質問主意書

第189回国会(常会)

質問主意書


質問第五四号

六ヶ所・東海両再処理工場の重大事故防止と核燃料施設の新規制基準適合性審査の強化等に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十七年三月二日

川田 龍平   


       参議院議長 山崎 正昭 殿



   六ヶ所・東海両再処理工場の重大事故防止と核燃料施設の新規制基準適合性審査の強化等に関する質問主意書

 昨秋、独立行政法人日本原子力研究開発機構(以下「原子力機構」という。)は東海再処理施設の廃止を決定したと報道されている。一方、日本原燃株式会社(以下「日本原燃」という。)六ヶ所再処理工場(以下「六ヶ所再処理工場」という。)は稼働に向けて核燃料施設の新規制基準適合性に係る審査を受けているところである。
 六ヶ所再処理工場及び東海再処理施設(以下「両再処理工場」という。)には原子力発電所(以下「原発」という。)とは比較にならない大量の放射性物質が、高レベル放射性廃液(原子力機構では「高放射性廃液」と呼称し、日本原燃では「高レベル廃液」と呼称するが、同じ定義である。)や使用済み核燃料として冷却貯蔵されている。六ヶ所再処理工場が貯蔵する高レベル放射性廃液二百二立方メートル及び東海再処理施設の高レベル放射性廃液三百九十四立方メートルに含まれるセシウム137は、東京電力株式会社福島第一原発(以下「福島第一原発」という。)から大気中へ放出されたセシウム137の量のそれぞれ約三十五倍及び約七十九倍に相当する。廃液にはこれ以外のストロンチウム90、超ウラン元素等の核種も多量に含まれている。また、現在六ヶ所再処理工場の使用済み燃料プールには、福島第一原発四号機のプールから搬出された千三百三十一体(二百四十トン)の使用済み核燃料の約十二倍に相当する約三千トンの使用済み核燃料が貯蔵されている。
 両再処理工場において重大事故が起こると、国内は壊滅的な放射線被害を受け、立ち直りが困難となるばかりでなく、世界的にも広範囲の汚染を引き起こし、我が国は世界中の信頼を完全に失ってしまうのではないかと危惧している。
 原子力規制委員会は二〇一二年九月、「国民の安全を最優先に、原子力に対する確かな規制を通じて人と環境を守る」使命の下、独立した意思決定機関として環境省の外局に設置された。同委員会はこの設立主旨の精神に則り、重大事故を引き起こす可能性のあるあらゆる要因をチェックし、絶対に重大事故を起こさないように厳正かつ厳重な審査を行い国民の信頼に応える責任と義務がある。そのため原子力推進機関からは完全に独立し、人と環境を守るため組織の総力を上げて二度と悲惨な原子力事故を起こさせない覚悟の下、自らの業務に取り組むべきと考える。
 田中俊一原子力規制委員会委員長は「世界一厳しい規制基準」で審査していると述べている。しかし、国民はそのことよりも、絶対に大事故を起こさせないこと、この愛すべき美しい国土に末永く住み、子々孫々命をつなぎ続けることを願っている。この素朴な願いに国は良心と勇気を奮い立たせ、応えるべきである。右の趣旨により、以下質問する。

