質問主意書

第189回国会(常会)

質問主意書


質問第三二一号

選択的夫婦別姓に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十七年九月二十五日

糸数 慶子   


       参議院議長 山崎 正昭 殿



   選択的夫婦別姓に関する質問主意書

 日本国憲法が一九四六年に制定され、民法の親族・相続編は大幅に改正された。しかし、家制度廃止に重点が置かれ、他の規定については根本的な検討が十分に行われなかったことから、衆議院司法委員会で「本法は、可及的速かに、将来において更に改正する必要があることを認める」とする附帯決議が付された。夫婦別姓を認めるべきかどうかの議論は民法改正直後から行われていたのである。
 憲法制定から五十年を経た一九九六年二月、法制審議会は、選択的夫婦別姓制度導入などの民法の一部を改正する法律案要綱を答申した。しかし、現在まで法改正されないままとなっている。
 その間、結婚や家族についての考え方やありようは大きく変化し、多様化してきた。結婚や離婚による改姓の煩雑さや不都合などから、通称使用をする人も多く、夫と妻がそれぞれの名前を名乗るために事実婚を選択するカップルも少なくない。また、若い世代を中心に選択的夫婦別姓に賛成する人は多く、政府や報道各社の世論調査では、六十歳未満の各年齢層で賛成が反対を上回っている。さらに、国連の各人権機関も日本政府に対し、法改正を行うようたびたび勧告している。このように、国内外から選択的夫婦別姓制度導入が求められているにもかかわらず、政府は、「世論の動向」のみを理由にあげ、民法の改正を怠っている。
 そこで、民法改正の必要性があることを示した上で以下質問する。

一 一九七五年を国際婦人年としたことを契機に、政府は男女平等に関する施策を急速に推進し、一九八一年に政府の婦人問題推進本部が婦人に関する施策の推進のための国内行動計画を策定した。一九八五年に女性差別撤廃条約に批准し、一九九一年に策定した新国内行動計画では「男女平等の見地から夫婦の氏や待婚期間のあり方等を含めた婚姻及び離婚に関する法制の見直しを行う」と明記した。これらの経緯を見ると、規定見直しの必要性は国連を中心とした国際的な女性の権利保障の進展という中で出てきたものと言えるが、政府が新国内行動計画に明記した法制の見直しについて、これまでの具体的な実施内容を明らかにされたい。

二 一九九一年一月二十九日に法制審議会民法部会身分法小委員会が民法の婚姻規定の見直しに入ったが、当時の法務大臣が法制審議会に諮問した理由を明らかにされたい。

三 一九九二年十二月一日、法務省民事局参事官室が「婚姻及び離婚制度の見直し審議に関する中間報告(論点整理)」を公表し、この中間報告に対しては、裁判所、弁護士会、法曹団体、大学、研究者、女性団体、消費者団体、労働団体と個人から多数の意見が寄せられた。法制審議会民法部会身分法小委員会は、それらをもとに審議を重ね、一九九四年七月十二日に審議結果の大綱を取りまとめ、「婚姻制度に関する民法改正要綱試案」を公表した。また、同年九月には当時の総理府が選択的夫婦別姓制度の是非を問う「基本的法制度に関する世論調査」を行い、民事局も一九九五年一月から三月まで「家族法ホットライン」を設置した。このような手続を経て、小委員会は最終案である「婚姻制度等の見直し審議に関する中間報告」を公表し、これを踏まえ、民法部会は一九九六年一月に民法の一部を改正する法律案要綱を決定し、法制審議会は同年二月二十六日に法務大臣に答申したのである。このように、法制審議会が五年の歳月をかけ慎重に審議を重ね、選択的夫婦別姓制度を導入すべきであると答申したことについて、政府はどのように受け止めているのか、見解を明らかにされたい。

四 法制審議会が一九九六年二月二十六日に法律案要綱を答申しながら二十年近くもたなざらしにされ法改正されていないが、このように、法制審議会答申後に立法化されていないものが他にあるか明らかにされたい。

五 二〇一五年現在、日本のように婚姻した際、法律で夫婦の姓を同姓とするように義務付けている国があれば示されたい。

六 選択的夫婦別姓にすると「家族の絆(きずな)が壊れる」という意見に対する政府の見解を示されたい。また、選択的夫婦別姓にした場合に家族の絆が壊れるとした根拠となる調査結果があれば明らかにされたい。

七 婚外子相続分規定違憲決定後となる二〇一三年十一月五日の参議院法務委員会で、婚外子相続分規定見直しだけではなく、選択的夫婦別姓制度導入や再婚禁止期間の見直し、婚姻年齢の男女平等化などの民法改正を行うよう求められた当時の谷垣禎一法務大臣は、「最高裁判所からあのような、九百条に関しては法令違憲であるという決定が出ましたので、その決定を踏まえて速やかに違憲状態を解消しようということで、まずこれをやるということでございます。それで、そのために今回の改正ではその他の事項を併せて行うことは今考えてございません。(中略)国民の生活の基礎に家族、家庭というものがございます。多くの同意を取り付けながら進んでいくという考え方も私は必要である」と述べ、慎重姿勢を示している。法制審議会が一九九六年に答申したことを重く受け止め、法改正していれば、当事者は長い間裁判で闘う必要も、苦しむこともなかったのであり、答申を無視して、最高裁から断罪されるまで法改正を怠ってきた反省が見られないばかりか、法制審答申を受け継ぐ立場の法務大臣が、法制審議会が積み重ねてきた議論や答申を蔑ろにすることは問題であると思われる。

