質問主意書

第189回国会(常会)

質問主意書


質問第二五一号

ホルムズ海峡における機雷掃海の必要性に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十七年八月二十日

藤末 健三   


       参議院議長 山崎 正昭 殿



   ホルムズ海峡における機雷掃海の必要性に関する質問主意書

 自衛隊の海外派兵について、従来、政府は、武力行使の目的をもって武装した部隊を他国の領土、領海、領空に派遣する海外派兵は、一般に自衛のための必要最小限度を超えるものであって、憲法上許されない旨の見解(昭和五十五年十月二十八日の衆議院議員稲葉誠一君提出自衛隊の海外派兵・日米安保条約等の問題に関する質問に対する答弁書(内閣衆質九三第六号))を示してきたが、今回の安全保障法制の審議に当たっては、「一般に海外派兵は禁じられているということでございます。ただ、一般にということを申し上げているわけでございます。その例外的な例といたしまして、機雷掃海について言えば、まさに危険物を除去するという行為ではありますが、武力行使に当たる場合もあるわけでございます。そして、武力行使に当たる場合には集団的自衛権の行使に当たり得るわけでございまして、しかし、受動的かつ制限的なものであり」として、ホルムズ海峡における機雷掃海は例外的に認められると答弁している(平成二十七年五月二十七日の衆議院我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会(以下「衆特委」という。))。
 そこで、以下質問する。

一 ホルムズ海峡における敷設機雷の掃海(戦時における機雷掃海、停戦後の遺棄機雷の掃海とは異なる)は、国際法上は「武力行使」に当たり、我が国の法理上は「海外派兵」に当たるのか。

二 海外派兵の例外について中谷防衛大臣は「外国領域における武力行使について、ホルムズ海峡における機雷掃海のほかに、現時点で具体的な活動を念頭に置いているわけではございません」と答弁した(六月五日の衆特委)。一方、南シナ海での機雷掃海について安倍総理は「もちろん、どの場所であろうとも、日本の周辺で機雷封鎖されればこれは三要件に当てはまる可能性も出てくる」、「南シナ海について私が答弁をいたしましたのは、迂回ルート等もあるのでこれは想定をしにくいという趣旨で答弁をさせていただいております。基本は、もちろん三要件に当てはまればこれは対応していくということでございます。」と否定しない答弁をしている(七月二十九日の参議院我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会)。
 ついては、海外派兵の例外としてホルムズ海峡以外に想定している事例はないとの考えは変わらないか、それとも南シナ海における他国の領海に入っての機雷掃海も想定されるのか、明らかにされたい。また、将来、両事例以外に例外が追加される可能性があるのか。

三 ホルムズ海峡における機雷掃海のみが海外派兵の例外として認められることについて、「受動的、限定的な活動であるため」とする政府の説明は、全く理由が明確になっていない。受動的、限定的な活動であっても海外派兵であることに変わりない。なぜ、受動的、限定的であれば海外派兵の例外として認められるのか、論理的に示されたい。

四 北澤俊美参議院議員が参議院本会議(七月二十七日)で指摘したように、イランが核兵器開発協議で合意し、また、駐日イラン大使も「イランが自国の石油も輸出できなくなる機雷配備をすることはない」と指摘(七月二十三日の日本記者クラブでの記者会見)している中でも、ホルムズ海峡での敷設機雷の掃海を想定する必要があるのか。また、このことにより、良好な関係にある日イラン関係を損なう危険性を政府はどのように認識しているのか。

五 政府は、過去、ペルシャ湾においては二度機雷の敷設が行われたと答弁しているが(六月十五日の衆特委)、その際、日本が受けた経済的影響は日本の存立にどの程度の影響を及ぼすものであったか。また、我が国の存立を脅かす事態が当時想定されていた事実はあったのか、明らかにされたい。

六 安倍総理は「特定の国がホルムズ海峡に機雷を敷設することを想定しているわけではありません。また、特定の二国間関係や国際情勢のみを念頭に存立危機事態を設けるものではありません。」とイラン以外の国が機雷を敷設する可能性がある答弁をしている(七月二十七日の参議院本会議)。それでは、具体的にどのような国が機雷を敷設する可能性があるのか。イランが同意しない中で陸上から攻撃されやすいホルムズ海峡に機雷を敷設する能力がある国があるのか。

七 後藤祐一衆議院議員が「現行法で、遺棄機雷とみなして、事実上の停戦が行われた後機雷除去をするというのは、これは憲法違反に必ず当たってしまうんですか」と質問したことに対して、横畠内閣法制局長官は、「遺棄機雷であるという認定が正当であるならば、それは憲法上の問題にはならないと思います。」と答弁している(六月二十九日の衆特委)。この場合、遺棄機雷であるという認定は誰が行い、どのような場合が正当な認定であると考えて答弁しているのか。

八 イラン以外の国がホルムズ海峡において機雷を敷設した場合、事実上の停戦状態でイランやオマーンの了解があること等を条件として、現行法の枠組み(自衛隊法第八十四条の二)で対応することが可能ではないか。対応できない場合その根拠を示されたい。また、現行法で不可能である場合でも、限定的な集団的自衛権の行使ではなく、自衛隊法第八十四条の二の改正で対応することはできないのか、政府の認識を示されたい。

九 湾岸戦争においては、派遣の閣議決定から自衛隊の掃海艇がドバイに到着するまで一か月以上を要したとされるが、事実上の停戦段階で遺棄機雷の掃海を認める現行法によって、前広な準備開始を指示すれば、早い段階で機雷設置現場に到達できる。同場所付近で正式な停戦を待って、即座に遺棄機雷の掃海を行う方が敷設機雷の掃海を行うより早期に機雷掃海活動に入ることができるのではないかと考えるが、集団的自衛権の行使として敷設機雷の掃海を行う代わりに、右対処方法を取ることも想定されるか、政府の見解を示されたい。

十 横畠内閣法制局長官は、海外派兵は一般的に自衛権の必要最小限度を超えるもので憲法上許されないことが前提で、その上で、今般想定している機雷の掃海は事実上の戦闘が終了した状況で民間の船舶の安全性を確保するためのものであり、武力行使に当たる場合であっても人の殺傷を行うものではなく物の破壊にとどまり、実質的に危険物処理に相当する行為である旨、敷設された機雷を放置すれば国民の生死に関わる深刻重大な被害が生じる危険が明らかであること等を考えると、機雷の掃海は第二要件と第三要件を満たす可能性がある旨答弁している(七月三日の衆特委)。「武力行使に当たる場合であっても人の殺傷を行うものではなく物の破壊にとどまり、実質的に危険物処理に相当する行為」であれば、法文上は石油を運ぶタンクローリーが通行する陸路に設置された地雷も除去できることになるのではないか。

十一 ホルムズ海峡における自衛隊の機雷掃海について、他国の掃海艇による掃海活動は新三要件の第二要件の考慮事項かどうかとの質疑に対して、岸田外務大臣は「我が国が機雷の掃海において高い技術、実績を持っていることを考えたならば、我が国は他国の掃海とともに掃海を行う、こうしたことは当然考えられる」と答弁しているが(七月八日の衆特委)、技術力と新三要件にはどのような関係性があるのか。

十二 ホルムズ海峡における敷設機雷の掃海について、陸上からの距離が短く、陸上から攻撃される可能性が高いホルムズ海峡での機雷掃海の危険性をどのように想定しているか。

十三 ホルムズ海峡における敷設機雷の掃海は、参議院の「自衛隊の海外出動を為さざることに関する決議」(昭和二十九年六月二日)に反するのではないか、政府の見解を示されたい。

  右質問する。