質問主意書

第190回国会(常会)

質問主意書


質問第一四二号

臨床研究法案における被験者の人権の保護と研究の公正性の確保等に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十八年五月三十日

川田 龍平   


       参議院議長 山崎 正昭 殿



   臨床研究法案における被験者の人権の保護と研究の公正性の確保等に関する質問主意書

 厚生科学審議会科学技術部会第二回臨床研究の倫理指針に関する専門委員会(平成十九年九月十三日)では光石参考人が「国会が本来、法律をもって定めるべき国民の権利義務にかかわる事項を無限定に行政立法に委ねるとすると、立法機関としての国会の責務放棄になるだけではなくて、行政府の権限を過大にして、三権分立に反する」と述べている。
 また「治験のあり方に関する検討会」第十六回(最終回)平成十九年九月十九日では、加藤良夫委員から「ICH-GCPには冒頭のイントロダクションのパラグラフに「被験者の人権保護」について明記されている」との指摘があり、医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令(以下「GCP省令」という。)には「被験者の人権の保護、安全の保持及び福祉の向上を図り」と明記されている。
 さらに財団法人日弁連法務研究財団「ハンセン病問題に関する検証会議最終報告書」(平成十七年三月)では、「公衆衛生等の政策等におけるこのような人権侵害の再発を防止するための核とされるべきは、患者・被験者の諸権利を法制化することである」とされ、その提言に基づくハンセン病問題に関する検証会議の提言に基づく再発防止検討会「ハンセン病問題に関する検証会議の提言に基づく再発防止検討会報告書」(平成二十二年六月)では「患者・被験者の権利擁護のあり方」に対する国民的な合意を速やかに形成することの必要性が強く認識された」とある。
 加えて薬害肝炎事件の検証及び再発防止のための医薬品行政のあり方検討委員会「薬害再発防止のための医薬品行政等の見直しについて(最終提言)」(平成二十二年四月二十八日)には、「治験以外の臨床試験と治験を一貫して管理する法制度の整備を視野に入れた検討を継続すべきである。その際、被験者の人権と安全が守られることは絶対条件であるため、被験者の権利を明確に規定すべきである」と明記されている。
 このような、公衆衛生・薬事行政に関わる重大な過誤に引き続いて起こったのが、ディオバン臨床試験をめぐる不正事案であって、臨床研究の新たな法律は、被験者の人権の保護と研究の公正性の確保を、二本の柱としてしっかりと築いた上で立法されるべきものと考える。
 以上を踏まえ、第百九十回国会に内閣から提出された臨床研究法案(以下「本法案」という。)について、以下質問する。

一 研究対象者の人権の尊重について、本年五月十九日の参議院厚生労働委員会において、神田厚生労働省医政局長は、「過度な規制は研究の萎縮を招きかねないことから、全ての臨床研究に一律の法規制を課すことは妥当でない」と答弁したが、臨床研究における「人権の尊重」は、研究対象者に対するリスクの軽重を問わず、一律に法律で規定すべきであって、そのような規定のない本法案は、自由権規約(市民的及び政治的権利に関する国際規約)第七条の趣旨に反しているのではないか。

二 医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(薬機法)下のGCP省令で明記できた「被験者の人権の保護」が、なぜ臨床研究について規定する本法案には明記できないのか。本法案だからこそ、被験者の人間の尊厳、人権の尊重を明記すべきではないか。

三 厚生科学審議会医薬品等制度改正検討部会「薬事法等制度改正についてのとりまとめ」(平成二十四年一月二十四日)において「法制化を含めた臨床研究の在り方については、平成二十五年七月を目途とした臨床研究指針全般の見直しの議論(厚生科学審議会科学技術部会)において、引き続き検討されること」とされ、「「最終提言」が求めた被験者の権利の確立が必要であり、治験以外の臨床研究と治験を一貫して管理する法制度の整備を視野に入れた検討を望む」とされたことが、「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」策定に向けた厚生科学審議会科学技術部会疫学研究に関する倫理指針の見直しに係る専門委員会・臨床研究に関する倫理指針の見直しに係る専門委員会審議の第一回で課長補佐より紹介されたにもかかわらず、同審議会で一度も議論されなかったのはなぜか。ハンセン病、薬害肝炎という、公衆衛生・薬事行政に関わる重大な歴史に学んでいないことになるのではないか。

