質問主意書

第187回国会(臨時会)

質問主意書


質問第二六号

原子力損害賠償紛争解決センターによる死亡慰謝料の算定に関する再質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十六年十月十六日

荒井 広幸   


       参議院議長 山崎 正昭 殿



   原子力損害賠償紛争解決センターによる死亡慰謝料の算定に関する再質問主意書

 私が平成二十六年十月二日に提出した「原子力損害賠償紛争解決センターによる死亡慰謝料の算定に関する質問主意書」(第百八十七回国会質問第一四号)に対する十月十日付けの答弁書(内閣参質一八七第一四号)(以下「答弁書」という。)が提出された。
 答弁書では、平成二十六年八月三十日付け毎日新聞朝刊が報じた原子力損害賠償紛争解決センター(以下「センター」という。)の内部文書の存在を政府が認めたが、その文書の性質は、「複数の仲介委員の間で意見交換が行われた際に、出された意見等を整理するために作成されたもの」との答弁にとどまり、東京電力福島第一原子力発電所事故(以下「原子力事故」という。)に伴う避難による死亡事案(自死を含む、以下同じ。)における精神的損害の算定(以下「死亡慰謝料」という。)において、センターが原子力事故による影響を事実上五割以下に抑えていたのではないかとの私の疑念に対し、十分な答弁を得られなかった。そこで、センターによる和解の仲介手続が、原子力事故により避難を強いられている被害者やその遺族の個別事情に応じた心の通った賠償であるべきとの思いから、政府の答弁書に関連して、以下質問する。なお、答弁に当たっては、国が被告ではない、個別の事案についての答弁は差し控える等の不誠実な答弁ではなく、原子力事故の重大性を踏まえて、被害者やその遺族の心に思いを寄せ真摯に答弁されたい。

一 質問五及び七に関連して、平成二十六年八月二十六日付け福島地方裁判所の判決では、自死と原子力事故との間には相当因果関係があり、原子力事故が自死原因に寄与した割合を八割と認定し、損害額を約四千九百万円とする判決を下している。この判決に対する政府の見解を示されたい。

二 質問五に関連して、答弁書では、「死亡慰謝料を和解対象の損害項目に含む事案として文部科学省がこれまでに把握できたものは百三十七件あり、これらを当該和解において勘案された死亡に対する本件原発事故の影響の大きさにより区分すると、当該影響が五十パーセントより大きいとしたものが約一割、五十パーセントとしたものが約四割、五十パーセント未満としたものが約四割、不明なものが約一割」であることが明らかとなった。センターによる和解の仲介手続において、原子力事故に伴う避難による死亡事案における死亡慰謝料の算定は、自死に対する原子力事故の影響を八割と認定した平成二十六年八月二十六日付け福島地方裁判所の判決に比して、不当に低い傾向があると考えるが、政府の見解を示されたい。

三 質問十二に関連して、政府は答弁書の中で、国際原子力機関(IAEA)が中心となって策定した基本安全原則を引き合いに出して、原子力発電所の安全確保の第一義的責任は事業者が負うべきとの考えを示している。しかし、第百八十七回国会における安倍内閣総理大臣所信表明演説において、「原子力規制委員会により求められる安全性が確認された原発は、その科学的・技術的な判断を尊重し再稼働を進めます。立地自治体を始め関係者の理解を得るよう、丁寧な説明、避難計画の充実支援などに取り組みます」と述べている以上、政府が「本件原発事故の反省の上に立って、国がこれまで原子力政策を担ってきたことに伴う社会的責任」程度の軽い責任のみという考え方の下、事業者に責任を押し付けることは許されないと考える。万が一再稼働後の事故により被害が発生した場合、政府も事業者とともに重い責任を共同で負うというのが常識的な考えであるが、政府の見解を示されたい。

四 質問十六に関連して、答弁書では、「「新たな指針」を策定するよりも、引き続き、本件指針に基づき、個別具体的な事情に応じて和解仲介手続が実施されるべきものと考えている」とあるが、このような政府の姿勢は、センターによる和解の仲介手続に対する国民の不信感を増大させ、今後、訴訟による紛争解決を選ぶ被害者が大幅に増えることが考えられる。センターの信頼回復に向けた方策について、政府の見解を示されたい。

五 質問十七に関連して、センターによる和解の仲介手続における医師等の関与について、答弁書では、「仲介委員が個々の事案に応じて適切に判断すべきものと考える」とあるが、現在までに医師等の意見を聴取したことがあれば、その件数を示されたい。聴取した実績がないのであれば、寄与度を五割以内に抑えるために聴取しなかったのではないかとの疑念が生じるが、政府の見解を示されたい。

六 質問十八に関連して、センターが提示した和解案を東京電力株式会社(以下「東京電力」という。)に可能な限り受諾させるための新たな仕組みの必要性について、答弁書では、「新たな仕組み等が必要であるとは考えていない」とあるが、平成二十三年度以降、原子力事故由来の東京電力を被告とする訴訟件数、うち既済件数、平均審理期間を最高裁判所、高等裁判所、地方裁判所、簡易裁判所別に示されたい。政府として、件数を把握していないとすれば、センターによる和解の仲介手続の実績をもって、その役割を果たしているとの説明は、裁判に訴えた被害者の方々の苦労や苦痛を理解しておらず、自己正当化しているに過ぎないと考えるが、政府の見解を示されたい。

七 質問十九に関連して、答弁書にあるように政府が、「被災者の方々の死亡と本件原発事故に伴う避難との間に相当因果関係が認められ、原子力損害の賠償の対象となる事案があると認識している」ことは、すなわち政府は、原子力事故に伴う避難により死亡した「原発関連死」の方々が存在することを認めるということでよいか、政府の見解を示されたい。

八 「災害弔慰金の支給等に関する法律」(昭和四十八年法律第八十二号)により、市町村の災害弔慰金支給審査委員会が認定した「災害関連死」の方々のうち、原子力事故に伴う避難による死亡事案の実態を把握しているのであれば、その数を明らかにされたい。把握していないのであれば、速やかに実態把握に向けた調査に乗り出すべきと考えるが、政府の見解を示されたい。

  右質問する。