質問主意書

第187回国会(臨時会)

質問主意書


質問第六三号

リニア中央新幹線工事に伴う環境影響回避策に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十六年十一月十日

福島 みずほ   


       参議院議長 山崎 正昭 殿



   リニア中央新幹線工事に伴う環境影響回避策に関する質問主意書

 二〇一四年十月十七日に国土交通大臣が、東海旅客鉄道株式会社(以下「JR東海」という。)による中央新幹線(品川・名古屋間)の工事実施計画(その一)(以下「リニア計画」という。)について認可した。リニア計画は、同年六月に公表された、中央新幹線(東京都・名古屋市間)に係る環境影響評価書に対する環境大臣意見(以下「環境大臣意見」という。)において、「本事業は、その事業規模の大きさから、本事業の工事及び供用時に生じる環境影響を、最大限、回避、低減するとしても、なお、相当な環境負荷が生じることは否めない」と断言されるほど環境への影響が不可避な事業である。環境の保全について適正な配慮がなされ、将来の国民の健康で文化的な生活の確保に資する必要性を規定した環境影響評価法の目的に照らして、リニア計画には大きな問題がある。それにもかかわらず、国土交通大臣がリニア計画を認可したことは、我が国の環境行政に大きな汚点を残す大問題である。即刻の認可撤回を求めつつ、沿線に居住する住民からの不安の声も大きい、河川の水枯れ、活断層、残土処理、事業の不採算性などの観点から、以下質問する。

一 リニア計画ではこれまで山梨の実験線において実証試験が行われている。この実験線の建設では上野原市秋山等で河川水や、飲用水等の生活用水の水源の枯渇という事象が発生しており、独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構及びJR東海も実験線でのトンネル工事による影響を認めている。実験線でのトンネル工事に際しては、環境影響評価の手続が行われていないと承知しているが、実際の工事に先立って、工事による地下水への影響に関する予測は行われている。それにもかかわらず、なぜこうした事態を予測することができなかったのかとの点につき検証作業は実施されたのか、実施されていた場合には具体的方法を明らかにされたい。

二 前記一に関して実験線で地下水が枯渇することを予測できなかったことを踏まえ、リニア計画の環境影響評価の手続における地下水予測シミュレーションに際して改善された点を明らかにされたい。

三 JR東海が公表した環境影響評価書では、地下水位の予測シミュレーションに、一九八三年に開発されたTOWNBYプログラム(準三次元)を用いたと記載されている。また、資料編に記載されているモデルの計算式も準三次元の計算式である。これを受け、環境大臣意見及び中央新幹線(東京都・名古屋市間)に係る環境影響評価書に対する国土交通大臣意見(以下「国土交通大臣意見」という。)では最新のシミュレーションモデル(三次元)を用いて解析を行うよう指摘されていたが、補正後の環境影響評価書(以下「補正評価書」という。)での記載でもモデル及び計算式は補正されていない。一方、国土交通大臣意見への事業者の見解では、「一般国道四百七十四号三遠南信自動車道青崩峠道路の環境影響評価等に用いられた三次元水収支解析を実施しています」と記載されているが、そのモデルや計算式、入力に用いたパラメーターを示した資料は補正評価書のどこにも記載されていない。国土交通大臣は、補正評価書のどこの部分を確認し、補正されたと認識したのか、示されたい。

四 従来からの見解では避けることは不可能であり、できるだけ短く通過するとした活断層について、その活動性を科学的に評価(トレンチ調査を実施して行う評価)したのか。していないとすればなぜなのか、示されたい。かつて東海道新幹線の路線を決定する際には、丹那断層の活動周期が検討課題となり、当時の科学的知見で、活動周期は千年とされ、最新の活動が一九三〇年であることから当面動かないとの判断がなされた。同様に、リニア計画においても、横切る活断層全てについて、最新の知見による活動周期等の活動性の評価を行う必要が人命を預かる公共交通である鉄道建設としては必須と考えるが、その必要性をどのように考えるか政府の見解を明らかにされたい。

