質問主意書

第189回国会(常会)

質問主意書


質問第二五五号

福島県外における健康調査に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十七年八月二十六日

川田 龍平   
渡辺 美知太郎   


       参議院議長 山崎 正昭 殿



   福島県外における健康調査に関する質問主意書

 八月二十五日、政府は東京電力原子力事故により被災した子どもをはじめとする住民等の生活を守り支えるための被災者の生活支援等に関する施策の推進に関する法律(以下「子ども被災者支援法」という。)に基づき、被災者生活支援等施策の推進に関する基本的な方針の変更を閣議決定した。この中で、健康支援に関し、環境省の「東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う住民の健康管理のあり方に関する専門家会議」(以下「専門家会議」という。)の中間取りまとめを引用し、これまで多くの被災当事者や自治体が要望していた福島県外で被ばくした子どもの健康調査については言及していない。そこで以下質問する。

一 子ども被災者支援法第十三条第二項は、子どもである間に一定の基準以上の放射線量が計測される地域に居住したことがある者及びこれに準ずる者について健康調査を行うことを明記している。しかし、専門家会議では「一定の基準以上の放射線量」の検討をせずに、福島県外における住民の甲状腺検査の実施を先送りした。子ども被災者支援法第十三条第二項に基づき、「一定の基準以上の放射線量が計測される地域」に居住したことがある者について国の責任で健康調査を行うべきであると考えるが、政府の見解を明らかにされたい。

二 第十九回「県民健康調査」検討委員会において、福島県県民健康調査検討委員会甲状腺検査評価部会(以下「甲状腺検査評価部会」という。)は「わが国の地域がん登録で把握されている甲状腺がんの罹患統計などから推定される有病数に比べて数十倍のオーダーで多い。この解釈については、被ばくによる過剰発生か過剰診断(生命予後を脅かしたり症状をもたらしたりしないようながんの診断)のいずれかが考えられ、これまでの科学的知見からは、前者の可能性を完全に否定するものではないが、後者の可能性が高いとの意見があった。」との中間取りまとめを報告している。この中間取りまとめの意味するところは、子ども被災者支援法第一条の「放射線が人の健康に及ぼす危険について科学的に十分に解明されていない」ことにある。福島県内において子どもの甲状腺がんが多発している以上は、同法第二条の未然防止の観点から、一定線量以上の福島県外の子どもにも健康調査を実施するのが子ども被災者支援法の趣旨であると解せられるが、この中間取りまとめの意味するところについて政府の見解を明らかにされたい。

三 二〇一一年三月十四日から三月十五日にかけて放射性ヨウ素一三一が大量に放出されたが、国は東京電力株式会社福島原子力発電所事故(以下「原発事故」という。)後の初期被ばく線量の推計をほとんど行っていないため、汚染状況は原発事故後のプルーム拡散シミュレーション結果等に依拠せざるを得ない。以下に示す複数のシミュレーション等に基づけば、放射性ヨウ素一三一のプルームは福島県から関東一円へ移動している。

① 環境省主催のセミナー(二〇一五年三月七日大田原市)で有識者が放射能汚染状況の説明に用いた株式会社ヴィジブルインフォメーションセンターの放射性ヨウ素一三一のプルームの拡散シミュレーション(二〇一一年三月十二日から四月七日)は重要な参考資料の一つである。それに基づけば、放射性ヨウ素一三一のプルームは三月十五日に東京電力株式会社福島第一原子力発電所から南下し関東一円を通過した後、北上している。このシミュレーションは栃木県の同時期の実測データからも裏付けられ、降雨のあった地域では地表に沈着した。
② UNSCEAR二〇一三年報告書の「2号機から大気中への大規模放出後における131I大気中濃度のシミュレーション結果」には二〇一一年三月十五日の福島県、茨城県、栃木県における濃度が高い放射性ヨウ素一三一のプルームの移動が示されている。
③ NHKで二〇一二年三月十一日に放映された「ネットワークでつくる放射能汚染地図5 埋もれた初期被ばくを追え」のシミュレーションでは、二〇一一年三月十五日に放射性ヨウ素一三一のプルームは風向きの変化により、福島県南部から、茨城県、栃木県など北関東を直撃していたことが判明している。
④ UNSCEAR二〇一三年報告書では外部被ばく、内部被ばくを含む原発事故後一年間の被ばく量を福島県外の市町村も含めて推計している。同報告書に基づいて一歳児における甲状腺吸収線量(外部被ばく及び吸入)を考察すれば、栃木県北部の市町村における被ばく量は福島県の市町村と比較しても決して少なくない。
 以上のことから、福島県外の市町村でも放射性ヨウ素一三一により、福島県内の市町村と同等の初期被ばくを受けたところがある。国は関東一円の子どもたちに甲状腺検査を実施すべきであると考えるが、右①から④の事実認識及び私たちの考察結果についての政府の見解を、項目毎に明らかにされたい。

四 いわゆる「過剰診断」論は、福島県立医大教授の鈴木眞一氏が、二〇一四年六月十日の第三回甲状腺検査評価部会でがん診断を受け手術を受けた患者は臨床的に明らかに声がかすれたり、転移などをしていたりするとして、放置できるものではないと説明していること、二〇一四年度の二度目の検査で前回A1又はA2判定で二次検査は必要なしとされた子どもたちの十四人が甲状腺がんやその疑いと診断されていることを考えれば、すでに破綻していると考えるが、政府の見解を明らかにされたい。

五 子ども被災者支援法第十三条第二項における「一定の基準以上の放射線量」を政府は具体的にどのように解釈しているのか。

  右質問する。