質問主意書

第189回国会(常会)

質問主意書


質問第三〇八号

日本版コンパッショネートユース制度に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十七年九月十八日

川田 龍平   


       参議院議長 山崎 正昭 殿



   日本版コンパッショネートユース制度に関する質問主意書

 厚生労働省は、治験に参加できない患者への治験中の薬へのアクセスを実現するため、日本版コンパッショネートユース制度について、省令によって、人道的見地からの治験取扱い(以下「本制度」という。)として今年度中にスタートさせる予定である。
 本年七月九日の参議院厚生労働委員会において厚生労働省神田医薬食品局長は、この制度は「有効性、安全性に関する情報を収集して、承認申請に際して先行する治験の成績を補完するものとして評価に資するものと考えられることから、治験に該当する」と答弁(以下「本件答弁」という。)した。
 また、この制度設計案をめぐり、九月四日に都内で開かれたレギュラトリーサイエンス学会学術大会では、医薬品メーカー側から「治験として実施するのは難しいのではないか」などとの意見が出た一方で、医療関係者、具体的には国立研究開発法人国立がん研究センターの藤原康弘氏からは「健康被害の補償や医療過誤訴訟のリスクなども議論すべき」などの意見が出たと聞いている。
 そこで、以下質問する。

一 欧米では省令ではなく法律でコンパッショネートユース制度を整備している国もあると聞いているが、新たな仕組みを法定せず、既存の治験の枠内で行うことが、被験者の安全性確保等の観点から望ましい理由を明らかにされたい。また、本制度はどのような法令形式で規定されることとなるのか。

二 欧米にはコンパッショネートユース制度あるいはそれに類するものがあるとしても、日本のような治験と臨床研究の区別はなく、医薬品臨床試験は薬事関連法令で規制されることを前提として、その外側にあるものとしてのコンパッショネートユース制度であるのではないか。他方、日本は、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律外の臨床研究を放置したままで治験と本制度を併存させようとしている。このままでは治験と本制度の間に、本来あるべき法律に基づく臨床研究がないために、治験と本制度との間のギャップが埋められず、欧米との制度設計の齟齬をますます拡大させ、医薬品規制のハーモナイゼーションの観点から問題ではないかと考えるが、いかがか。

三 「有効性、安全性に関する情報を収集」するものであれば治験に該当し得るとすると、これまでの治験の定義を広げることとなり、患者が待ち望む本来の治験推進を阻害することにならないか。

四 本件答弁の一方で、検証的試験として厳密に設計された比較試験である本来の治験の結果があるときに、本制度の成績をどのように評価に用いるのか。

五 本制度で発生した副作用は、本来の治験の場合と同等に評価されるのか。

六 本来の治験で有効性が確認できなかった場合に、本制度では多くの人に効いているからという理由で、当該治験薬の有効性を認めてしまうことは起きないということでよいか。

七 昨年十二月十八日の薬事・食品衛生審議会薬事分科会配付資料によれば、対象患者は「国内で実施中の検証試験等のプロトコールの組入れ基準の各項目に関して、安全性確保の観点から基準を緩めても医学・薬学的に許容可能であると判断される範囲の患者」とあるが、本制度の対象は薬事承認後、適用となる患者に限定すると理解してよいか。

八 「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針ガイダンス」の三十三ページには、「医薬品企業法務研究会(医法研)が2009年11月25日に公開した「被験者の健康被害補償に関するガイドライン」を参考としてよい」との記載がある。そこで確認したい。
 補償に当たっては、医薬品企業法務研究会が作成した複数のガイドラインがあるが、二〇〇九年の「被験者の健康被害補償に関するガイドライン」(以下「二〇〇九年ガイドライン」という。)では、「2 補償の対象とならない場合」として、2-1では機会原因に係る健康被害は補償しないとするものの、「1 補償の原則」の1-3で、一九九九年の「被験者の補償に関するガイドライン」(以下「一九九九年ガイドライン」という。)に記載されていた、絶対責任と峻別する大事な文言である「治験に参加していなければ」が削除された結果、本制度における健康被害は全て補償されることになると理解してよいか。

九 二〇〇九年ガイドラインは二〇一五年に改訂されているが、そこには企業治験が対象と明記されている。そこで、臨床研究の法制化と並行して、臨床研究全体をカバーできる被験者保護のガイドラインが策定されることが望ましいのではないか。厚生労働科学研究費などの公的資金を活用するなど、国としても積極的に策定を支援すべきではないか。

十 患者申出療養(仮称)については、中央社会保険医療協議会で難病団体からヒアリングを行ったが、本制度についても、患者団体や薬害被害者など関係者の意見をオープンな場できちんと聞いて、制度設計を行うべきではないか。

十一 今回、本制度における規制緩和として五項目のGCP規定の緩和措置を講じることになっているが、いずれ治験全体に対して、これらの規定が緩和されることはありえないと考えてよいか。

十二 今回、本制度における治験薬の経費については、妥当な範囲で患者負担とすることも可とするとしているが、いずれ治験全体に対して、患者負担も可とすることはありえないと考えてよいか。

  右質問する。