質問主意書

第187回国会(臨時会)

質問主意書


質問第八四号

国際連合安全保障理事会決議第千二百六十七号等を踏まえ我が国が実施する国際テロリストの財産の凍結等に関する特別措置法案とテロリスト対策の強化に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十六年十一月十八日

山本 太郎   


       参議院議長 山崎 正昭 殿



   国際連合安全保障理事会決議第千二百六十七号等を踏まえ我が国が実施する国際テロリストの財産の凍結等に関する特別措置法案とテロリスト対策の強化に関する質問主意書

 現在、東京五輪開催に向けてテロ対策が進行中であり、国際的組織犯罪防止条約や国際連合安全保障理事会(以下「国連安保理」という。)決議、金融活動作業部会(以下「FATF」という。)勧告などと関連し、立法作業も進行している。それらは市民の自由と人権の行方に大きく関わっているが、明らかでない事柄も多く、重大な懸念を寄せざるを得ない。よって以下質問する。

一 立法事実について

1 国際連合安全保障理事会決議第千二百六十七号等を踏まえ我が国が実施する国際テロリストの財産の凍結等に関する特別措置法案(以下「新法」という。)の国内的な立法事実を具体的に示されたい。
 また、我が国は、これまで外国為替及び外国貿易法(以下「外為法」という。)による規制で十分に対処してきたと考えるが、政府の見解を明らかにされたい。国連安保理決議やテロリズムに対する資金供与の防止に関する国際条約を遵守してきたと考えるが、いかがか。加えて、新法の立案に際し国連安保理や米国政府などから何か要望があったのか。さらに、本年五月の日英共同声明にFATF勧告の履行が謳われたが、いかなる経緯で盛り込まれたのか。明らかにされたい。
2 国連安保理決議やFATF勧告を全面的に履行しているはずの米国や英国で大規模なテロが発生している。我が国はFATF勧告自体の有効性を改めて問い直すべきではないか。
 また、日本政府からFATF会合に財務省、警察庁などが参加しているが、何を主張してきたのか、示されたい。加えて、本年六月二十七日の我が国に対するFATFの声明に至る経緯と、そこにおける我が国の主張を明らかにされたい。
3 二〇〇四年の「テロの未然防止に関する行動計画」(以下「行動計画」という。)はテロの未然防止対策に係る基本方針等に関する法制、テロリスト及びテロ団体の指定制度とテロリスト等の資産凍結の強化を今後の課題としていた。従って、新法は「行動計画」に基づくものであり、FATFの声明は「外圧」を偽装するものではないかとの懸念が消えない。「行動計画」及び「論座」二〇〇三年三月号に掲載された川口順子元外相の「変化する安全保障環境と日本外交」論文におけるテロ新法についての言及とあわせ、関連を明らかにされたい。また、新法に続いて「行動計画」に謳われた「テロの未然防止対策に係る基本方針等に関する法」を制定するのか。もし制定するのであれば現在の検討状況を明らかにされたい。

