質問主意書

第187回国会(臨時会)

質問主意書


質問第二七号

安倍内閣の基本姿勢に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十六年十月十六日

吉田 忠智   


       参議院議長 山崎 正昭 殿



   安倍内閣の基本姿勢に関する質問主意書

一 消費税について

1 安倍政権は、二〇一四年七~九月期の国内総生産(GDP)を基準として、年内にも二〇一五年十月からの消費税率十パーセントへの引上げを判断するとしている。アベノミクスによって、株価維持と景気回復を演出しているが、地域の実体経済は冷え込んだままであり、国民生活は疲弊している。二〇一四年四~六月期のGDPの改定値は、物価変動の影響を除いた実質で前期と比べて一・八パーセント減で、年率換算は七・一パーセント減となり、マイナス幅は、東日本大震災を挟んだ二〇一一年一~三月期(年率六・九パーセント減)を上回り、リーマン・ショックの影響を受けた二〇〇九年一~三月期(年率十五・〇パーセント減)以来の水準となった(内閣府九月八日発表)。消費税率引上げによる駆け込み需要からの反動減ともいわれるが、現在の景気の状況を政府としてどのように認識しているか。
2 大企業を中心に名目賃金は増加しているが、物価上昇がそれを上回っているため、実質賃金は十三か月連続でマイナスとなり、GDPの六割を占める個人消費は想定を超えて落ち込んでいる。JNN(TBS)の世論調査では、アベノミクスによる「景気回復の実感」について聞いたところ、八十五パーセントの人が「実感はない」と答え、「実感がある」と答えた人は十二パーセントにすぎない。さらに、地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するための関係法律の整備等に関する法律が成立するなど社会保障の切捨てが先行し、社会保障充実の約束は守られていない。安倍政権は、法人税減税に熱心だが、法人税率を一パーセント下げると国庫は五千億円の減収となり、十パーセント減税では消費税を十パーセントに引き上げても帳消しになりかねない。庶民の税負担を重くし、利益を得ている企業の言い分に従う不公平な政策は認められない。各種調査によると、約七割の国民が消費税率の十パーセント引上げに反対であり、消費税率の再引上げは断念すべきではないか、政府の見解を明らかにされたい。

二 地方創生について

1 人口減少や地方の疲弊は、外需依存や大企業の利益確保を優先する経済発展追求の帰結でもあり、成長神話を脱し、内需中心の持続的な産業構造へ転換すべきである。地方を創生させるというのであれば、格差拡大、大企業優先のアベノミクスとは逆の発想が求められる。人口減少や地方の疲弊は、これまでの自民党を中心とする政府の政策展開の帰結であることへの責任について、政府の見解を明らかにされたい。「地方創生」という前に、平成の大合併と三位一体の改革、小泉構造改革路線で、どれだけ地方が疲弊したのか、反省し検証すべきと考えるが、いかがか。
2 アベノミクスが引き起こす異常な円安は地域経済に大きな打撃となる。安倍政権の進める農業や地域経済破壊が懸念されるTPP交渉、地域社会の食と暮らしを支えるJAの総合力を弱めようとする農協改革、オリンピックを理由とした東京に対する重点投資、国土強靱化を理由にした公共事業バラマキも本来の地方の再生とは矛盾している。安倍政権の進めている政策と「地方創生」との矛盾について、政府の見解を明らかにされたい。

三 TPP交渉について

1 九月のTPP日米閣僚協議について、甘利明内閣府特命担当大臣は終了後に「柔軟性のある案を示した」と述べたが、どのような内容なのか。TPP交渉について衆参の農林水産委員会が昨年四月に行った決議は農林水産分野の重要五品目の関税撤廃対象からの除外・再協議を求めている上、四月七日の日豪EPAの大筋合意に際して自民党は同EPAの妥結内容がTPP交渉においても「越えられない一線(レッドライン)」であると決議しているが、甘利大臣が示した案はこれらの決議を逸脱したものと考えるが、いかがか。また、この「柔軟性のある案」が次回以降の日米交渉において大前提となり、米国側が更に踏み込んだ譲歩を日本に迫るおそれがあるのではないか、政府の見解を明らかにされたい。
2 安倍首相はTPP日米交渉について、昨年二月の日米首脳会談の際に「日本には一定の農産品、米国には一定の工業製品というように、両国ともに二国間貿易上のセンシティビティが存在する」と双方の国内事情に配慮することを確認しており、交渉に参加しても日本は不利な条件を飲まされることはないと主張してきた。しかし、日本が「柔軟性のある案」を示しても米国側が農産物や自動車部品について強硬姿勢を変えず、それどころかUSTR(米国通商代表部)のフロマン代表が「安倍首相の大胆な発想が交渉でも示されることを期待している」(十月二日の講演)と一層の譲歩を求めていることを考えれば、双方の国内事情に配慮という交渉参加の前提条件が既に崩れていることを物語っていると思うが、政府の見解を明らかにされたい。
3 日米間でTPPの二国間交渉を進めているが、米国政府が米国議会の持つTPA(貿易促進権限)をいまだに付与されていない事実をどう認識しているか。TPAが付与されないまま日米間で合意に至っても、米国議会や関係団体が合意内容の修正を求めてくるおそれが極めて強いと考えるが、いかがか。米韓FTA(自由貿易協定)の際も二〇〇七年の調印後、米国自動車業界などが合意内容に強く反発し、追加交渉で自動車関税撤廃期限の延長や環境基準の緩和など米国側の要求を韓国に受け入れさせた経緯があり、日米間においても同様の事態が起こるのではないか、政府の見解を明らかにされたい。

