質問主意書

第190回国会(常会)

質問主意書


質問第一〇四号

福島原発事故後の除染に伴う汚染土等の処理問題に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十八年四月二十一日

川田 龍平   


       参議院議長 山崎 正昭 殿



   福島原発事故後の除染に伴う汚染土等の処理問題に関する質問主意書

 環境省は本年三月三十日に「中間貯蔵除去土壌等の減容・再生利用技術開発戦略検討会」(以下「検討会」という。)を開き、東京電力株式会社福島第一原子力発電所事故後の除染に伴う汚染土等の処理について、汚染土等の再利用基準を原子炉廃棄物のクリアランス制度基準百ベクレル毎キログラムの八十倍(八千ベクレル毎キログラム)に緩和する方向で検討を進めることを決めたと報道されている。これでは放射能汚染土等が公共施設などで利用されることにより全国に広く拡散し、人々の被ばくリスクが高まることが憂慮される。
 国は一九九三年に「現在及び将来の国民の健康で文化的な生活の確保に寄与するとともに人類の福祉に貢献すること」を目的に環境基本法を定めた。同法第四条では「環境の保全は(中略)環境への負荷の少ない健全な経済の発展を図りながら持続的に発展することができる社会が構築されることを旨とし、及び科学的知見の充実の下に環境の保全上の支障が未然に防がれることを旨として、行われなければならない。」と定められている。環境省はこの法律を実現させる行政機関でありながら、大きく逸脱する方向に踏み出していると思われる。広く国民の声に耳を傾け、原点に立ち帰りこの問題を再考すべきではないか。以上の観点から検討会の配布資料を踏まえ、以下質問する。

一 処理予定の汚染土等対象物の減容・再利用の流れ

1 検討会で示された中間貯蔵除去土壌等の減容・再生利用技術開発戦略(案)における対象物名とその発生量を明らかにされたい。また、本戦略(案)における対象物は全て福島県内で発生したものとのことだが、もし他の都道府県で発生したものも含むのであれば、その都道府県名を明らかにされたい。
2 前記一の1の対象物の放射性セシウム、ストロンチウム90、プルトニウムそれぞれの濃度と量について示されたい。
3 前記一の1の対象物を分級(粒の大小でわける)や化学処理をして減容化する計画について、以下の点を示されたい。
① 分級して放射性セシウムを除くことができる科学的根拠
② 化学処理で放射性セシウムを除き、減容化できるとする科学的根拠
③ 焼却灰の洗浄や熱処理で放射性セシウムを除き、減容化できるとする科学的根拠
4 前記一の3について、減容化できるのは分級だけではないのか。化学処理や焼却灰の洗浄や熱処理で減容化できるとするのは無理があるのではないか。
5 分級をのぞき、前記一の3の計画を実施するには放射性セシウムの回収が必要になり装置が複雑化すると考えられるが、施設整備などに要するコストはいかほどか。
6 前記一の3の計画により処理された汚染土等を、再利用できると判断し自治体等へ引き渡す前の検認方法を示されたい。また自治体以外の民間企業が引き受けることもあり得るのか。
7 処理された汚染土等は自治体等へ割り当てるのか、希望により引き取らせるのか。具体的に示されたい。
8 自治体等は処理された汚染土等をどのような形で再利用すると想定しているのか。具体的に示されたい。
9 前記一の8に関して、汚染土等が再利用された施設等が自治体等の裁量で将来解体されたり、掘り返されたりすることは許されるのか。その場合再利用履歴をどう次代に伝えることになっているのか。
10 自治体等が汚染土等の不適切な再利用などを行った場合の罰則はあるのか。

二 その他

1 汚染土等対象物を取扱う作業員の被ばく防護について
 電離放射線障害防止規則第五十二条の八等において、事業者は、事故由来廃棄物等、放射性セシウム濃度が一万ベクレル毎キログラム以上の汚染物の処分の業務に労働者を就かせるときは、当該労働者に対し特別の教育を行わなければならないとされている。放射線取扱事業所では、放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律により放射線取扱主任者が必要と聞いている。汚染土等を取扱う作業者の放射線被ばく防護は厳重に行われているのか。
2 汚染土等対象物を再利用した施設等の周辺に住む人々の被ばく防護について
① 原子炉等規制法クリアランス制度によると、廃炉等により発生する汚染物を再利用する際の放射性セシウムの濃度の規制値は百ベクレル毎キログラム以下であり、これによる被ばく実効線量は年に十マイクロシーベルトとされている。
 今回の汚染土等対象物の再利用基準は八十倍の八千ベクレル毎キログラム以下になっている。これによる周辺の人々の被ばく実効線量はいかほどと推定されているのか。またその科学的根拠を示されたい。
② 汚染土等対象物の再利用基準である八千ベクレル毎キログラムはいつ、どの機関(審議委員会)でどのような根拠で提案され決定されたのか経過を示されたい。
3 検討会について
 資料には「世界的にも前例のないプロジェクト」を検討する委員会とあるが、どのような観点で十一名の委員を選任したのか。またこの中に公衆に関わる放射線防護の専門家はいるのか。いるならばその専門分野と経歴を示されたい。この問題は「全国民的な理解が必要不可欠」とあるが一般市民の生活に関わる施策であり、市民の代表を複数加える必要があるのではないか。会議を非公開にしていることは国民の理解を得る姿勢上問題ではないか。以上について政府の見解を示されたい。
4 放射能汚染物を拡散させる政策について
 環境基本法第四条では「環境への負荷の少ない健全な経済の発展を図りながら」とある。放射能により汚染された物は、「集め、遮へいし、時間をかけて放射能の減衰を待つ」ことを基本に対応していくのがベストと考える。検討会が提案してきた案は「汚染を拡散させ、人々の生活の場に放射能を持っていく」との全く逆の政策案であり納得できない。
① 汚染土等は集めてそのまま三百年ほど静置保管することがベストと考える。これがコストもかからず、最も良い方法だが、なぜできないのか。政府の見解を示されたい。
② 中間貯蔵・環境安全事業株式会社法において「中間貯蔵開始後三十年以内に、福島県外で最終処分を完了するために必要な措置を講ずるものとする」と規定されているため、スケジュールが優先されていることが、今回のような拙速な対応の根底にあるようだが、環境基本法の目的である「現在及び将来の国民の健康で文化的な生活の確保に寄与するとともに人類の福祉に貢献すること」を再確認し慎重審議することが大切ではないか。政府の見解を示されたい。
③ 汚染土等の最終処分場は福島県外ではなく、東京電力株式会社の敷地で引き取ってもらうことにしてはどうか。発生源に戻すのが道理ではないか。
5 「省令」によって施策を進めようとしていることについて
 除去土壌等の減容・再生利用は、汚染土等が公共事業等に利用され日常的に国民が被ばくする可能性がある重要な問題であるとともに、検討会の配付資料で言及されているように「世界的に前例のない除去土壌等の減容・再生利用」方式でもあるならば、ことさら法律案として国会審議を経て環境法などとの整合性を図りながら慎重に進めるべきではないか。国民の理解を得ようとするのならば省令で済ますやり方は混乱の元になるのではないか、政府の見解を示されたい。

  右質問する。