第189回国会(常会)
質問第二三四号 子ども・被災者支援法の基本方針改定に関する質問主意書 右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。 平成二十七年八月十日 福島 みずほ
参議院議長 山崎 正昭 殿 子ども・被災者支援法の基本方針改定に関する質問主意書 去る七月七日、復興庁は、「被災者生活支援等施策の推進に関する基本的な方針(改定案)」(以下「本件改定案」という。)を示している。しかし、福島県内外はもとより、東京電力株式会社福島第一原子力発電所事故(以下「本件原発事故」という。)によって放射性物質が降下沈着した幅広い地域の住民が、この改定に際して、不安と反対の声をあげている。 そこで、本件改定案の内容について以下質問する。 一 本件原発事故で被害を受けた「被災者」の定義と人数を示されたい。 二 本件改定案には、「空間放射線量等からは、避難指示区域以外の地域から避難する状況にはなく、支援対象地域は縮小又は撤廃することが適当であると考えられる」と記載されている。 1 「避難する状況にはなく」と結論づけた基準の放射線量を示されたい。 2 「避難する状況にはなく」としているが、これは自主的避難に対する支援を行う必要がないという意味か。 3 東京電力原子力事故により被災した子どもをはじめとする住民等の生活を守り支えるための被災者の生活支援等に関する施策の推進に関する法律(以下「子ども・被災者支援法」という。)第二条第二項では、「被災者生活支援等施策は、被災者一人一人が第八条第一項の支援対象地域における居住、他の地域への移動及び移動前の地域への帰還についての選択を自らの意思によって行うことができるよう、被災者がそのいずれを選択した場合であっても適切に支援するものでなければならない」としている。 本件改定案における、「避難する状況にはなく」という文言は、子ども・被災者支援法の趣旨に反するため、「避難する状況にはなく」は削除するべきだと考えるが、いかがか。 4 放射線量の影響を考える場合、積算線量も考慮すべきであるが、現在の「支援対象地域」の積算線量の評価を行っているか。 三 本件改定案には、原子力規制委員会が平成二十五年にまとめた「帰還に向けた安全・安心対策に関する基本的考え方(線量水準に応じた防護措置の具体化のために)」の引用として、「国際放射線防護委員会(ICRP)は、緊急事態後の長期被ばく状況を含む状況(以下、「現存被ばく状況」という。)において、汚染地域内に居住する人々の防護の最適化を計画するための参考レベル(中略)は、長期的な目標として、年間1~20ミリシーベルトの線量域の下方部分から選択すべきである」と記載されている。しかし、国際放射線防護委員会(ICRP)の勧告には、このような記載はなく、長期目標はあくまでも「被ばくを「通常」と考えられるレベルに近いかあるいは同等のレベルまで引き下げること」(ICRP,2007,288項)とし、参考レベルの代表的な値は年一ミリシーベルトであり、「状況を徐々に改善するために中間的な参考レベルを採用してもよい」(ICRPPubl111,50項)と記載されている。本件改定案における記載を修正すべきだと考えるが、いかがか。 四 本件原発事故から既に四年以上経過しているが、前記三のICRPの勧告にある、現存被ばく状況における参考レベルは設定されていない。政府の復興指針に基づけば、長期的な目標である年間一ミリシーベルトを達成するのに、三十年から四十年以上必要とされている。参考レベルの設定は行わないのか。また、その判断をする責任者は誰か。 五 平成二十五年度に策定された被災者生活支援等施策の推進に関する基本的な方針において、支援対象地域について、「福島県中通り及び浜通りの市町村(避難指示区域等を除く)とする」としたが、原子力損害賠償紛争解決センターの仲裁では、宮城県丸森町筆甫地区が、福島県内と同等な汚染や状況にあるとして、「自主的避難等対象区域」と同等の賠償を認められたほか、除染についても、平成二十六年六月、環境省が、福島県に隣接する宮城県の白石市と丸森町、栃木県の那須塩原市と那須町の二市二町に対し、除染費用に関する国の財政支援を拡大すると発表している。