四 米価下落について

1 空前の低水準となっている米価について、西川農林水産大臣はナラシ(収入減少影響緩和対策)で対応する方針を示しているが、ナラシによる対応だけで十分と考えているのか。現状のナラシは収入が標準額から二割下落した分までしか補填対象となっておらず、大幅な収入下落にも対応できるよう対象範囲を広げるべきと考えるが、いかがか。また、ナラシ対象の支払時期が来年の五~六月頃と遅いため、農家の資金繰りが困難になりかねず大幅な前倒しを検討すべきと考えるが、いかがか。
2 米価下落の中で今年度からコメの直接支払交付金が半減され、米価変動補填交付金が廃止されたことは農業経営を一層厳しくしている。これらの措置を撤回すべきと考えるが、いかがか。

五 震災復興について

1 東日本大震災の「集中復興期間」について、政府は二〇一五年度までとしているが、復興は依然、道半ばであり、被災した多くの自治体から期間延長を求める声が上がっている。集中復興期間の延長と国の特例的な財政支援の継続を確約すべきと考えるが、いかがか。
2 復興交付金事業の計画期限は二〇一五年度までに限られ、繰越しも二〇一七年度までしか認められていないが、同交付金を二〇一六年度以降も延長するとともに、予定年度内にやむを得ず事業完了しない復旧・復興事業については必要に応じて弾力的に繰越しを認めるべきと考えるが、いかがか。
3 東京電力原子力事故により被災した子どもをはじめとする住民等の生活を守り支えるための被災者の生活支援等に関する施策の推進に関する法律に基づく被災者生活支援等施策の推進に関する基本的な方針を抜本的に改め、支援対象地域を福島県内全域と年間追加被ばく線量が一ミリシーベルトを上回る全ての地域に拡大すべきと考えるが、いかがか。

六 特定秘密保護法について

1 特定秘密の保護に関する法律(以下「特定秘密保護法」という。)の運用基準について二万三千件を超す意見が寄せられ、安倍首相は「寄せられた意見を検討し(修正案に)採用した」と述べた。しかし、①国家が秘密にする情報を明確化するよう求めた国際ルール「ツワネ原則」に基づいて全面的な見直しを求めること、②官僚がメンバーとなる監視機関の独立性や権限の強化を図ること、③「その他」や「原則として」を多用した曖昧な秘密指定基準を排除すること、④指定期間を終えた情報は全て公開すること、⑤市民活動や内部告発を処罰対象から外すよう明記すること、⑥通報窓口を独立した外部機関に設けたり匿名通報を認めるなど告発者を守る内部通報制度を強化すること、⑦特定秘密を扱う公務員や民間業者の精神疾患や犯罪歴まで調べるのは人権侵害であり情報漏洩との因果関係も疑わしいことなどの意見が、いずれも運用基準に反映されず、大きな修正が五年後の運用状況の再検討では課題の先送りにしかすぎないと考えるが、いかがか。国民からの意見に対して、どのような検討を行い、意見の採用・不採用の基準はどのようなものだったのか、明らかにされたい。また、パブリックコメントに寄せられた意見の過半数が法律の廃止や修正を求める内容だったことをどう受け止めているか、政府の見解を明らかにされたい。
2 十月六日の衆議院予算委員会(以下「予算委員会」という。)で安倍首相は、特定秘密保護法について「二重三重の仕組みによって、恣意的な、不正な運用はできないということになっている」と述べたが、具体的に法体系のどの内容を指して恣意的な、不正な運用のできない、二重三重の仕組みと言えるのか、明らかにされたい。
3 予算委員会で、内閣府に設置予定の独立公文書管理監について安倍首相は、「十分な検証に必要な権限を付与することを検討している」と述べたが、どのような「権限」なのか。「十分な検証に必要な権限を付与」と言うなら、特定秘密保護法の運用基準へのパブリックコメントに寄せられた、監視機関を官僚だけの組織にせず「民間人を登用すべきだ」との意見を採用すべきと考えるが、いかがか。
4 自民党は十月七日の総務会で、特定秘密保護法の運用基準と政令について了承を先送りした。同法が国民の「知る権利」を侵害する懸念が拭いきれないなどの指摘が出されたと報道されているが、具体的にどのような意見が出されたのか、政府の承知するところを示されたい。与党からですら懸念が示される法律の施行は凍結し、全面的に見直すべきと考えるが、政府の見解を明らかにされたい。

