質問主意書

第190回国会(常会)

質問主意書


質問第一六〇号

大麻草の医療研究および使用に関する再質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十八年六月一日

荒井 広幸   


       参議院議長 山崎 正昭 殿



   大麻草の医療研究および使用に関する再質問主意書

 私が先日提出した「大麻草の医療研究および使用に関する質問主意書」(第百九十回国会質問第一〇〇号)に対する答弁書(内閣参質一九〇第一〇〇号)では、はっきりしていないことが多いので再びお尋ねする。
 欧米諸国を中心に大麻草の医療効果が注目され、先進国G10の中で日本以外の国では医療用大麻の研究および使用を合法化している。ドイツ保健大臣は、本年五月に、来年からドイツは医療用大麻使用を認める方針と表明した。
 医療用大麻は、がん、深刻な痛みや吐き気、神経性難病の多発性硬化症、潰瘍性大腸炎、関節炎、てんかん等の発作、アルツハイマー病、標準治療で症状の緩和の見られないもの等、現代医療での治療が困難なものに幅広く使用されている。
 一方、我が国では約七十年もの前の一九四八年に制定した大麻取締法によって、医師による臨床研究と患者による使用のどちらも禁止している。
 日本においても乱用につながる転用を防ぐと共に、他国と同じように、大麻草の医療分野の研究を進め、患者が使える仕組みづくりが必要である。右の点を踏まえて、以下質問をする。

一 一九四八年の時点で、大麻取締法第四条による医師による研究禁止および患者の使用禁止を定めた医学的根拠は何か。大麻取締法の制定経緯も踏まえて明らかにされたい。

二 海外では、医療用大麻が合法化され、患者が使用できる国や地域が増えている。政府は、そもそも大麻草由来の成分に医療効果があり、それによって救われる患者が存在する可能性あるいは実態があると受け止めているのかを明らかにされたい。

三 千九百六十一年の麻薬に関する単一条約では、その前文で麻薬の使用を「医療上及び学術上の目的に制限」していることから、大麻草の研究および使用を全面的に禁止しているわけではないと考えられる。アメリカ連邦法で大麻がスケジュールⅠの薬物とされているが、アメリカ国立衛生研究所(NIH)では、大麻草とカンナビノイドの研究がされている。この事実関係に間違いはないか。

四 NIHでは、どれぐらいの予算を使って、どのような医療目的の研究をしているのかの調査を求めたが、その結果を明らかにされたい。

五 WHOの報告書「大麻:健康上の観点と研究課題」(一九九七年)の厚労省訳四十六頁には、「THCと他のカンナビノイドの基礎的な神経薬理学の更なる研究が、より良い治療薬の発見を可能とするためにも必要である。」と明記している。我が国の大麻草およびカンナビノイドの基礎研究は、厚労省科研費および文科省科研費などの国の予算を使ったもので、どのような事例があるのか。治療や創薬につながるような研究を実施しているのかを明らかにされたい。

六 最近、WHOでは、公衆衛生としての非医療使用の大麻と、医療使用の大麻を区別して、それぞれのレポートを発行している。こうした非医療使用と医療使用を区別した報告を政府はどう受け止めているか。

七 大麻草には、THCやCBDなどの百種類以上のカンナビノイドが含まれ、他にもフラボノイドやテルペン類などの有効成分が何百種類も含まれている。生薬のように多成分で相乗効果を発揮すると考えられ、それをアントラージュ効果と呼んでいる。
 例えば、精神作用のあるTHCと精神作用のないCBDを一対一で混合したものは、精神作用を少なくすることが知られている。
 また、単一のCBD成分より、複数のカンナビノイドが含まれていると効果が高いことも明らかになっている。
 よって、単一成分である合成THCや合成カンナビノイドの研究だけでは、多成分の大麻草について医療目的の研究をしたことにならないと考えるが、政府の見解を明らかにされたい。

八 私は、合成されたものではなく、生薬としての大麻草の医療効果を科学的・医学的に検証する我が国としての取り組みを求めてきた。あらためて問う、政府はその必要さえ認めないのか。明確に答えられたい。

九 日本の大麻取締法は、葉と花穂の使用が禁止されているため、海外からの産業用大麻と呼ばれるTHC成分が〇・三%以下の品種を使って、茎および種子から抽出したCBDオイルが輸入されている。
 アメリカのFDA(食品医薬品局)の調査では、一部の製品の品質や表示に問題があるという指摘がなされている。
 本年三月二十八日の参議院予算委員会で厚労大臣にも確認したが、日本には、輸入された製品の品質を検査できる機関がなく、消費者にその品質を保証することができない。
 一日も早く、国内で品質の検査を行える態勢を整えるべきではないかと思うが、政府の見解を明らかされたい。

十 日本医師会が批准しているWMAリスボン宣言は、「患者の権利」を唱えたものである。例えば、「良質の医療を受ける権利」、「選択の自由の権利」、「自己決定の権利」、「情報に対する権利」、「尊厳に対する権利」などが明記してある。
 大麻取締法第四条の規制は、リスボン宣言の観点からみて問題点はないのか、政府の見解を明らかにされたい。

十一 大麻取締法は、古い法律であるため、公衆衛生(集団の幸福)の危害防止の観点しかなく、大麻草を使用した治療を受ける権利すなわち人権(個人の幸福)の観点が抜けている。現行の大麻取締法は、医療目的の臨床研究および患者の使用を想定していなかったと解してよいか。また法律の想定外のテーマであれば、別途法律が必要となると解してよいか。この二点について、政府の見解を明らかにされたい。

十二 国の規制緩和を求める自治体には、国家戦略特区制度がある。国の法律を変えたり、新たに制定したりする前に社会実験をする仕組みである。
 医療用大麻の研究は、海外事情を踏まえ、合成されたものを使用するのでなく、まずは特区を定めて大麻草により実施・実証・研究すべきテーマだと考える。政府の前向きな対応を求めるが如何。

  右質問する。