質問主意書

第189回国会(常会)

答弁書


答弁書第三六三号

内閣参質一八九第三六三号
  平成二十七年十月六日
内閣総理大臣 安倍 晋三   


       参議院議長 山崎 正昭 殿

参議院議員小西洋之君提出昭和四十七年政府見解の作成者である吉國内閣法制局長官の国会答弁と安倍内閣による昭和四十七年政府見解の読み替えの矛盾に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員小西洋之君提出昭和四十七年政府見解の作成者である吉國内閣法制局長官の国会答弁と安倍内閣による昭和四十七年政府見解の読み替えの矛盾に関する質問に対する答弁書

一から四までについて

 御指摘の昭和四十七年九月十四日の参議院決算委員会においては、吉國内閣法制局長官(当時)から、「憲法の前文においてもそうでございますし、また、憲法の第十三条の規定を見ましても、日本国が、この国土が他国に侵略をせられまして国民が非常な苦しみにおちいるということを放置するというところまで憲法が命じておるものではない。第十二条からいたしましても、生命、自由及び幸福追求に関する国民の権利は立法、行政、司法その他の国政の上で最大の尊重を必要とすると書いてございますので、いよいよぎりぎりの最後のところでは、この国土がじゅうりんをせられて国民が苦しむ状態を容認するものではない。したがって、この国土が他国の武力によって侵されて国民が塗炭の苦しみにあえがなければならない。その直前の段階においては、自衛のため必要な行動はとれるんだというのが私どもの前々からの考え方でございます」(「第十二条」とあるのは「第十三条」のことであると考えられる。以下同じ。)、「憲法前文なり、憲法第十二条の規定から考えまして、日本は自衛のため必要な最小限度の措置をとることは許されている。その最小限度の措置と申しますのは、説明のしかたとしては、わが国が他国の武力に侵されて、国民がその武力に圧倒されて苦しまなければならないというところまで命じておるものではない。国が、国土が侵略された場合には国土を守るため、国土、国民を防衛するために必要な措置をとることまでは認められるのだという説明のしかたをしております」、「侵略が現実に起こった場合に、これは平和的手段では防げない、その場合に「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利」が根底からくつがえされるおそれがある。その場合に、自衛のため必要な措置をとることを憲法が禁じているものではない、というのが憲法第九条に対する私どものいままでの解釈の論理の根底でございます」、「わが国の国土が侵されて、その結果国民の生命、自由及び幸福追求に関する権利が侵されるということがないようにする」、「わが国が侵略をされてわが国民の生命、自由及び幸福追求の権利が侵されるというときに、この自国を防衛するために必要な措置をとるというのは、憲法九条でかろうじて認められる自衛のための行動だ」及び「わが国が侵略された場合に、わが国の国民の生命、自由及び幸福追求の権利を守るためにその侵略を排除するための措置をとるというのが自衛行動だという考え方」と答弁している。
 昭和四十七年十月十四日に参議院決算委員会に対し政府が提出した資料「集団的自衛権と憲法との関係」(以下「昭和四十七年の政府見解」という。)は、先に挙げた答弁を含む同年九月十四日の参議院決算委員会における多岐にわたる議論を論理的に整理して取りまとめたものである。この昭和四十七年の政府見解においては、
(一)まず、「憲法は、第九条において、同条にいわゆる戦争を放棄し、いわゆる戦力の保持を禁止しているが、前文において「全世界の国民が・・・・平和のうちに生存する権利を有する」ことを確認し、また、第一三条において「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、・・・・国政の上で、最大の尊重を必要とする」旨を定めていることからも、わが国がみずからの存立を全うし国民が平和のうちに生存することまでも放棄していないことは明らかであつて、自国の平和と安全を維持しその存立を全うするために必要な自衛の措置をとることを禁じているとはとうてい解されない。」としている。
(二)次に、「しかしながら、だからといつて、平和主義をその基本原則とする憲法が、右にいう自衛のための措置を無制限に認めているとは解されないのであつて、それは、あくまで外国の武力攻撃によつて国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底からくつがえされるという急迫、不正の事態に対処し、国民のこれらの権利を守るための止むを得ない措置としてはじめて容認されるものであるから、その措置は、右の事態を排除するためとられるべき必要最少限度の範囲にとどまるべきものである。」として、憲法第九条の下においても、このような場合に限って、例外的に自衛のための武力の行使が許されるという基本的な論理(理由・根拠)を示している。
(三)その上で、(一)及び(二)の基本的な論理に当てはまる例外的な場合としては、我が国に対する武力攻撃が発生した場合に限られるという当時の事実認識を前提として、結論として、「そうだとすれば、わが憲法の下で武力行使を行なうことが許されるのは、わが国に対する急迫、不正の侵害に対処する場合に限られるのであつて、したがつて、他国に加えられた武力攻撃を阻止することをその内容とするいわゆる集団的自衛権の行使は、憲法上許されないといわざるを得ない。」という見解が述べられている。
 先に挙げた答弁は、この(一)及び(二)の基本的な論理と(三)の結論とを区分することなく一体として述べているものであり、昭和四十七年の政府見解において論理的に整理された(一)及び(二)の基本的な論理を含んでいるものである。
 「国の存立を全うし、国民を守るための切れ目のない安全保障法制の整備について」(平成二十六年七月一日閣議決定)でお示しし、平成二十七年九月十九日に成立した我が国及び国際社会の平和及び安全の確保に資するための自衛隊法等の一部を改正する法律(平成二十七年法律第七十六号。以下「改正法」という。)による改正後の自衛隊法(昭和二十九年法律第百六十五号)第七十六条第一項及び第八十八条並びに改正法による改正後の武力攻撃事態等及び存立危機事態における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律(平成十五年法律第七十九号)第二条第二号及び第四号、第三条第三項及び第四項並びに第九条第二項第一号ロに明記されている「武力の行使」の三要件(以下「新三要件」という。)は、昭和四十七年の政府見解で示されている(一)及び(二)の基本的な論理を維持し、この考え方を前提として、我が国を取り巻く安全保障環境の変化を踏まえ、この基本的な論理に当てはまる例外的な場合として、我が国に対する武力攻撃が発生した場合に限られるとしてきたこれまでの認識を改め、「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」場合もこれに当てはまるとしたものである。すなわち、国際法上集団的自衛権の行使として認められる他国を防衛するための武力の行使それ自体を認めるものではなく、あくまでも我が国の存立を全うし、国民を守るため、すなわち我が国を防衛するためのやむを得ない自衛の措置として、一部、限定された場合において他国に対する武力攻撃が発生した場合を契機とする武力の行使を認めるにとどまるものであり、新三要件を満たす限定的な集団的自衛権の行使は、昭和四十七年の政府見解で示されている(一)及び(二)の基本的な論理の枠内のものであって、「同政府見解にある「外国の武力攻撃」という文言を作成後四十二年後になって、「同盟国等に対する外国の武力攻撃」など「我が国に対する外国の武力攻撃」以外の意味に読み替えることは、意図的かつ便宜的な論理の捏造というべき暴挙」との御指摘は当たらない。