こうしたことを勘案しても、支援対象地域を福島県に限定する合理性は極めて薄く、福島県以外に広げるべきものと考えるが、いかがか。 六 子ども・被災者支援法では、支援対象地域を「その地域における放射線量が政府による避難に係る指示が行われるべき基準を下回っているが一定の基準以上である地域をいう」としている。「一定の基準」を改めて明確にすべきだと考えるが、いかがか。 七 本件改定案では、「現在の支援対象地域内の空間放射線量は、(中略)原発事故発生時と比べ、大幅に低減しており、生活圏として既に年間1~20ミリシーベルトの線量域の下方部分にあり」としている。これを本件原発事故前の放射線量と比べた場合、どの程度増加している状況か示されたい。 八 本件改定案と同時に復興庁が提示した参考資料に示された線量マップは、平成二十三年と二十六年の航空機モニタリングの線量に〇・八五をかけた数値を地図化している。〇・八五は、〇歳児から三歳児までを想定する実効線量への変換係数とされているが、そもそも、個人差があるという前提で計測すべき実効線量を地図上で表示することは適切ではない。実効線量を地図上に表記することが可能だとする国際的、科学的知見があれば、示されたい。 九 電離放射線障害防止規則等で放射線管理区域に定められている一平方メートル当たり四万ベクレル以上の地域に子どもが生活することは問題であると考えるが、いかがか。 十 東日本各県の土壌汚染の最新のデータを示されたい。 十一 子ども・被災者支援法第五条第二項に照らせば、「被災者生活支援等施策に関する基本的な事項(被災者生活支援等施策の推進に関し必要な計画に関する事項を含む)」が示されない基本方針は適切ではないと考える。本件改定案に具体的な施策を含めない理由を示されたい。 十二 本件改定案には、環境省が平成二十六年十二月に公表した「東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う住民の健康管理のあり方に関する専門家会議」の中間とりまとめ(以下「専門家会議中間とりまとめ」という。)を引用し、「今般の原発事故による放射線被ばく線量に鑑みて福島県及び福島近隣県においてがんの罹患率に統計的有意差をもって変化が検出できる可能性は低いと考える」と記載している。しかし、去る五月十八日に福島県で開催された第十九回「県民健康調査」検討委員会において、福島県民健康調査検討委員会甲状腺検査評価部会が「わが国の地域がん登録で把握されている甲状腺がんの罹患統計などから推定される有病数に比べて数十倍のオーダーで多い。」とする甲状腺検査に関する中間とりまとめを報告している。同中間とりまとめでは、その理由として、「被ばくによる過剰発生か過剰診断(生命予後を脅かしたり症状をもたらしたりしないようながんの診断)のいずれかが考えられ」るとしている。同様の分析は、厚生労働科学研究費補助金・食品の安全確保推進研究事業「食品安全行政における政策立案と政策評価手法等に関する研究」にも記載されている。専門家会議中間とりまとめの時点とは、既に状況が変わっている。甲状腺がんの多発が確認された以上、福島県外での健診も実施すべきだと考えるが、いかがか。 十三 福島県は、平成二十八年度で、自主的避難者に対して災害救助法に基づく住宅支援を打ち切るとした。本件改定案においては、定住支援に重点を置きつつ、地方創生分野の取組等を活用するとしているが、新たな定住支援策は具体的に示されていない。自主的避難者から「住まいを失っては生活再建どころではない」、「いのち綱を切るようなもの」という多くの悲痛な声がよせられている。自主的避難者をこのような状況に置くことは、被災者が「支援対象地域における居住、他の地域への移動及び異動前の地域への帰還」のいずれの選択を行った場合でも国が適切な支援を行うとした子ども・被災者支援法の趣旨に反するのではないか。新たな支援策を具体的に示されたい。 右質問する。 |