質問主意書

第189回国会(常会)

答弁書


答弁書第七〇号

内閣参質一八九第七〇号
  平成二十七年三月十七日
内閣総理大臣 安倍 晋三   


       参議院議長 山崎 正昭 殿

参議院議員吉田忠智君提出安倍内閣の農業政策に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員吉田忠智君提出安倍内閣の農業政策に関する質問に対する答弁書

一の1について

 今般の農業協同組合に関する制度の見直し(以下「農協改革」という。)において、全国農業協同組合中央会(以下「全国中央会」という。)については、農業協同組合の経済活動を適切に支援する観点からその役割の見直しを行うこととしており、これにより、農業協同組合が、農業者の所得の向上のために積極的な経済活動を行うことによって、農業者の所得の向上に寄与するものと考えている。

一の2について

 全国中央会が農業協同組合の経営等の自主性を阻害しているか否かは、農業協同組合の役職員をはじめとする関係者の主観によるところが大きいが、最近の民間報道機関によるアンケート等においては、農業協同組合中央会が行う経営指導等に対する否定的な意見もあったものと承知している。また、全国中央会について、農業協同組合の経済活動を適切に支援する観点からその事業及び組織の見直しが行われることにより、農業協同組合の理事等が、経営者としての自覚を持って職務に取り組むことが期待されるものである。

一の3について

 「規制改革実施計画」(平成二十六年六月二十四日閣議決定)においては、農業協同組合中央会に関する制度は、「現行の制度から自律的な新たな制度に移行する」こととしており、全国中央会が行う監査についても、全国中央会が現行の制度から自律的な新たな制度に移行するに当たり、検討すべき事項の一つである。御指摘の平成十九年十二月十八日の参議院農林水産委員会における若林農林水産大臣(当時)の答弁は、当時の農業協同組合中央会に関する制度を前提として、当該制度の適正な運用を図る観点から行われたものであり、農業協同組合中央会に関する制度を含め、農業協同組合に関する制度全般の見直しを行っている現在とは、事情が異なるものと考えている。

一の4について

 平成二十七年一月十三日の衆議院農林水産委員会において西川農林水産大臣(当時)が「強制監査権限」と述べたことについては、農業協同組合法(昭和二十二年法律第百三十二号。以下「農協法」という。)第三十七条の二の規定により、一定の農業協同組合等は、全国中央会の監査を受けることが義務付けられており、監査を受けることが当該農業協同組合等の任意ではないことを説明したものである。また、このことを説明する上で、一定の用語によらなければならないものではないと考えている。

一の5について

 平成十六年の農協法の改正においては、農業協同組合が行う農畜産物の販売等の事業について、全国中央会の指導により改革を進めること等を目指したものであるが、必ずしも当初期待したとおりの全国中央会の指導が行われなかったこと、その後の農業協同組合を取り巻く環境が変化したこと等を踏まえて、今般、農業協同組合が、農業者の所得の向上のために積極的な経済活動を行うことができるようにする農協改革を推進することとしたところである。

一の6について

 お尋ねの「監査の手法が違っても問題はない」の意味するところが必ずしも明らかではないが、農業協同組合が今後、財務諸表の正確性を担保するとともに、安定的にその事業を継続するためには、他の金融機関等と同様に、一定の農業協同組合について、公認会計士等による監査を義務付けるのが適当であると考えている。また、お尋ねの「経営破綻」については、平成八年以降、二十四の農業協同組合が、経営が困難であるとして農水産業協同組合貯金保険機構による支援を受けているところである。

一の7について

 農業協同組合は、農業者の協同組織であるが、実際には、地域のインフラとしての側面を持っていることも踏まえ、「農協改革の法制度の骨格」(平成二十七年二月十三日農林水産業・地域の活力創造本部決定)において、准組合員の利用量規制の在り方については、五年間、正組合員及び准組合員による農業協同組合の事業の利用の実態並びに農業協同組合の事業及び組織に関する改革の実行状況の調査を行い、慎重に決定することとしたところである。

一の8について

 全国農業協同組合連合会が株式会社への組織変更をした場合、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和二十二年法律第五十四号)が全面的に適用されることとなるが、どのような行為が同法に抵触するかについては、個別の事案ごとに判断されるものである。