二 新法の各規定について

1 テロリスト規定(第四条関連)
① 特定秘密の保護に関する法律(以下「秘密保護法」という。)はテロリズムを「政治上その他の主義主張に基づき、国家若しくは他人にこれを強要し、又は社会に不安若しくは恐怖を与える目的で人を殺傷し、又は重要な施設その他の物を破壊するための活動」と規定している。物議をかもした規定振りだが、新法における「公衆等脅迫目的の犯罪行為」は更に範囲が広く定められていないか。なぜ「政治上その他の主義主張に基づき」を削除し、「脅迫する目的」の犯罪行為一般にしているのか。秘密保護法が脅迫対象を「国家」、「他人」、「社会」としているのに比べ(「公衆」、「国」、「地方公共団体」はもとより)「外国政府等」と規定している理由を明らかにされたい。
② 第四条第一項第一号は、仮定法の形を採っているが、なぜか。外為法で規制される者の範囲に限定するためとされているが、どのように限定するのか。また、外為法で規制される者の範囲に限定するとはいかなる意味か、具体的に明らかにされたい。
 FATF声明は「テロリストの国内取引が規制されていない」ことを問題視している。そうであれば、別の法形式がありうると考えるが、新法の検討経過を明らかにされたい。
③ 国家公安委員会作成の「法案概要」では、法案の第四条第一項第二号イ・ロ・ハのうちロが省略されているが、その理由を明らかにされたい。
④ 第四条第一項第二号のイと、ロの関係を明らかにされたい。
⑤ 第四条第一項第二号のロの趣旨について示されたい。同号イの影響力がある自然人・組織=ロは理解しうるが、同号ロの影響力がある自然人・組織とはなにか。テロリストの影響がある限り無限に対象者は拡大するという趣旨か。
⑥ 第四条第一項第二号のハの「この法律に相当する当該国の法令」とは、いかなる基準で誰が判断するのか。また、米国政府は主に大統領令でテロ指定をしているが、大統領令は「この法律に相当する当該国の法令」に該当するのか。該当するとすれば、米国政府はオウム真理教をテロ団体指定していると聞くが、我が国でもテロ団体と指定するのか。また既に暴力団だと思われる日本の個人・団体を米国内の資産凍結の対象としているが、日本政府も当該個人・団体を国際テロリストとして指定するのか。
⑦ 十一月五日の衆議院内閣委員会における質疑で、国家公安委員長が「FATF勧告を踏まえ限定」、「国際テロリストと同列に論じられないので慎重な検討が必要」と答弁したが、「反社会的勢力」は新法の対象になるのか、明らかにされたい。
⑧ 新法ではテロリストを第四条第一項の第一号及び第二号のいずれにも該当する者としている。要件は分かりにくいが、煎じつめれば、「公衆等脅迫目的の犯罪行為を行い、又は助ける明らかなおそれがあると認めるに足りる十分な理由がある」者で、「わが国の平和及び安全の維持のため特別な必要があるとき」は、閣議決定によって(外国為替法)、テロリスト・テロ組織に指定できると理解してよいか。
⑨ 国際テロリストの指定は転向・解散するまで反復更新で無期限にできることになっているが、これは憲法第十九条の思想・良心の自由、第二十一条の集会結社の自由を侵害することにならないか、政府の見解を明らかにされたい。
2 資産凍結(第九条関連)
① 国際テロリストに指定されれば資産の一部が新法第十一条第一項各号のいずれにも該当しないと認められるときは「仮領置」される。銀行口座が凍結され、一切のカードやETCが使えず、ローンも組めず、アパートも借りられなくなる。団体は実質的に解散させられ、個人は生活破たんに追い込まれる。「死なぬよう生きぬよう」にするということである。国が個人や団体の生活・活動領域にここまで干渉・制限しうる根拠は何か。憲法第二十九条の財産権保障に違反しないのか、政府の見解を明らかにされたい。
 第八条に規定する仮指定の要件である「隠匿その他の行為」とは何か。また、仮領置は誰によってどのようになされるのか。
② 周辺の関係者にも資料の提出その他の協力を求めることができ(第十九条)、情報の提供又は指導若しくは助言をする(第二一条)ことで、「知らない間に取引を行った場合は処罰されない」とするが、これ自体が人権侵害を引き起こす恐れはないか。しかも刑罰付きであり、行政刑法の濫用と考えるが、いかがか。また、関係者を事前にどのように特定するのか。仮に、誤った指導若しくは助言であれば誰が責任をとるのか。加えて、テロリストのみならず多くの市民の生活に多大な影響を及ぼすと考えられるが、見解を明らかにされたい。
③ 公告テロリストを相手方として禁じられている行為につき、その行為を約束した後で、相手方が公告された又は指定を受けたために、あるいは仮領置のために損失を受けたときだけが損失補償の対象となり(第二十四条)、公告された若しくは指定を受けた者がこれにより受けた損失につき、全く補償の対象としないのはなぜか。それが憲法第二十九条第三項に反しないとする理由を示されたい。
④ 十一月五日の衆議院内閣委員会における質疑では、第十一条第一項第一号の「生活のために通常必要とされる費用」の額が問題とされたが、その算定根拠あるいは自然人と法人の違いなど、詳細を明らかにされたい。新法は具体的な方策の多くを政令・規則に委ねているが、検討中の政令、国家公安委員会規則の検討状況を明らかにされたい。
⑤ テロ資金・資産の贈与・収集の処罰について、公衆等脅迫目的の犯罪行為のための資金の提供等の処罰に関する法律と新法は重複・競合しないか。また、同じような行為でも、両法では量刑に違いがあるが、その理由を明らかにされたい。
3 手続関連
 新法は、憲法の適正手続原則に反し、閣議や国家公安委員会の判断で簡易・迅速に発動できる仕組みになっていないか。
① 国際テロリストの指定は国家公安委員会の判断で決めることができることになっているが、裁判所の判断あるいは破壊活動防止法の公安審査委員会のような第三者機関の審査手続すら定めない理由を示されたい。
② 外為法は国会の承認を定めている(第十条第二項)。新法では国会への報告義務すらないのはなぜか。
③ 第二十条は、「公安委員会は、(中略)必要であると認めるときは」事務所や私宅への立入り、検査、質問できることになっているが、その手続について明らかにされたい。当該個人・団体の意見聴取をする前に立入り、検査、質問できるのか。
④ 当該個人・団体の意見聴取や弁明の際、国際テロリストの指定の根拠はどのように明らかにされるのか。秘密保護法の対象にならないのか。明らかにされたい。
4 「この法律の廃止」(附則第二条)
 新法は、国連安保理決議が効力を失ったときは「廃止するものとする」としているが、これは国内的に立法事実がないことを端的に示すものと考えるが、いかがか。政府は、国連安保理決議第千三百七十三号廃止を考え各国に働きかけをしているのか。それとも新法は恒久法であることを隠すための規定でしかないのか。
 既に実質的なテロ対策が各所で進み、警察権限が大きく拡大している。国際テロリストに対する盗聴の実施や、共謀罪創設など、今後のテロリズムに係る立法について、FATFで検討している事項、あるいは日本政府の方針を明らかにされたい。

  右質問する。