質問主意書

第189回国会(常会)

答弁書


答弁書第一二一号

内閣参質一八九第一二一号
  平成二十七年五月十二日
内閣総理大臣 安倍 晋三   


       参議院議長 山崎 正昭 殿

参議院議員川田龍平君提出福島第一原発の十一万倍ものトリチウムが六ヶ所再処理工場から海洋へ放出されたことに関する再質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員川田龍平君提出福島第一原発の十一万倍ものトリチウムが六ヶ所再処理工場から海洋へ放出されたことに関する再質問に対する答弁書

一について

 先の答弁書(平成二十七年三月十日内閣参質一八九第五三号。以下「前回答弁書」という。)一についてでお答えしたとおりである。

二について

 お尋ねの「両告示の違い」の趣旨が必ずしも明らかではないが、実用発電用原子炉の設置、運転等に関する規則(昭和五十三年通商産業省令第七十七号)においては、液体状の放射性廃棄物を排水施設によって排出する場合、排水口又は排水監視設備において排水中の放射性物質の濃度を監視することにより、周辺監視区域の外側の境界における水中の放射性物質の濃度が原子力規制委員会の定める濃度限度を超えないようにすることとされており、当該濃度限度について、実用発電用原子炉の設置、運転等に関する規則の規定に基づく線量限度等を定める告示(平成十三年経済産業省告示第百八十七号)において、一立方センチメートル当たり六十ベクレルと定めている。
 放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律施行規則(昭和三十五年総理府令第五十六号)においては、液体状の放射性同位元素等を浄化し、又は排水する場合には、排水設備が、排水口における排液中の放射性同位元素の濃度を原子力規制委員会が定める濃度限度以下とする能力を有するか、又は、排水監視設備を設けて排水中の放射性同位元素の濃度を監視することにより、事業所等の境界における排水中の放射性同位元素の濃度を原子力規制委員会が定める濃度限度以下とする能力を有すること(これらの能力を有する排水設備を設けることが著しく困難な場合にあっては、排水設備が事業所等の境界の外における線量を原子力規制委員会が定める線量限度以下とする能力を有することについて原子力規制委員会の承認を受けていること)を求めており、これらの濃度限度について、放射線を放出する同位元素の数量等を定める件(平成十二年科学技術庁告示第五号)において、一立方センチメートル当たり六十ベクレルと定めている。

三の1について

 前回答弁書三から五まで及び七についてでお答えしたとおり、原子力発電施設並びに再処理設備及びその附属施設(以下「再処理施設」という。)から放出される放射性物質については、国際放射線防護委員会の勧告(以下「ICRP勧告」という。)を踏まえ、原子力発電施設及び再処理施設の周辺監視区域外における一般公衆の被ばく線量が年間一ミリシーベルト以下となるように放射能濃度等の限度を定めており、その上で、施設からの放出形態や核種の種類に応じた規制を行っている。

三の2について

 前回答弁書三から五まで及び七についてでお答えしたとおり、再処理施設について、液体の放射性廃棄物が海洋放出施設から放出されることを踏まえ、海産物の摂取等も含めた一般公衆の被ばく線量の限度を定めており、また、再処理事業者に対し、海洋放出施設の放出口周辺の海域の海水、海底土、海産生物、漁具等に係る放射性物質の濃度等を三月ごとに記録し、国に報告する義務を課している。

三の3について

 環境基本計画については、現行の計画である「環境基本計画」(平成二十四年四月二十七日閣議決定)の中に「放射性物質による環境汚染からの回復等」との一章を設け、取り組むべき事項の整理を示したところである。
 また、放射性物質に係る環境基準(環境基本法(平成五年法律第九十一号)第十六条第一項に規定する基準をいう。以下同じ。)については、平成二十四年に同法から放射性物質に係る適用除外規定が削除され、放射性物質に係る環境基準を大気の汚染等についても定めることが可能となったことを踏まえ、放射性物質管理に係る枠組み等を取り扱う国際組織や諸外国における放射性物質に係る基準及び制度等についての調査を行ってきたところである。この調査の結果、諸外国においては、ICRP勧告の考え方にのっとって発生源を管理する手法による放射線防護が行われており、我が国の環境基準に当たる基準を放射性物質については設けていないことが明らかとなったところである。また、我が国においても、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(昭和三十二年法律第百六十六号。以下「原子炉等規制法」という。)等により、ICRP勧告の考え方にのっとった平常時の発生源管理が行われている。これらのことから、改めて放射性物質に係る我が国の環境基準を設定する必要性はないと考える。なお、東京電力株式会社福島第一原子力発電所事故により放出された放射性物質による環境汚染への対処に当たっては、ICRP勧告の考え方にのっとり、避難指示の基準や放射線防護に係る長期的な目標が設定されているところ、この目標は我が国の環境基準とは性格が異なるものである。

三の4について

 環境基本法第二十条は、環境政策の重要な手法として広く行われ、重要性の認識も定着している環境影響評価について、これを推進することを国に求める規定であり、個別具体の措置については、同条の規定の趣旨も踏まえて環境影響評価法(平成九年法律第八十一号)等が定められているところであるが、再処理施設は、同法の対象事業ではない。
 また、政府は、パブリックコメント等の手続を踏まえ策定した「エネルギー基本計画」(平成二十六年四月十一日閣議決定)において、日本原燃株式会社の再処理事業所再処理施設(以下「六ヶ所再処理施設」という。)の竣工も含め核燃料サイクルを推進することとしている。

四について

 御指摘の環境基本法第五条は環境の保全についての基本理念を定めているものであり、この基本理念は、原子炉等規制法を含む個別の法令に定める措置等を通じて実現されるものと認識している。
 また、御指摘の海洋放出については、再処理施設から放出される放射性物質については、国際原子力機関の策定する安全基準に取り入れられているICRP勧告を踏まえ、再処理施設の周辺監視区域外における一般公衆の被ばく線量が年間一ミリシーベルト以下となるように放射能濃度等の限度を定めており、その上で、施設からの放出形態や核種の種類に応じた規制を行っているところであり、お尋ねの「太平洋に面する世界各国の了解」を得ることとはなっていない。
 なお、六ヶ所再処理施設から海洋へのトリチウムの放出については、管理目標値は一京八千兆ベクレルであるが、平成十九年度の年間の累積放出量は六ヶ所再処理施設に係る定期報告書によると千三百兆ベクレルであり、管理目標値を大きく下回っている。
 また、六ヶ所再処理施設の管理目標値と北海道電力株式会社泊発電所の管理基準等との比較については、前回答弁書二についてでお答えしたとおりである。

五について

 再処理事業者は、原子炉等規制法第五十条第一項の規定に基づき、使用済燃料の再処理の事業に関する規則(昭和四十六年総理府令第十号)で定めるところにより海洋放出口周辺海域等の放射線管理に関すること等について保安規定を定めている。原子力規制委員会においては、同条第五項の規定に基づき、再処理事業者及びその従業者が保安規定を遵守しているかについて、定期的に検査を行っており、再処理事業者による海洋放出施設の放出口周辺の海域の海水、海底土、海産生物、漁具等に係る放射性物質の濃度等の測定が保安規定に基づき実施されていることを確認している。