかったものと考えられる。なお、いわゆる臨床研究についての法規制については、高血圧症治療薬の臨床研究事案に関する検討委員会が平成二十六年四月に取りまとめた高血圧症治療薬の臨床研究事案を踏まえた対応及び再発防止策について(報告書)において、「法制度についての検討に当たっては・・・様々な影響等を十分考慮の上、本年秋を目処に検討を進めるべきである」とされたことから、厚生労働省に設置した臨床研究に係る制度の在り方に関する検討会において検討を行ったものである。

四について

 A社が製造販売(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(昭和三十五年法律第百四十五号。以下「医薬品医療機器等法」という。)第二条第十三項に規定する製造販売をいう。)をし、又はしようとする医薬品等(法案第二条第三項に規定する医薬品等をいう。以下同じ。)を用いた臨床研究の実施のための資金をA社が提供し、当該臨床研究が特定臨床研究に該当する場合は、当該特定臨床研究を実施する者は、法案第九条の規定による説明等を行わなければならないこととなる。

五について

 医薬品等製造販売業者(法案第二条第四項に規定する医薬品等製造販売業者をいう。以下同じ。)又はその特殊関係者(同条第二項第一号に規定する特殊関係者をいう。以下同じ。)から研究資金等(同号に規定する研究資金等をいう。以下同じ。)の提供を受けて実施する臨床研究に該当しない場合は、同号に該当する特定臨床研究ではない。また、臨床研究を実施する者は、当該臨床研究が特定臨床研究に該当するかを確認するため、研究資金等の提供者について調査を行う必要がある。なお、御指摘の「契約」の意味するところが必ずしも明らかではないが、仮に、法案第三十二条に規定する契約を締結しなければならないこととなるかについての御質問であるとすれば、同条の規定は、医薬品等製造販売業者又はその特殊関係者に関する規定である。

六について

 法案第二条第二項第一号に該当する特定臨床研究は、医薬品等製造販売業者又はその特殊関係者から研究資金等の提供を受けて実施する臨床研究であり、これに該当しないとすれば、同号に該当する特定臨床研究ではない。

七について

 お尋ねの趣旨が必ずしも明らかではないが、法案においては、御指摘の臨床試験登録システム等への登録時の公表等については規定していない。また、これらは政府が運営しているものではないため、これらの運営規約等において御指摘の公表が求められるかについてお答えすることは困難である。

八について

 御指摘のような場合については、個人情報の保護に関する法律(平成十五年法律第五十七号)等の規定に基づき適切な対応が求められるものと考えている。

九について

 御指摘の「臨床研究の登録」については、その意味するところが必ずしも明らかではないのでお答えすることは困難である。また、御指摘の「結果の未公表」については、法案においては臨床研究の結果の公表については規定していない。なお、臨床研究実施基準の内容については、今後定めることとしているが、御指摘の「研究データの改ざん、患者データの使い回し」等の防止の観点も含め、臨床研究の対象者の保護を図るために必要な事項を規定することを検討している。なお、特定臨床研究を実施する者に対し、法案第十九条においては、保健衛生上の危害の発生又は拡大を防止するための応急の措置をとるべきことを、法案第二十条第一項においては、法案第二章の規定等に違反していると認めるときは、当該違反を是正するために必要な措置をとるべきことを命ずることができることとしている。

十について

 御指摘の「探索的試験」及び「検証的試験」の意味するところが必ずしも明らかではないが、医薬品等を人に対して用いることにより、当該医薬品等の有効性又は安全性を明らかにする研究(当該研究のうち、当該医薬品等の有効性又は安全性についての試験が、医薬品医療機器等法第八十条の二第二項に規定する治験に該当するものその他厚生労働省令で定めるものを除く。)であれば、臨床研究に該当する。

十一について

 御指摘の「臨床試験」の意味するところが必ずしも明らかではないが、医療法(昭和二十三年法律第二百五号)第四条の三第一項に規定する臨床研究中核病院においては、臨床研究以外の研究も実施されるものと考えられる。

十二について

 医薬品医療機器等法第二条第十四項に規定する体外診断用医薬品については、人の体に直接使用されることのないものであることから、研究の対象者の生命及び身体に対する危険性は低く、法案においては、それらに係る研究については規制していない。

十三について

 法案は健康保険法(大正十一年法律第七十号)等の医療保険各法について改正するものではなく、法案により同法等に基づく評価療養、患者申出療養及び選定療養として保険外併用療養費の支給対象となる療養の範囲が変更されるものではない。

十四について

 通常の医療の一環として独立行政法人医薬品医療機器総合機構法(平成十四年法律第百九十二号)第四条第六項に規定する許可医薬品を適正に使用して臨床研究を行った結果、当該許可医薬品の副作用による健康被害が生じた場合には、原則として医薬品副作用被害救済制度の対象になるものと考えている。

十五について

 法案の施行の際現に特定臨床研究を実施している者が実施する当該特定臨床研究については、法案の施行の日(以下「施行日」という。)から起算して一年を経過する日までの間(当該期間内に当該特定臨床研究の実施計画(法案第五条第一項に規定する実施計画をいう。)を提出した者については、当該提出の日までの間)は、同項の規定は適用されないため、施行日前に開始された特定臨床研究については同条第三項の規定による法案第二十三条第五項第二号に規定する認定臨床研究審査委員会の意見の聴取は不要である。