質問主意書

第190回国会(常会)

質問主意書


質問第一五七号

難民申請者の強制送還に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十八年六月一日

前川 清成   


       参議院議長 山崎 正昭 殿



   難民申請者の強制送還に関する質問主意書

 日本の難民認定制度をめぐっては、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が平成二十七年七月二十四日、「世界的に難民の数が増えている中で、日本政府の難民認定は改善が進んでいない。真正の難民申請者が『偽装滞在者』と看做されることがないよう慎重な取り扱いが必要だ」とするパブリックコメントを法務省に提出するなど、消極的な姿勢に各界から批判が寄せられている。そこで、日本の難民保護行政を検証する観点から平成二十六年十二月十八日に行われたチャーター便による強制送還(以下、本件強制送還という。)について質問する。

一 本件強制送還が行われたのは事実か。事実であれば、何名か。

二 右一の本件強制送還された者についてお尋ねする。

1 本件強制送還された者のうち送還前に日本で難民申請をした経歴のある者は何名いたか。
2 本件強制送還された者のうち平成二十六年十二月十六日又は十七日に難民不認定処分に対する異議申立却下の告知を受けた難民申請者はそれぞれ何名いるか。
3 本件強制送還された者のうち同年十二月十八日時点で難民不認定処分の取消訴訟を提起できる六ヶ月の期限内であった者は何名いるか。
4 本件強制送還された者のうち、初めての難民申請において、弁護士がその者の難民申請に係る代理人となり、その弁護士が異議申立手続の審尋にも立ち会い、異議申立が棄却された場合でも不認定取消訴訟を提起することが合理的に推認される場合に、異議棄却の告知の翌日ないし翌々日に、難民申請する者に、弁護士への連絡の機会を付与せず送還した事例はあるか。

三 本件強制送還以前に行われたチャーター便による強制送還の際に、本邦において難民申請を行った経験のある者を、本人の同意なく強制送還したことはあるか。

四 難民の地位に関する条約第三十三条及び拷問及び他の残虐な、非人道的な又は品位を傷つける取り扱い又は、刑罰に関する条約第三条は、難民の生命又は自由が脅威にさらされるおそれのある領域、あるいは拷問が行われるおそれがあると信ずるに足りる実質的な根拠がある他の国への送還を禁止している。また、出入国管理及び難民認定法第五十三条にも、両条約を反映した規定がある。
 他方、出入国管理及び難民認定法第六十一条の二は、「法務大臣は、(申請者)の提出した資料に基づき、その者が難民である旨の認定を行うことができる」と規定し、立証責任が申請者に課されている。
 しかし実際には、難民申請をする者は、経済的困窮、人的、社会的資源の欠如、知識の不足などにより、立証責任を果たすことは容易でないと思われる。
 難民調査手続において出された難民不認定処分が司法の場で覆される事例があること及び我が国が前述の条約の締約国たることに鑑みれば、たとえ行政手続において難民でないと決定した者であっても、その者に対しては、司法判断が出るまで国内に留めおく等、慎重な取扱いが要請されると思われるがいかがか。

五 加えて、自由権規約(市民的及び政治的権利に関する国際規約)第四十条(b)に基づく第五回報告に関する自由権規約委員会の最終見解(二〇〇八年十月三十日)は、難民認定を拒否された者の取扱について、「拒否された申請者が、庇護申請への否定的な決定につき不服申立てを行う前であって行政手続の結論が出た後直ちに送還されないようにすべきである(外務省仮訳)」と述べている。これは、庇護希望者が一次難民認定申請及び一次不認定処分に対する審査請求を含めた行政手続において難民と認められなかったとしても、その庇護希望者を直ちに送還せず、不服申立てを行う、すなわち司法審査を受けられる機会を保証することを求めるものと解される。本件強制送還は、この自由権規約委員会の見解に反するものと思われるが、いかがか。

六 平成二十六年度歳出概算要求書によれば、入国管理局は「送還忌避者の専属輸送による送還経費」が計上されている。ここで述べられている「送還忌避者の専属輸送による送還」は、チャーター便による本件強制送還が該当すると思われる。そこで次の二点についてお尋ねする。

1 前記平成二十六年度歳出概算要求書には、「送還忌避者の専属輸送」の予算として、同行する各六十名の職員の費用を含め、三千三十万六千円を計上している。では、実際にはいくらの費用がかかったのか。
2 前記平成二十六年度概算要求書によれば、入国管理局は「送還忌避者の専属輸送」先として、フィリピンと中国にそれぞれ百人ずつ計二百人を送還することを計画していると記されていた。しかし、現実には、本件強制送還の送還先は、スリランカとベトナムであった。このように送還先を変更されたのはなぜか。明らかにされたい。

  右質問する。