一の9について

 お尋ねの「政府がその方向性を決める」の意味するところが必ずしも明らかではないが、農協改革は、農業協同組合の自己改革を促すものであり、農協系統組織内での検討も踏まえて進めている。なお、御指摘の「自律的」とは、農協改革において、農業協同組合中央会が、農業協同組合に対し法律に基づく特別の権限を有しないことを意味している。

一の10について

 農協改革は、農業協同組合の自己改革を促すものであり、組合員による農業協同組合の自治を侵害するものではないと考えている。

一の11について

 農協改革は、農業協同組合が、農業者の所得の向上のために積極的な経済活動を行うことができるようにするものであり、御指摘の在日米国商工会議所の意見書とは無関係であることから、御指摘は当たらない。

二の1について

 米等を対象とした収入減少影響緩和対策については、政府としては、「農林水産業・地域の活力創造プラン」(平成二十五年十二月十日農林水産業・地域の活力創造本部決定)に基づき、農業の担い手に対するセーフティネットとして実施することとしている。また、第百八十六回国会において農業の担い手に対する経営安定のための交付金の交付に関する法律の一部を改正する法律(平成二十六年法律第七十七号)が成立したところであり、御指摘の農業者戸別所得補償制度の法制化及び拡充を行う考えはない。

二の2について

 農林水産省としては、肉用牛肥育経営安定特別対策事業において、肥育牛等の販売による粗収益の額が生産費を下回った場合にその差額の八割を補填することとしており、当該生産費には、飼料及び子牛の購入に係る費用も含まれていることから、今後とも、この事業の実施等により、肥育牛の再生産の確保を図っていく考えである。

二の3について

 お尋ねの「乱開発を防ぐ実効性のある転用許可事務の適切な運用」の意味するところが必ずしも明らかではないが、政府としては、「平成二十六年の地方からの提案等に関する対応方針」(平成二十七年一月三十日閣議決定)に基づき、農地転用許可の権限移譲に当たって、必要に応じ農地転用許可に係る基準の明確化等を図るとともに、農地転用許可に係る事例集を作成するなど、地方公共団体における農地転用許可制度の適正な運用の確保が図られるよう、必要な措置を講ずる考えである。

三の1から4までについて

 環太平洋パートナーシップ協定は、現在交渉中であることから、交渉に係る個別具体的な内容についてお答えすることはできないが、政府としては、御指摘の衆議院及び参議院の農林水産委員会の決議をしっかりと受け止め、守るべきものは守り、攻めるべきものは攻めることにより、国益にかなう最善の道を追求するよう、全力で交渉に当たっているところである。

三の5について

 経済上の連携に関する日本国とオーストラリアとの間の協定(平成二十六年条約第十九号。以下「日豪EPA」という。)の我が国の農業への影響について政府として試算を行うことは、我が国の農業が国内の農業生産及び食料消費の状況や、景気又は為替の変動等の要因による各国との貿易の状況の変化等に影響され、かつ、これらの状況の変化等を具体的に予測することが困難である中で、これらの状況の変化等によって将来の農業の状況が変動し得ることが明らかであるにもかかわらず、これらについて無用な誤解を与えるおそれがあること等から、現時点では考えていない。

三の6について

 日豪EPAは、我が国とオーストラリアとの戦略的関係を更に強化し、両国間の貿易及び投資を促進することに寄与するものであり、政府として、できるだけ早期に発効させることを目指したところである。
 お尋ねの点について、やり取りの具体的な内容を明らかにすることは、相手国との信頼関係を損ない、また、今後の他の国又は地域との交渉上不利益をもたらすおそれがあることから、差し控えたい。

三の7について

 御指摘の「不足分」の意味するところが必ずしも明らかではないが、国内における畜産の振興に資するための施策については、牛肉等の関税の収入その他の財源を活用して行ってきており、当該施策の所要額及びその財源については、毎年度の予算編成過程において決定されるものであることから、あらかじめ確たることを申し上げることは、困難である。

三の8について

 農林水産省としては、国内における生乳の生産が減少傾向で推移する中、国産ナチュラルチーズ等の生産拡大に資するよう、地域の中心的な酪農経営に対する施設及び機械の整備の支援等、生乳の生産拡大に向けた各種対策を実施することとしている。