七 カジノ法案について
 政府は「統合型リゾート(IR)については、観光振興、地域振興、産業振興等に資することが期待される。」としてカジノを政府の成長戦略に位置付けている。カジノ施設(会議場施設、レクリエーション施設、展示施設、宿泊施設その他の観光の振興に寄与すると認められる施設を除く)の解禁による経済効果の根拠を明らかにされたい。

八 防衛政策について
 第百八十七回国会(臨時会)に、自衛隊装備の購入をより長期の契約でまとめ買いできるようにするために、国庫債務負担行為の上限を五年から十年に延長する「特定防衛調達に係る国庫債務負担行為により支出すべき年限に関する特別措置法案」が提出されている。既に二〇一五年度予算概算要求では、固定翼哨戒機P-1を二十機一括購入し、総額約三千七百八十一億円を七年契約で支払う等の項目が含まれている。長期の契約でまとめ買いをする等によって調達コストの縮減が可能であるのは自衛隊装備に限らないと考えられるが、防衛予算だけを特別扱いする理由を示されたい。

九 再生可能エネルギーについて
 再生可能エネルギーが想定以上に拡大したことで、事業者からの新規買取りを中断する電力会社が相次いでいる。二〇一二年に固定価格買取制度(FIT)が導入されて以降、民間投資を誘引してきたが、制度の立上がり期におけるこうした動きは、これまでの努力とコストを無にされかねず、事業者や自治体に大きな衝撃を与えている。政府がこれに対応する形でFITを見直し再生可能エネルギー普及に制約を課すことがあれば、政府の信頼を落とし、政策による民間投資誘導効果を著しく減じることともなりかねない。欧州のFITは再生可能電力の優先接続・優先給電とセットとなっており、負担の公平性も担保されているのに対して、日本はそうなっていないこと等が指摘されているが、こうした事態に至った原因について、政府の見解を明らかにされたい。

十 男女共同参画について

1 政府は、国や自治体、企業に女性幹部登用の目標設定や事業主行動計画の策定などを義務付ける「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律案」を準備中とのことであるが、それらは、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(以下「男女雇用機会均等法」という。)、男女共同参画社会基本法を改正することで可能である。なぜ、新しい法律をつくる必要があるのか。また、同法と現行の男女雇用機会均等法、男女共同参画社会基本法との関係について、明らかにされたい。
2 男女共同参画局は、内閣府本府組織令に設置根拠を有する局である。今回別途、すべての女性が輝く社会づくり推進室を設置する理由を示されたい。
3 前記十の2について、地方自治体には男女共同参画条例、男女共同参画計画等に関連する同様の会議がある。混乱を生じさせると考えるが、いかがか。
4 二〇一五年度から子ども・子育て支援新制度が始まる。地方自治体、保育所・幼稚園・認定こども園など事業所もその対応に追われている。その財源は消費税増税による七千億円程度を充てるとしているが、同制度実施には一兆円規模が必要となるとのことである。必要な財源は確保されたのか。また、確保されていない場合には、今後の見通しはどうなっているのか示されたい。
5 「女性が輝く」ためには、国連からも勧告をされたことのある選択的夫婦別姓制度の導入が必要と考えるが、いかがか。必要である場合には、導入の目途はいつ頃か示されたい。

十一 戦後補償について

1 朝日新聞が「慰安婦」に関する吉田清治証言を取り消したことによって、いわゆる「河野談話」や「村山談話」の内容の根拠が揺らぐことはあるか、あるとすればどの部分か示されたい。河野談話は、「長期に、かつ広範な地域にわたって慰安所が設置され、数多くの慰安婦が存在したこと」や「慰安所の設置、管理及び慰安婦の移送については、旧日本軍が直接あるいは間接にこれに関与した」ことを認めているが、この認識は安倍内閣においても変わらないか。
2 前記十一の1に関連して、河野談話及び村山談話は、「閣議決定その他の方法により示された政府の統一的な見解や最高裁判所の判例がある場合には、それらに基づいた記述」をするよう定めている現行の教科用図書検定基準に合致する「政府の統一的な見解」に当たるか。
3 「慰安婦」問題を小中高校の社会科教科書に記述すること自体が、教科用図書検定基準等の何らかの規定に反するおそれがあるか。あるとすればどのようなものか、示されたい。

  右質問する。