質問主意書

第190回国会(常会)

質問主意書


質問第一二一号

女性差別撤廃条約選択議定書に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十八年五月二十四日

糸数 慶子   


       参議院議長 山崎 正昭 殿



   女性差別撤廃条約選択議定書に関する質問主意書

 一九七九年十二月十八日、女性の権利の確立と男女平等社会の実現を願う女性たちに希望と勇気を与えた女性差別撤廃条約が国連総会で採択され、一九九九年十月六日には、条約の実効性を高めるための選択議定書が国連総会で採択された。
 我が国は一九八〇年七月、女性差別撤廃条約に署名し、国会承認を経た一九八五年七月、七十二番目の加盟国となった。
 女性差別撤廃条約加盟の百八十九か国のうち、現在百六か国が選択議定書を批准しているが、我が国は現在まで批准していない。
 選択議定書は、条約に定める権利の侵害を受けた個人や集団が直接通報できる「個人通報制度」と、条約上の権利の「重大」または「組織的」な侵害があるという信頼できる情報を受け取った場合に、女性差別撤廃委員会(以下「委員会」という。)がその国の協力を得て調査を行うことができる「調査制度」からなる。
 ただし、選択議定書の規定によれば、締約国の協力がなければ調査は不可能であり、個人通報は、基本的には当該締約国が批准前に発生した事実については受理されず、受理される場合でも国内救済手段を尽くした後に手続きが開始されるなど、極めて限定された手続きと言える。そのため、選択議定書を批准しても、制度を活用することによる女性にとってのメリットは小さく、批准しないことで条約実施に後ろ向きという姿勢を見せてしまう国にとってのデメリットは大きい。
 選択議定書批准は、我が国の国際人権保障・男女平等への積極的な取り組みの姿勢を国際社会に示すものであり、安倍政権が進める女性活躍促進にも資するものであるということを強調したうえで、以下質問する。

一 政府は一九七九年に外務省、法務省、内閣府等の関係省庁が参加する個人通報制度関係省庁研究会を設置し、他の個人通報制度も含めて研究を行ってきた。民主党政権においては、通報事案への具体的対応のあり方や、体制整備について協議、検討も進めていたと承知している。選択議定書が二〇〇〇年十二月二十二日に発効して以降の同研究会の協議内容、検討結果を明らかにされたい。

二 政府は、選択議定書批准を求める国会質疑に対して、「司法権の独立を含め、我が国の司法制度との関連で問題が生じるおそれがある」として、慎重な姿勢を示してきた。しかし、すでに百六か国が批准しており、批准国のほとんどは司法権が独立しているものと承知している。百六か国もの国が批准し、問題が生じていないにもかかわらず、我が国が批准できない理由は理解し難いところである。政府が想定している「問題」とは具体的に何を指すのか、示されたい。

三 個人通報制度は、個人や集団が条約に定める権利の侵害を委員会に通報し、この通報を委員会が審議の上、委員会としての「見解」を当該国等に通知する制度であり、「見解」には法的拘束力はなく、最高裁の判断を覆すものでもない。司法権の独立との関連で問題となるとは到底考えられないが、政府の見解を示されたい。

四 政府が懸念する「司法権の独立を侵害するおそれ」について、二〇〇三年の第三回日本政府報告書審査の審議において、委員会の委員から「選択議定書の批准は司法権の独立を強化し、国際法を使う正当性を強化することになる」との発言がなされている。委員会の判断は、欧州人権裁判所や他の人権条約機関の判断など国際社会の様々な法的判断を反映した「国際基準」による判断であり、条約の実施、女性の人権保障に資するものと思われるが、政府の見解を示されたい。

五 政府は、選択議定書批准に当たっての課題として、数多く通報された場合の事務に対応するための体制整備を挙げている。通報された場合の通報事案への反論や関連情報を書面で半年以内に提出する必要があるためとしているが、選択議定書が発効して以来、二〇一四年十月末までで四十件の「見解」が示され、「権利侵害あり」とされたのは十五件にすぎず、個人通報の多くが性暴力やリプロダクティブ・ヘルス/ライツに関するものとされている。政府の懸念は杞憂とさえ思われるが、政府の見解を示されたい。

六 政府は、選択議定書批准の意義について、「我が国の人権尊重の姿勢を改めて内外に表明することを通じた人権尊重の普遍化への貢献」としている。であれば、批准しないことは、人権尊重に後ろ向きの姿勢を内外に表明することになるのではないか、政府の見解を示されたい。

七 委員会は二〇〇三年の第三回政府報告書審査から、今年二月の第七回、第八回政府報告書審査まで、選択議定書を批准するよう勧告している。日本政府が再三の勧告にも関わらず、批准しない理由は何か、改めて示されたい。

八 選択議定書の批准を求める旨の国会請願は二〇〇一年の第百五十一回国会から提出され、参議院では審査未了はあるものの、不採択とされたことはない。二〇〇一年の第百五十三回国会においても同趣の請願は採択され、翌二〇〇二年の第百五十四回国会の七月三十一日の外交防衛委員会においては、武見敬三委員長が外務省に対し、請願が要請する条約の批准に向けて、内閣による検討の状況、問題点、検討終了の目途及び条約の国会提出時期について説明を求める異例の事態となった。外務省は、第百五十三回国会で請願が採択された際、司法権の独立を含め、我が国の司法制度との関連で問題が生じるおそれがあり、慎重に検討すべきであるとの指摘もあることから、現在のところ締結していないとしていた。その後、政府が第三次男女共同参画基本計画に選択議定書の早期締結の検討を盛り込む等の動きがあり、第百八十九回国会において同趣の請願が採択された際には、「現在、各方面から寄せられている意見も踏まえつつ、政府として真剣に検討を進めている」としている。この検討はいつごろを目途に終了するのか、誠意を持って説明されたい。

九 既に述べたとおり、選択議定書の批准を求める旨の請願は、参議院では、二〇〇一年の第百五十一回国会から二〇一五年の第百八十九回国会まで十九回も採択され、内閣に送付されているにもかかわらず、政府は、同様の報告を繰り返す極めて不誠実な態度を続けてきた。このような態度は、国民の請願権を軽んじ、参議院による請願の採択そのものを形がい化させてしまうのではないかと憂慮するが、政府の見解を示されたい。

  右質問する。