五 リニア計画のルートが横切ることになる活断層が活動した際に、絶対に破壊されない構造物を構築する技術をJR東海が有していると考えているのか、政府の見解を明らかにされたい。

六 南アルプスの隆起量について、JR東海の示した補正評価書では、百万年を超えるスケールでの平均隆起速度は二から四ミリメートル毎年と書かれているが、これは地表の侵食がある場合の数値を採用したものである。リニア計画は地表の侵食の影響を受けない地下をトンネルで通過するので、侵食がない場合の数値、四から六ミリメートル毎年(「日本の地形一 総説」、東京大学出版会 二〇〇一)で影響を評価するべきであるが、侵食量を加味した値を採用した補正評価書を妥当と判断した科学的根拠を示されたい。

七 静岡県域では二軒小屋から畑薙ダムにかけての大井川沿いの六か所と、白根南嶺の奈良田越え付近の標高二千メートル近い稜線直下の一か所に発生土置場が計画されている。これらの発生土置場は災害の要因として大きな問題がある。南アルプスと同じ地質帯である紀伊半島南部では二年前の台風で大規模な深層崩壊が多数発生した。大規模崩壊で生じた崩壊物は対岸を数十メートルも跳ね上がり、多数の天然ダムを生じさせたことは各種報道でも明らかにされている。同じ地質帯である南アルプス地域でも同様の危険が想定される。南アルプス全域はこれまでも一七〇七年の宝永地震では大谷崩れ、一八五四年の安政東海地震では七面山崩壊という大規模崩壊が発生している。この規模の崩壊が発生した場合、JR東海が想定している工学的な対処では防ぐことができないのは、過去の多くの災害の経験から自明であるが、各種問題を抱える残土処理問題を問題なしとして認可した根拠を示されたい。

八 大深度地下や山岳部の地下の土砂には、これまでの科学的知見でも不明な微生物や鉱物を含む可能性が高い。こうした残土を生物地理学的な区域を越えて移動させることは、新たな外来種問題や公害を発生させる危険が高いと考えられる。リニア計画は、そのほとんどが地下構造であり、地上部においては橋梁を建設するという計画であることから、生物地理学的な区域を越えずに残土を処理することは不可能であると考えられる。しかし、同計画が認可されたということは、こうした問題を解決できるめどがあると判断したと理解してよいか。そうであるならば、解決方法を具体的に示されたい。

九 リニア計画については、事業単体では赤字であるとJR東海自身が認めているところである。全国新幹線鉄道整備法(以下「全幹法」という。)に基づく本事業が一民間企業の事業として、赤字での運営になるということは法の理念に反するのではないか、政府の見解を明らかにされたい。

十 国土交通省の中央新幹線小委員会では、事業予測を実施した際に、利用者数が横ばいという厳しい予測条件のもと、事業として成立すると判断したとしているが、この予測が行われた後、国立社会保障・人口問題研究所から将来の我が国の人口が減少するという新たな人口予測が発表された。この新たな人口予測を反映した再度の事業予測を実施したのか、明らかにされたい。

十一 仮にJR東海が一民間企業としてリニア計画を遂行できなくなった場合、全幹法に基づく本事業はどこが引き継ぐことになるのか。その際に、現時点では国家予算を投入する可能性はないと国土交通省は明言しているが、政府として同様の認識であるのか明らかにされたい。

十二 超伝導リニア方式に不可欠なヘリウムの供給について、二〇二一年九月までに民間企業向けの払出しは終了するとされているが、リニア計画において安定的な供給は確保されているのか。また、資源量減少の際に生じる価格の高騰については事業予測を実施した際に考慮されたのか。

十三 全幹法に基づく鉄道事業は国及びそれに準ずる機関が建設を行うのが基本であるが、リニア計画の建設から運用に至るまで一民間企業が実施することと全幹法との整合性について、政府の見解を明らかにされたい。

  右質問する。