一 再処理工場の重大事故防止と新規制基準適合性審査の強化について

1 西ドイツ政府は一九七六年、建設予定であった再処理工場の重大事故時における放射性物質の拡散シミュレーション(国又は地方自治体が、地域防災計画を策定する際、防災対策を重点的に充実するべき地域を決定する参考となる情報を得るために、原発事故により放出される放射性物質の量、放出継続時間などを仮定し、周辺地域における放射性物質の拡散の仕方を推定するもの。以下「シミュレーション」という。)を実施し、「高レベル廃液貯槽の冷却が完全停止すると最終的死亡者数は西ドイツ全人口の半分の三千万人に上る可能性がある」とした。また、二〇〇九年にノルウェー政府は英国セラフィールド再処理工場のシミュレーションを行い、英国に高レベル放射性廃液を早期に固化するよう要請している。
 実際、一九五七年に旧ソ連キシュテムにおいて国際原子力事象評価尺度INESレベル6とみなされる高レベル放射性廃液貯槽の爆発が起こり、広範囲に渡りストロンチウム90等の放射性物質で汚染された。国として、両再処理工場の高レベル放射性廃液の冷却喪失による放射性廃棄物の環境放出といった重大事故のシミュレーションをなぜ実施しないのか、その理由を示されたい。シミュレーションなしには避難計画も公衆防護もできないのではないか。本年一月三十日に私が主催した市民との意見交換会の席上、政府としては行っていないが、事業者が行っている旨の発言が政府からあったが、放射性物質の汚染マップを含むシミュレーションが本当になされているのか。なされているならばその情報を広く一般に公開すべきではないか、政府の見解を明らかにされたい。
2 六ヶ所再処理工場は全長千三百キロメートルものパイプラインが巡り、その中を放射性物質や有機溶剤が流れている化学工場である。大地震等でパイプやポンプの継ぎ目から微小な漏洩が各施設で同時多発し大事故に発展する可能性が想定される。冷却系統、掃気系統、有機溶剤系統等、大地震等により破損しやすいパイプの継ぎ目、ポンプ・貯水槽の要注意箇所の点検並びに各種メータの誤作動、バルブ開閉の誤操作、腐食等の防止はどのようになされているのか、示されたい。もんじゅのような多数の点検漏れ防止対策は十分になされているのか、厳重な監視と指導が必要ではないか、政府の見解を明らかにされたい。
3 八甲田山の山体膨張が観察されている。もし十和田火山群の爆発により火砕流が発生し六ヶ所再処理工場に到達した場合(過去に現所在地に二度到達していると聞いている)、高レベル放射性廃液や使用済み核燃料プールの冷却についてどう対応する計画か、示されたい。
4 東海再処理施設の敷地は標高わずか約六メートルである。もし現在同施設に福島第一原発を襲った規模の津波が到来したら同施設に貯蔵してある高レベル放射性廃液約四百立方メートルはどうなってしまうのか。冷却喪失による廃液の沸騰・乾固、放射線分解水素や析出硝酸塩爆発という事態を免れるための対策が行われているのか、示されたい。
5 東海再処理施設で重大事故が起こると、首都圏が壊滅状態になってしまうのではないか。絶対に重大事故が起きないようになっていると強弁するならば、その根拠も含め政府の見解を示されたい。
6 世界の再処理工場で過去に起きた事故として、有機溶媒の発火、リン酸トリブチル硝酸ウラン錯体の熱分解爆発、冷却系の故障による有機混合物の爆発、硝酸ヒドロキシルアミンの熱分解爆発、電源系の火災、アスファルトと硝酸塩による火災、高レベル放射性廃液の漏洩等が挙げられる。いずれも地震起因のものではない。我が国は地震大国であり、大地震が起こると、この全ての事故が工場内の各施設で一斉に起こることが考えられる。このような同時多発事故への備えはどうなっているのか、示されたい。また、多様な同時多発事故への対応を求める審査基準を定めることを検討すべきではないか、政府の見解を示されたい。
7 両再処理工場において、様々な手段を講じても高レベル放射性廃液の沸騰や爆発を止める見込みがなくなった場合、被害を最小限にするための最後の手段としての方策はあるのか。欧州の原発ではコアキャッチャーが設置されメルトスルーに備えていると聞いている。このような最後の手段を核燃料施設の新規制基準に規定し、この基準を満たさない限り六ヶ所再処理工場の本格稼働は認めるべきではないと考えるが、政府の見解を示されたい。
8 二〇〇八年五月二十五日の東奥日報によれば、東洋大学の渡辺満久教授が六ヶ所再処理工場直下に活断層が存在し、下北沖海底を走る大陸棚外縁断層と連動すると最大でマグニチュード八の地震が起きる可能性を指摘する研究をまとめている。このことについて政府は承知しているか。
9 一九六八年の十勝沖地震(マグニチュード七・九)では、むつ市役所や三沢商業高校が倒壊し、七年前の岩手・宮城内陸大地震では世界最大加速度四千二十二ガルを示し、震源地周辺は大規模な地滑りにより道路が大きく崩れ跡形もなくなった。六ヶ所再処理工場でこのタイプの地震が起きないと断言できるのか。日本原燃が昨年一月七日に原子力規制委員会へ提出した「再処理事業所再処理事業変更許可申請書」によると、設計用想定地震海洋プレート内地震はマグニチュード七・二、内陸地殻内地震はマグニチュード六・八、基準地震動は六百ガルとして申請しているが、前述の現実に起こった地震と比べて過小評価ではないか。地すべりも含め、過去最大地震以上の設計用地震動等の基準を設定すべきではないかと考えるが、政府の見解を示されたい。
10 原子力設計基準事故による影響が及ぶ範囲について、現在、再処理工場では緊急時計画区域(EPZ)は半径五キロメートルになっているが、これは六ヶ所再処理工場の内蔵放射性物質量から考えると、あまりに狭い範囲と思われる。少なくとも原発の緊急時防護措置区域(UPZ)半径三十キロメートルよりも広範囲でなければ納得できない。最大規模の重大事故の評価を行い、現実的なUPZ範囲を定めるべきではないか。両再処理工場とも隣の道県への影響をも含む防災計画が必要と思われるが、政府の見解を示されたい。

二 国民と国土を守る覚悟について

1 原子力関連企業等との間で金銭の授受があった田中知委員が原子力規制委員会の委員候補者として選定されたことは原子力規制委員会設置法第七条に抵触するのではないか。田中委員は、日本原燃と三菱FRBシステムズから昨年六月まで報酬を受け取っていたことが報道で明らかになっている。また、他の原発メーカーや電力会社から奨学金を受け取っているが、これらのことについて本人の自己申告書には全てが記載されていない。これは事実を隠蔽した虚偽の申告に当たるのではないかと思われるが、政府の見解を示されたい。
2 前記二の1に関して、このような委員選定がまかり通ることは第二の原子力事故に結びつくものと危惧される。現在の自己申告基準の金銭授受について額に関係なく細大漏らさず記載することを義務付けるよう見直すべきであるが、政府の見解を示されたい。また、自己申告書提出の根拠法を示されたい。
3 米国原子力規制委員会(NRC)ホームページの見出しの下には「PROTECTING PEOPLE and the ENVIRONMENT」と明瞭に機関の目的が記載されている。我が国の原子力規制委員会においても、このように本来の目的をホームページ冒頭に記載することは国民に信頼感を与え、個々の決定や行為の指導理念として重要な意味を持つと考えるが、政府の見解を示されたい。
4 両再処理工場には原発をはるかに上回る大量の放射性物質が貯蔵されている。一旦事故が起これば、その被害は福島第一原発事故の比ではない。国は原発より複雑な核燃料を扱う化学工場である両再処理工場で絶対に大事故を起こさないと約束できるのか、明らかにされたい。それができないならば、再処理から撤退するべきである。そうしなければ設計想定を超える重大事故が起こり世界中に甚大な迷惑をかけ、この国が滅びることを深く危惧するところである。
 国土を汚染させ、人々をこの上ない不幸に導く原子力重大事故を決して起こさないよう、総理大臣及び原子力規制委員会委員長の、国民と美しい国土を守る覚悟を示されたい。

  右質問する。