1 婚外子相続分規定については、最高裁が一九九五年に規定を合憲と判断した際に、「国会における立法作業によるべき」との補足意見が付された。二〇〇三年以降、規定は「極めて違憲の疑いが濃い」として、立法府に法改正を促してきたが、国会は裁判所の判断を受け止めることなく、法改正を怠ってきた。そのことが二〇一三年九月四日の最高裁における違憲判断により断罪されたにもかかわらず、他の事項について法改正に向けた検討を行うことなく、裁判所の判断を待つという姿勢は、政府が果たすべき役割を放棄しているともいえるのではないか。法制審答申の他の事項についても法改正に向けた取組が必要であると思われるが、政府の見解を示されたい。
2 法務大臣が二〇一三年十一月五日の法務委員会で述べた、法制審答申より優先される「多くの同意」とはどの程度を指すのか、政府の見解を具体的に示されたい。

八 二〇一三年十二月三日の参議院法務委員会でも当時の谷垣法務大臣は、選択的夫婦別姓制度導入については、我が国の家族の在り方に深くかかわる問題であり、様々な意見があるので慎重に検討すべきとの旨答弁している。また、安倍晋三内閣総理大臣も二〇一四年十月八日の参議院予算委員会で、「いわゆる選択的夫婦別氏制度導入の問題は、我が国の家族の在り方に深く関わるものであり、国民の間にも様々な意見があることから、慎重な検討が必要」と答弁した。さらに、上川陽子法務大臣も二〇一五年五月二十二日の衆議院本会議で「我が国の家族のあり方に深くかかわるものであり、国民の間にさまざまな意見があることから、これを踏まえて検討する必要がある」と、ほぼ同じ答弁をしている。

1 法務大臣が法改正を行わない理由に挙げる「様々な意見」とはどのような意見なのか、政府として把握している意見を明らかにされたい。
2 「様々な意見」があるからこそ、選択肢を増やすことがより多くの国民のニーズに応えることになると思われるが、これについて政府の見解を示されたい。

九 二〇〇一年十月一日より、国の行政機関での職員の旧姓使用が可能となって以降、政府は通称使用の拡大を進めてきた。法務省も、商業登記規則第八一条の二の新設により、今年二月二十七日から商業登記簿の役員欄に役員の婚姻前の氏について付記することを可能としている。

1 通称使用の範囲には限界もあり、社会保険や税などは戸籍名が求められ、二つの名前を使い分けなければならない煩雑さが、通称使用をする個人や二つの名前を管理する職場にもあると考えるが、政府は、法制審議会の答申を実施することなく、法律上の規定のない通称の使用を拡大していく方針であるのか、政府の見解を示されたい。
2 通称使用を拡大し、公的にも認めることで不便を解消できるという方法もあると思われるが、その場合、政府が考える民法上の氏とは何か、その定義について示されたい。
3 現行民法は婚姻時に夫か妻のどちらか一方の氏を選択する規定だが、実際に改姓しているのはほとんどが女性である。民間シンクタンクが二〇一三年九月に行ったインターネット調査によると、二十代既婚女性の四人に一人、三十代では五人に一人が職場で旧姓を使用していることが明らかになった。煩雑な手続の解消のためにも、民法改正を行い夫婦別姓を認めることが安倍政権の女性の活躍促進に資すると思われるが、これに対する政府の見解を示されたい。

十 国連女性差別撤廃委員会は二〇〇九年の日本政府報告審査で、「本条約の批准による締約国の義務は、世論調査の結果のみに依存するのではなく、本条約は締約国の国内法体制の一部であることから、本条約の規定に沿うように国内法を整備するという義務に基づくべきであることを指摘する」と述べ、人権問題を世論に委ねている日本政府の姿勢を厳しく指摘した。
 条約加盟国には条約実施義務があり、日本国憲法第九十八条第二項でも、「日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする」と規定している。
1 二〇一五年三月二十日の衆議院法務委員会で上川陽子法務大臣は、「民法改正を行わないことが直ちに条約に違反するものではない」、「女子差別撤廃委員会の勧告に対しましては、民法改正をめぐる我が国の状況について十分な説明をし、適切に対応してまいりたい」と答弁しているが、「直ちに」とは何を指すのか。また、「適切に対応」とはどういう対応のことか、それぞれ政府としての見解を明らかにされたい。
2 法務大臣が二〇一五年三月二十日の衆議院法務委員会において答弁した「民法改正を行わないことが直ちに条約に違反するものではない」や、「勧告は法的拘束力を有するものではない」という認識は、「誠実に遵守する」という日本国憲法第九十八条第二項の規定に反し、日本政府が「勧告には法的拘束力がないため、繰り返し勧告を受けても問題ない」という姿勢であると受け取られかねないが、このような懸念について政府の見解を示されたい。

  右質問する。