質問主意書

第189回国会(常会)

質問主意書


質問第五三号

福島第一原発の十一万倍ものトリチウムが六ヶ所再処理工場から海洋へ放出されたことに関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十七年三月二日

川田 龍平   


       参議院議長 山崎 正昭 殿



   福島第一原発の十一万倍ものトリチウムが六ヶ所再処理工場から海洋へ放出されたことに関する質問主意書

 原子力施設からの海洋等への放出排水について、原子力発電所(以下「原発」という。)にはトリチウム等放射性物質の濃度規制があるが、日本原燃株式会社(以下「日本原燃」という。)六ヶ所再処理工場(以下「六ヶ所再処理工場」という。)には同様の規制がなく、全量が高濃度のまま野放しで放出されている。このような放出が許されるならば下北、三陸の海の海産物にトリチウムが取り込まれ、天恵の海産物資源に恵まれ生かされてきた国民そして漁業者の生活に大打撃を与えるものと憂慮される。
 また、このような行為は環境基本法の目的や理念、国際的な地球環境保全などあらゆる観点から容認できないものである。現在、核燃料施設等の新規制基準適合性に係る審査が行われているところであるが、環境基本法に立脚し以下質問する。

一 東京電力株式会社(以下「東電」という。)福島第一原発事故(以下「福島第一原発事故」という。)に伴う地下水バイパスによる排水について、東電は福島県漁業協同組合連合会との協定(以下「東電放出協定」という。)によりトリチウム濃度の上限を千五百ベクレル毎リットルとする海洋放出の了解を得ている。一方、六ヶ所再処理工場からはアクティブ試験において、一億七千万ベクレル毎リットルの濃度のトリチウムを含む排水を、二〇〇七年十月二日には五百八十五立方メートル、同年十一月十七日には五百八十六立方メートル海洋へ放出した。この値は東電放出協定の値の約十一万倍に相当する。この認識に間違いがないか、政府の見解を示されたい。

二 日本原燃の再処理事業所再処理事業指定申請書によると六ヶ所再処理工場から海洋へのトリチウムの放出量(管理目標値)は年に一京八千兆(1.8×1016)ベクレルになっている。排水は、六百立方メートルのタンクが満杯になると沖合三キロメートル、水深四十四メートルの放出口から海洋へ放出されることになっている。本格稼働すると年八百トンの使用済み核燃料の処理が行われ、その際二日に一度タンクから排水が海洋放出されると推定されている。これらのことから推算すると、放出水中のトリチウム濃度は約一億六千万ベクレル毎リットルになるのではないか。これは原発からの放射性物資の放出濃度に係る規制値(六万ベクレル毎リットル)の約二千七百倍に相当する。この計算に間違いがないか、政府の見解を示されたい。

三 同じ国の同じ海域へのトリチウム放出であるにもかかわらず、六ヶ所再処理工場への濃度規制が野放しにされている理由を示されたい。本年一月三十日に私が主催した市民との意見交換会(以下「意見交換会」という。)の席上、政府からは「再処理工場が扱う放射性核種が多様であるから」との回答があったが、原発など原子炉等規制法該当施設では、「実用発電用原子炉の設置、運転等に関する規則の規定に基づく線量限度等を定める告示」(以下「本件告示」という。)により千種以上の核種について「周辺監視区域外の水中の濃度限度」が定められている。この濃度限度を適用させ多様な核種を監視することに何ら不都合はないのではないか。本件告示は環境や人々を守るための最低限の規制ではないか、政府の見解を示されたい。

四 前記三に関連し、意見交換会では「周辺監視区域外の住民の被ばく線量が年に一ミリシーベルト以下であり法的に問題なし」との回答であったが、沖合三キロメートル、水深四十四メートルから海洋に排水を放出することは、法的に何ら問題がないと考えているのか。我が国の誇る貴重な海洋環境、海洋生態系、養殖物などの海産物はどうなってもよいのか。このような野放しの放出を認めることは、環境基本法の目的や理念に反するものではないのか、政府の見解を示されたい。

五 福島第一原発事故を経験した今、放射性物質の環境基準を定め放射性物質の放出濃度規制基準を定めるべきではないか、政府の見解を示されたい。

六 六ヶ所再処理工場が本格稼働すれば、一日おきにこの極端に高濃度のトリチウム汚染水が海洋へ放出されることが想定される。これでは世界三大漁場の一つに数えられる海が死んでしまう。環境アセスメントをなぜ行わないのか、これから行う予定はないのか、政府の見解を示されたい。

七 かけがえのない海を放射能汚染から守るため、六ヶ所再処理工場からの放出排水の濃度規制を暫定的に少なくとも原発並に改め、指導を強化するのが当然ではないか、政府の見解を示されたい。

八 東電放出協定同様に、放出排水の海洋流の下流で操業している下北・三陸沿岸漁業者の意見を聴取し、放出濃度に係る協定を締結するべきではないか、政府の見解を示されたい。

  右質問する。