質問主意書

第189回国会(常会)

答弁書


答弁書第二五一号

内閣参質一八九第二五一号
  平成二十七年八月二十八日
内閣総理大臣 安倍 晋三   


       参議院議長 山崎 正昭 殿

参議院議員藤末健三君提出ホルムズ海峡における機雷掃海の必要性に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員藤末健三君提出ホルムズ海峡における機雷掃海の必要性に関する質問に対する答弁書

一、二及び十について

 従来から、武力行使の目的を持って武装した部隊を他国の領土、領海、領空へ派遣するいわゆる「海外派兵」は、一般に、自衛のための必要最小限度を超えるものであって、憲法上許容されないが、他国の領域における武力行動でいわゆる自衛権発動の三要件に該当するものがあるとすれば、憲法上の理論としては、そのような行動をとることが許されないわけではないと考えてきており、この趣旨は、昭和三十一年二月二十九日の衆議院内閣委員会で示された政府の統一見解によって既に明らかにされているところである。このような考え方は、「国の存立を全うし、国民を守るための切れ目のない安全保障法制の整備について」(平成二十六年七月一日閣議決定)でお示しした「武力の行使」の三要件(以下「新三要件」という。)の下で行われる自衛の措置としての「武力の行使」にもそのまま当てはまるものと考えられる。従来から、外国による「武力の行使」の一環として敷設されている機雷を除去することは、国際法上も「武力の行使」に該当し得るとしてきているが、新三要件に該当する場合の自衛の措置として行うのであれば、憲法上許容される。
 新三要件を満たす場合に例外的に外国の領域において行う「武力の行使」については、ホルムズ海峡での機雷掃海のほかに、現時点で個別具体的な活動を念頭には置いていない。

三及び十一について

 いわゆる「海外派兵」についての政府の考え方は一、二及び十についてで述べたとおりであるが、ホルムズ海峡に機雷が敷設された状況が、存立危機事態として認定されること、すなわち、国民に我が国が武力攻撃を受けた場合と同様な深刻、重大な被害が及ぶことが明らかな状況であることを前提とするならば、
(一)敷設された機雷は、それ自体がまさに国民の生死にかかわるような深刻、重大な被害を及ぼしている元凶であり、一旦敷設されればその場所にとどまり、将来にわたって被害を継続させ拡大させていく性質を有していることから、できる限り早くこれを除去する必要性が高いこと
(二)機雷の除去は、これが敷設された場所にまで行かなければできないこと
から、機雷の掃海は各国が協力して実施することが通例であるとしても、我が国の機雷掃海の能力が高いという現実も踏まえれば、現に機雷が敷設されている状況が続く限り、我が国の存立を全うし、国民の命を守るため、当該機雷を一刻も早く除去するために我が国が掃海活動を行うことが、新三要件の第二要件及び第三要件を満たすことは当然にある。

四及び六について

 現在国会に提出している我が国及び国際社会の平和及び安全の確保に資するための自衛隊法等の一部を改正する法律案は、特定の国や地域を念頭に置いたものではない。また、特定の国がホルムズ海峡に機雷を敷設することを想定しているわけではないが、ホルムズ海峡を擁する中東地域においても安全保障環境がますます厳しさと不透明性を増す中で、国民の命と平和な暮らしを守るため、あらゆる事態に万全の備えを整備しておくことが必要であると考えている。

五について

 存立危機事態の認定については、実際に発生した事態の個別具体的な状況に即して、政府が全ての情報を総合して客観的、合理的に判断することとなるため、過去の事例に関して、「日本が受けた経済的影響は日本の存立にどの程度の影響を及ぼすものであったか」及び「我が国の存立を脅かす事態が当時想定されていた事実はあった」かとのお尋ねについてお答えすることは困難である。

七について

 お尋ねの「遺棄機雷であるという認定」については、個別具体的な状況に即して、政府が全ての情報を総合して客観的、合理的に判断することとなるため、「どのような場合が正当な認定である」かについては、一概にお答えすることは困難である。

八及び九について

 遺棄された機雷など、外国による武力攻撃の一環として敷設されているのではない機雷を除去することは、敷設国に対する戦闘行動としての性質を有さないため、「武力の行使」には当たらず、自衛隊法(昭和二十九年法律第百六十五号)第八十四条の二の規定に基づき実施することが可能である。
 他方、一般に、事実上の停戦状態となったとしても、正式な停戦合意がなされる前であれば、他国に対する武力攻撃の一環として敷設された機雷を除去する行為は、「武力の行使」に当たり得る。また、一旦他国に対する武力攻撃の一環として敷設された機雷が、具体的にいかなる時点で遺棄された機雷となるかを予測することは、現実的には極めて困難である。
 このように、具体的にいかなる時点で遺棄された機雷となるかの見通しが立たない段階において、同条の規定に基づく機雷等の除去のために、掃海艇等を事前の準備として近傍に展開することは想定されない。
 「現行法で不可能である場合でも、限定的な集団的自衛権の行使ではなく、自衛隊法第八十四条の二の改正で対応することはできないのか」とのお尋ねについては、その具体的に意味するところが必ずしも明らかではないため、お答えすることは困難である。

十二について

 ホルムズ海峡における機雷の掃海については、安全に活動が実施できる段階において行うことを想定している。

十三について

 御指摘の決議の有権的な解釈については、政府としてお答えする立場にないが、いわゆる「海外派兵」についての政府の考え方は、一、二及び十についてで述べたとおりである。