質問主意書

第189回国会(常会)

質問主意書


質問第一一六号

外国人家事労働者の受入れに関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十七年四月二十一日

福島 みずほ   


       参議院議長 山崎 正昭 殿



   外国人家事労働者の受入れに関する質問主意書

 国家戦略特区(以下「特区」という。)内における家事支援人材を受け入れるための国家戦略特別区域法及び構造改革特別区域法の一部を改正する法律案が今国会に再度提出されている。また、介護分野での人手不足解消のためとして、経済連携協定(EPA)による受入れ以外に、技能実習制度を介護分野に拡大する政府の方針や、在留資格「介護」の創設を含む出入国管理及び難民認定法の一部を改正する法律案も出されている。外国人労働者の権利保障には従前から様々な問題が指摘されているところ、特に個々の家庭において家事・介護等に従事する労働者の権利保護には特別の注意が必要であることが国際的に指摘されているため、以下質問する。

一 EPAによる看護師、介護福祉士候補生受入れに当たっては、公益社団法人国際厚生事業団(JICWELS)が病院や介護施設に対して候補者を斡旋する唯一の受入れ調整機関となっている。これにより候補者の資格や資質、受入れ機関としての適格性が一定の基準に基づいて統御できているが、特区で受け入れる「外国人家事支援人材」の場合には、どこが、どのような基準に基づいて受入れ調整を行うのか。雇用者となる「家事支援サービス企業」の適格性や「外国人家事支援人材」の資格や資質についてはどのように統御することを想定しているのか、政府の方針を示されたい。現在、関西圏と東京圏の二都市圏で受入れが予定されていると聞くが、受入れ調整機関は特区ごとに定められるのか、それとも統一されるのか。

二 「外国人家事支援人材」は労働基準法(以下「労基法」という。)の適用が除外される「家事使用人」には当たらず、家事支援サービス企業に雇用され、その指揮命令を受けて複数の家庭を訪問する「家事労働者」であるため労基法が適用されると考えられるが、その理解でよいか。また、この場合に「外国人家事支援人材」が行う職務の具体的な範囲を、例示を含めて明らかにされたい。
 さらに、「外国人家事支援人材」は、労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(以下「労働者派遣法」という。)に基づき「家事支援サービス企業」によって個々の家庭へ派遣される形態をとるのか、それとも労働者派遣の形態をとらず、個々の家庭から業務を請け負った「家事支援サービス企業」の指揮命令の下で外国人労働者が個々の家庭においてサービスを提供するのか明らかにされたい。
 前者の場合、これまでなかった派遣労働分野を特区に創出させることになるが、そもそも家庭によって千差万別な家事労働が労働者派遣になじむのか、政府の見解を明らかにされたい。派遣受入れ期間制限抵触日の派遣元への通知や、一定期間受け入れた労働者への直接雇用の努力義務等の措置を講ずる必要について、どのように個々の家庭に周知徹底するのか。
 後者の場合、業務を委託した個々の家庭が外国人労働者に対して直接的に指揮命令を行えば違法な偽装派遣となる。そうしたことが起きないよう、企業、労働者及びサービスを受ける個々の家庭に対し、どのように周知徹底を行う予定か示されたい。加えて、違法行為の疑いがある場合、個々の家庭に対しどのように調査・指導等を行う予定か示されたい。

三 特区の制度設計の根幹が規制緩和にあるためか、新聞報道によれば、受入れコストによる価格上昇を抑制したいと、「家事支援サービス企業」の業界団体が最低賃金以下での労働者雇用を求めているという。「家事支援人材」が「家事支援サービス企業」に雇用される労働者であれば全ての労働関係法規が適用されることになるはずである。特区において、企業に対する監督はどのように行うのか。また、労働関係法規違反行為が確認された企業に対しては、どのような制裁を行うのか。

四 国家戦略特別区域法及び構造改革特別区域法の一部を改正する法律案では、「外国人家事支援人材」の受入れに当たっては、特定機関が講ずべき措置に関する指針を作成することが規定されている。香港やシンガポールなど、海外の諸事例をみても、この指針策定は、労働関係法規違反、人身取引、人権侵害などの諸問題を未然に防ぐために極めて重要である。指針の策定過程には労働団体・人権団体など、労働者の利害を代表する団体の参加が必須と考えるが、その予定はあるか示されたい。

五 在留資格「介護」で受け入れる外国人介護福祉士については、施設だけでなく訪問系サービスでの就労も想定しているのか。その場合、訪問先の個々の家庭内における不当な取扱いについてはどのような防止策を考えているのか。また、同一職種内での転職の自由についても保障されるのか。

六 制度の仕組みや労働者としての基本的権利、相談窓口等について、家事・介護を行う外国人労働者に対してどのように周知徹底を行う予定か示されたい。渡航前あるいは入国時に外国人労働者へのガイダンスを行う予定はあるのか。また、相談窓口への自由なアクセスの保障及び相談したことによる不利益扱いの防止については、どのような対策を考えているのか。加えて、外国人労働者本人やNGOから違反行為の疑いが指摘された場合、相談窓口は具体的にどのような対応を行うのか。

七 外国人技能実習生制度では、送り出し国において実習生が渡航費用等のコストを借金として負わされたり、保証金徴収や違約金契約を強いられたりするケースが多発しており、深刻な人権侵害を招いているにもかかわらず、日本側の監視機関の対応が不十分であることが指摘されている。家事・介護労働者の受入れに当たり、渡航費用や帰国費用、日本語研修費用が本人の借金とされることのないよう雇用主負担を明確にルール化すべきと考えるが、政府の方針を明らかにされたい。また、送り出し国における労働者へのコスト転嫁に対し、どのような防止策を採る予定か示されたい。

八 個々の家庭において就労する家事労働者は人権侵害にさらされやすいことから、ILOでは家事労働者に適切な労働基準を保障するため家事労働者条約(第百八十九号。以下「本条約」という。)及び家事労働者勧告を二〇一一年に採択している。現在、日本の労基法は「家事使用人」を適用除外としているが、外国人労働者を受け入れるに当たり、本条約を批准し関連国内法を整備する必要がある。特に、労基法における「家事使用人」の除外規定及び労働者派遣法第四十四条第一項における「家事使用人」の除外規定の見直しは必須であると思われるが、その予定はあるか示されたい。
 国連人種差別撤廃委員会は二〇一四年八月の総括所見において、本条約を批准するよう日本政府に勧告しているが、どのように受け止めているのか政府の見解を明らかにされたい。たとえ批准しなくとも、本条約は国際基準として参照すべきであると考えられる。例えば、本条約の示すチェックポイントなどを参照して制度整備を行う予定はないのか政府の方針を示されたい。また、外国人労働者の出身国が本条約を批准している場合には、本条約に沿って労働者の権利保障に向けた政府間調整がなされるべきと考えるが、いかがか。

  右質問する。