四 本年五月十九日の参議院厚生労働委員会において神田局長は、「他の製薬企業を経由して自社製品に対する資金提供を行う場合についても、特定臨床研究に関し研究対象者への説明義務が掛かる」と答弁しているが、これはA社がB社と結託し、B社医薬品の特定臨床研究にA社が資金を提供し、A社医薬品の特定臨床研究にB社が資金提供した場合でも、それぞれの研究責任者はそれらの資金提供について、研究対象者への説明義務がかかるという理解でよいか。

五 製薬企業が自社の医薬品を用いる臨床研究費に充てられることを想定しないで特定の大学の教室に奨学寄附金等の形で資金提供しているときに、当該教室の一職員が自主的に行う臨床研究は、特定臨床研究に該当するか。言い換えれば、研究者が自発的にある医薬品の臨床研究を実施しようとするときには、その医薬品の製薬企業から当該研究者の所属する教室に対して当該臨床研究を目的としない資金提供がないことを確認しなければならず、もしそのような資金提供があった場合には契約を締結しなければならないことになると解してよいか。

六 大学のある教室が行う臨床研究に用いる医薬品の製薬企業から、同じ大学内の異なる教室に対して奨学寄附金等、当該臨床研究に充てることを想定しない資金提供があった場合、ある教室が行う臨床研究は特定臨床研究に該当するか。

七 臨床研究に用いる医薬品の製薬企業以外からの、例えば公的資金や大学の自己資金、同業他社からの奨学寄付金や原稿料、顧問料などを臨床研究に充てた場合、その研究計画やUMIN臨床試験登録システム等への登録(以下「登録」という。)時に公表、及び被験者に提示する必要はあると考えているか。またその研究費には充てず、他の目的に使用した場合でも、当該臨床研究の研究計画や登録時に公表、及び被験者に提示する必要はあると考えているか。このことについて特定臨床研究とそれ以外の臨床研究で違いがあるのか。

八 データ原本、論文で使用したデータ、研究プロトコル及び研究が途中で変更された場合の変更承諾書の開示請求を被験者が行った場合、請求を受けた側はどのような対応が求められるのか。

九 臨床研究の登録上の不正や結果の未公表は、本法案では規制していないという理解でよいか。また研究データの改ざん、患者データの使い回しなど研究の中身の問題は、法制定後に策定する第三条の「臨床研究実施基準」で規制し、第十九条に基づく緊急命令の対象となり、違反した場合には、第三十九条に基づく罰則の対象となるという理解でよいか。

十 本法案における「臨床研究」とは「(前略)当該医薬品等の有効性又は安全性を明らかにする研究」ということであるが、薬物の動態や作用メカニズムを探索することを目的とする研究は臨床研究に該当するのか。探索的試験なら該当するが検証的試験は該当しないという規定をどこかで設けるつもりか。

十一 本法案における「臨床研究」は、臨床研究中核病院において実施される臨床試験の全てを含むと理解してよいか。

十二 体外診断用医薬品は本法案の対象外とのことだが、体外診断用医薬品であっても、企業が不適切な資金提供をして歪んだ結果を広告することにより保健衛生上の危害や医療費の無駄遣いが拡大することも考えられるが、これを除くことはディオバン事件に学んでいないといえるのではないか。体外診断用であればそのような危険性はないと言い切れる根拠は何か。

十三 本法案における臨床研究においては、いわゆる混合診療は禁止され、先進医療Bないし患者申出療養として実施しない限り、保険併用はできないと解してよいか。

十四 本年五月二十五日の衆議院厚生労働委員会における郡和子議員の質問に対して、中垣厚生労働省医薬・生活衛生局長は「通常の医療の一環として医薬品が処方され、適正に使用されている患者を対象にその医薬品に関する臨床研究を行う場合につきまして、その医薬品の副作用被害が生じれば、原則として医薬品副作用被害救済制度の対象になる」と答弁しているが、これは研究に用いる医薬品の製造企業から資金提供を受けて実施される特定臨床研究においても、適用されると理解してよいか。

十五 同じく本年五月二十五日の衆議院厚生労働委員会において、本法案とこの四月に始まった患者申出療養制度の関係について議論があったが、本法案の施行前に開始された未承認医薬品に関する患者申出療養についても、施行後は特定臨床研究として認定臨床研究審査委員会による実施計画の審査を求めることになるのか。

  右質問する。